48.本当のハードのボス
初めての6階は、思った以上に違いはなかった。
出てくる敵も構成も変わらずで、マーミンとキンちゃんコンビで瞬殺だった。
ただ予想外があるならば、ハードは経験値が美味しくて、もうすぐ14レベルになれそうなことだ。
(ここのボスでレベルアップかな。そうなったらラビィが進化に近づくし、今度こそバニーガール……)
「ファイアショット!」
魔物はしっかりと倒しているのに、ドロップログは何も表示されない。その意味はもうわかっているけれど、やっぱりレアアイテムというのは、そう簡単に手に入るものではないんだ。
「ああ、卵……」
「卵がでたの!?」
ラズベリーの言葉にかぶせるように、反射的に聞いてしまう。
「あっ、いえっ、卵がでないなって言いたかったんです」
僕じゃなくても卵が出れば、同じくらい嬉しくなれる。ついつい忘れていたけれど、イモキンマントはラズベリーに貸したままだった。
「早まった。卵がでたって言うと思っちゃった」
僕の言葉にラズベリーはニコッと返してくる。レアドロップが一つもなくても、なんだかウキウキとしてしまう。
「あっ、撃ち漏らした」
不意にマーミンの言葉が聞こえた。キンちゃんも示し合わせたかのように、1体のミニタウロスが僕に向かってきている。
「突進、アクアランスナァ!」
不意を打たれた僕をカバーするように、ラビィがいつものコンボを決める。でもハードのミニタウロスは耐久力があるようで、それだけでは倒せなかった。
「ムーンスピア!」
僕の追撃で、ミニタウロスは多角形の板になって消えていく。
「ごめん。ぼーっとしてた」
「私がいるから油断するのもわかるけれど、ここは迷宮なのよ。レアハンター!」
てっきり僕がラズベリーと話しているのが、気に入らないのかと自惚れそうだったけれど、単純にいつものロールプレイみたいだ。
「目が覚めたよ。ここからがレアハンターの真骨頂さ」
「ラルさん……」
「よっし、ここから気合い入れていくわよ!」
マーミンは敵が弱すぎて、ちょっと気を抜いていたみたいだ。僕は最初っから気を抜いていたようなものだし、それを非難するつもりもない。
何しろ僕は、この迷宮に入って初めて魔法を当てた気がする。
いまさらかもしれないけれど、本当に気合を入れていこう。
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「とはいえ、魔物が軟弱だわ」
ほんの数分歩いただけで、気合を入れたはずのマーミンが、またちょっと気を抜いている感じになった。
「うーん。もう少し変化が欲しいよね」
「そうですね」
みんなも少しだれてきた所で、通路が意外な変化を見せていた。
「みんな止まって!」
「ラル? どうしたの」
僕は識別でもう一度通路を確認する。
「やっぱりだ。この通路には罠がある。どんな罠かまではわからないけれど、間違いなく罠があるよ」
「えー、こんな何の変哲もない通路に罠とか、普通はありえないでしょ」
「魔物さんたちも通れないですよね」
ただの通路に脈絡もなく罠なんて、普通は設置しないだろう。感知スキルがあるから、このゲームではありかもしれないけれど、大抵は嫌がられるシチュエーションだ。
「でもこの位置なら、マップ的に迂回できそうだよね」
「んー、そうね。他の道を行きましょう」
「はい」
僕らはいま来た通路を戻る。せっかく罠に気がついたのだから、無理に罠解除にチャレンジする必要もないのだ。
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どうやら6階以降は罠があるようで、識別に何度か反応があった。
一度罠にかかったけれど、一撃死なレベルではなく、ちょっと矢が飛んできた程度ですんだ。
罠の凶悪さがないことから考えると、おそらくは罠解除の練習用に設置されている気がする。スキルは使用しなければレベルがあがらないから、こういうゾーンを準備しているのだろう。
ただ中ボス以降にそんなゾーンを作成しても、気軽に練習には来られない。解錠や罠解除のスキルをあげるのは、なかなかに難しそうだ。
「っと。やっぱり大した罠じゃないわね」
マーミンが僕の注意を気にせずに、あえて罠に突き進んでいた。今回も弛く壁から矢が飛んできただけなので、マーミンのローブで防ぐことができていた。
「大した罠だったら危ないでしょ? そのローブがどれだけすごいかわからないけど、もっと警戒しようよ」
「私もそう思います。無事でも怖いです」
僕らの言葉に、マーミンが振り返る。
「安心なさい。伝説の魔女に不可能はない。何しろこのローブは、付与までした防御力32の逸品よ」
おぉっと思わず感嘆の声が漏れた。サクラの革装備を全部合計しても、このローブに追いつけない。元が2くらいだとしたら、付与で30も上がっていることになる。
もしかするとローブだから、裁縫の最初の方で作成できるのかもしれない。だとすればプラスが付いて基礎値が高くなるはずだから、そこそこの付与でも可能な気がした。
(防御力の上がる付与は、僕はまだ持っていないけれど、そういうのもあるんだな)
「私の別キャラの金属鎧くらい硬いです……」
「裁縫が得意な人に、大金を払って作成してもらったのよ。でもその金属鎧って店売りでしょ? プレイヤーの生産品は良いものができる可能性が高いからね」
やっぱり生産特化の人はいるみたいだ。でもそういうのは別にして、自分の召喚獣の装備は、自分で作成しておきたい。
「すごいんですね」
ラズベリーはもふもふを求めていたけれど、それ以外はあまり気にしないようだ。
しかし、まさかこのメンバーで一番硬い防御力を持っているのが、マーミンだとは思わなかった。
まさしく装備は見た目では判断できないことの証明だろう。
そんな話をしていたら、通路の奥に階段を見つけた。
「ほら、7階への階段を見つけたわ。罠がなければ、意外と近いのよ」
運が良かったのか、マップを埋めたところで階段が見つかった。マーミンが無茶をしたことが、時間の節約になった気がする。
「マーミンのおかげだね。でもあのやり方はこっちが怖いよ」
「私もそう思います」
「わかったわよ。もうやらないから安心してね」
7階に何があるのかはわからないが、マーミンはそう言ってくれた。
でも罠を見つけたら、またやりそうな気がするけれど、その時はムーンシールドで援護しよう。
罠に突撃するのが衝撃で、ムーンシールドのことすら思い出せなかったけれど、きっと役に立つはずだ。
「よし、行くよ」
「オーケー」
「はい」
僕らは7階への階段を降りていく。
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7階はボスフロアだった。ノーマルの時に見た扉以上に、きらびやかな装飾がされている。
「ちょっと回復待ちだわ」
「んっ、そこは万全にいこう」
マーミンは魔法を使い通しだったから、少し消耗しているようだ。でも魔法力は時間で回復するので、ここで休憩すればじきに満タンになるだろう。
「初めてだから、ボスの特徴もわからない。臨機応変でよろしく」
「オーケー」
「はい」
マーミンは余裕の顔だけど、ラズベリーは少し心配そうな顔だった。
「状況を見てお願いするから、よろしくね」
「はい」
そう声をかけただけで、ラズベリーの表情と声が明るくなる。
基本的にできることは限られている。その中でいかに全力を出すかが、勝負の分かれ目だと考えていた。
「休憩完了。いつでもいいわよ」
「よし。それじゃ、中に入るよ」
「オーケー」
「はい」
二人の返事を確認してから、僕は豪華な扉に触れた。
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いつものようにボスルームへと転送される。
目の前には邪妖精長がいた。念のため後ろを確認したが、なぜか1体しかいない。
(名前も一緒だ。中ボスよりも難易度が低いのか? いや、まさかね……)
「ウーキャ、ウーキャ、ウーキャッキャー」
聞きなれない叫びを上げながら、邪妖精長は左右に揺れながらふわふわとしていた。まだ体が動かないので、イベント中なのはわかるけれど、一体何が起こるのだろう。
「魔法陣だわ! 何か来るかも!」
床に大きな文様が描かれる。いかにも魔法陣なその上に、白い光が集まっていった。
「これって召喚魔法かな」
「ウーキャニャニャニャー!」
辺りが光に包まれた。やがて光が落ち着いてから、眼を開けて確認すると、そこに邪妖精長はいなかった。代わりに大きめのミニタウロスがいたのだ。
「あっ、名前はタウロスだって。ミニじゃなくなったんだ」
「ふーん。可愛げが消えて、ちょっと野性的になったみたいだわ」
「おっきい……」
ミニは子供より少し大きいくらいだったけれど、タウロスは人間の大人よりも大きいくらいだった。しかも両刃の斧までも、サイズに合わせて大きくなっている。
「ガモォ!」
それが戦闘開始の合図らしい。体が動くようになった。
「獣か牛か、微妙な叫びね。ストーンニードル!」
いつものファイアショットではなかった。
「ウオォォォォン!」
キンちゃんの咆哮でも、タウロスは怯んだ様子はない。そのタイミングで魔法が着弾したが、なんのダメージも与えていなかった。
「レベル以下無効スキルだわ」
「ウィンドアロー!」
ラズベリーの放ったR5の魔法ならば大丈夫らしく、着弾した左手から、多角形の板が飛び散った。
「ならムーンスピア!」
「アクアランスナァ」
生憎と僕の魔法は斧で弾かれてしまったが、ラビィの魔法は着実にダメージを与えていた。
「ガモォ!」
「我に当てられると思うでないわ!」
振り下ろされた両刃の斧を、まさしくヒラリとキンちゃんはかわす。でも攻撃はしない。スキルではない普通の叫びを混ぜながら、タウロスの興味を引いていた。
「ウガァァァァァ!」
そこにいつもよりも大きな声を出しながら、サクラがタウロスの足へと斬りつける。
その一撃はいい感じにダメージエフェクトを飛び散らせていた。
「んっ?」
識別でタウロスの頭に弱点マークが見えた。
「頭だ。頭を狙うんだ!」
「ウィンドアロー!」
「ファイアランス!」
当たるはずの魔法を、タウロスが斧で防いでしまう。
「やっかいな斧だ!」
あの斧を封じなければ、飛翔系の魔法は防がれる可能性が高い。このままマーミンの魔法まで止められ続けたら、負けないにしろ長期戦になりそうだ。
「ウガァァァ」
斧を持ち上げた途端、サクラが足へと攻撃する。注意が移ったのか、サクラめがけてタウロスが斧を振り下ろそうとした。
「ムーンスピア!」
その時、僕はひらめいた。サクラを守るために、斧に向けて魔法を放つ。
僕の魔法は斧へと飛んでいく。斧に当たった僕の魔法は、一瞬、ほんの一瞬だけタウロスの動きを止めた。
「一瞬でいい。僕には頼れる仲間がいるんだ」
「アクアランスナァ」
「ファイアショット!」
「ウィンド、ああ、リキャストタイムが……」
ラズベリーだけは魔法を使えなかったけれど、アクアランスとファイアショットが、タウロスに向けて飛んでいく。
一瞬という僅かなすきをついて、頭に魔法が着弾した。
「モゴォ……」
いくつもの多角形の板を飛ばしながら、タウロスはそのまま消え去った。
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裁縫レシピ:人魚の手袋 を手に入れました
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ドロップ表示が出たということは、このアイテムはアンコモン以上だということだ。
(裁縫レベル7が必要なレシピだ。妖精が空、精霊が草、そして人魚の水ってところかな)
「ドロップは外れだわ」
「私は持っていない風魔法だったので、いい感じです」
すでにキンちゃんの毛に埋まっているラズベリーが、埋まりながら言葉を発した。
その事実を知らなければ、キンちゃんが話しているように見えるかもしれない。
「僕はレシピだったけれど、裁縫レベル7が必要だから、しばらくは無意味だよ」
「しばらくはって、裁縫をやるつもりなの?」
「その予定だよ。ラビィやサクラの装備を作成したいんだ」
鍛冶から考えれば、かなり遠い気がする。レベル5までは簡単だとしても、そこからの大変さは体験ずみだ。
「なんだかハードも余裕だったね」
「ナイトメアに行くわよ!」
この感じからすれば、ナイトメアでも行けそうな気がする。
「行ってみようか」
「行ってみたいです」
全員の意見が一致したので、僕らは一度迷宮から脱出した。




