47.ハードのボス
キンちゃんとマーミンのおかげで、道中の敵は余裕だった。僕もラビィもサクラも手を出す暇もなく、すぐに魔物を討伐していた。
「マーミンさんの魔法ってすごいですね」
「そうでもないわ。魔法使いはこれが得意分野だから」
ラズベリーの言葉に、マーミンはなんでもないという感じに答えた。
そんな話をしていても、マーミンの魔法は止まらない。あそこに魔物だなって思ったら、魔法が飛んで行くという感じだ。
「牛に負ける我ではないわ!」
キンちゃんもいい感じにノっている。最初に突進してからの咆哮。これも安定した戦闘の秘密だった。
そうやって迷宮を進んでいると、豪華な扉にたどり着いた。
「やっと着いたみたいね」
「ボスは変わらずに5階なのかな」
ノーマルと同じ5階に豪華な扉があった。でもよく見ると、ノーマルのボス部屋ほど、装飾が施されている感じがしない。
「ノーマルのボス部屋の扉と比べると、なんだかあっさりした感じですね」
ラズベリーも僕と同じ感想みたいだ。
「ボス部屋ではないのかな」
「どっちでもいいじゃない。入ればわかるでしょ」
僕のつぶやきに、マーミンが待ちきれないと言った感じで言葉をかぶせてくる。
「それもそうか。一応注意していくよ」
「はい」
「オーケー」
僕はそのまま扉に触れた。
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ふっとワープしたことから、ここがボス部屋だと予想できる。
まだ動けないうちに確認すると、ノーマルのときと同じように、邪妖精長がふわふわとしていた。
「油断しないで。後ろにもいるわ」
マーミンの言葉に振り返ると、そこにも邪妖精長がふわふわとしている。
「挟み撃ちか……」
「ど、どうしましょう」
予想外の展開にラズベリーが慌てだす。
ラズベリーを落ち着かせるという意味でも、作戦が必要だった。
でもマーミンが楽しそうにしているのは心強い。僕もそうだけれど、目的が困難であればあるほど、なんだか燃えてきてしまう。
「マーミンは前にいる邪妖精長に全力攻撃。キンちゃんは後ろのボスにアタックだ。他のメンバーはマーミンの攻撃するボスを優先で、キンちゃんはそれまでうまく耐えてくれ」
「オーケー」
「主以外の命令は……」
「キンちゃんお願い!」
「承知! おまかせあれ」
この状況でも忠実な騎士っぷりだったが、ラズベリーがたしなめてくれた。ラビィの『わかったナァ』がないのは寂しいが、魔物言語を持たない人がいると、召喚獣は積極的に話さなくなってしまう。
でも僕の指示を理解してくれたのは感じられた。
「ウキャニャニャニャー!」
ボスが同時に叫びを上げる。
「ファイアショット!」
「ウオォォォォン!」
「ムーン……」
魔法を使おうとしたときに、信じられない光景が目に入る。
「ハードなのに、ボスが……一撃?」
ノーマルのときと同じように、邪妖精長に火の塊が5つ弾け、そのまま床へと落ちて消えた。
「伝説の魔女に不可能はないのよ!」
冷静にマーミンとのレベル差を考えれば、この結果も当然だろう。ハードが20レベル適正だとしても、マーミンはすでに30オーバー。しかも優秀な魔法使いなのだ。
ボスがいなくなったので、背後の邪妖精長へと、僕らは目標を変更する。
「アクアランスナァ」
「ウィンドアロー」
「ファイアランス」
「ムーン……」
喜ぶべきことなのだけど、マーミンのファイアランスがとどめになった。邪妖精長はたくさんの多角形の板を撒き散らしながら、床へと落ちて消えていった。
(僕、ハードで攻撃したかな……)
「完璧よ!」
「やりましたね。キンちゃんもよく頑張ったわ」
ラズベリーはそのままキンちゃんの毛の中へと潜ってしまう。いつもどおりの光景だけど、なんだかほっこりしてきた。
(そういえばドロップログがなにもでてないけど、ってそういうことだよね……)
パンっとマーミンが手をたたく。
「ハードの初制覇よ。ラルやラズは何をドロップしたの?」
いつの間にかラズベリーの呼び方が、ラズになっていた。文字に書くと名前が似ているけれど、呼ばれると全然違うから気にはならない。
「僕は精霊装備のレシピだったよ」
ログに出なかったとおり、まさかのコモンレシピだった。
「あっ、私は精霊のスカートです」
キンちゃんの毛の中から顔を出して、ラズベリーがそう答えた。
「装備そのものがでたの?」
「はい」
せっかくレシピがあるのに、なんで直接ドロップするんだろうと考えたら、すぐに答えを思いついた。
(付与できないパターンだね。きっと)
「マーミンさんは何をドロップしたのですか?」
「ふふふっ」
そう笑うと、ドラムロールでも聞こえてきそうなくらいに何も言わない。なかなか話してくれそうもないので、僕がそれをしてあげる。
「ダララララ……」
マーミンはそれを待っていたらしく、満足気な表情になる。
「ダンッ」
「ゴッデスヒールの魔導書よ!」
悪くはないけれど、ドラムロールをするほどでもなかった気がした。
「って言うか装備を直接ドロップとかしたら、私のドロップが霞むじゃない」
「そ、そんなこと言われても……」
「ねぇ、ラズ。せっかくだから精霊のスカートを装備して見せてよ」
「いいですよ」
ひょいっとキンちゃんの毛の中からでてくると、スタッとラズベリーは着地する。何度も潜り込んでいる間に、入るのも出るのもうまくなったらしい。
「それじゃあ、はい」
ラズベリーは精霊のスカートと、妖精のブラウスに同時に着替えた。
「ちがう。私はラズのブラが見たかったのよ!」
「だめに決まってるじゃないですか」
マーミンは同じ女性なのに、ブラ姿が見たかったらしい。でも当然ながら、良いですよなんて言うわけもない。
そういう女同士の会話みたいなものは、僕のいないときにして欲しい。そんなやり取りは不毛になりそうなので、話を変えてしまおう。
「ブラウスは空、スカートは草原だね。すごく似合っているよ」
「えっ、ありがとうございます」
精霊シリーズは、きっと緑がイメージなんだろう。精霊っぽい気もするし、悪くはない感じだ。なにより着ているのがラズベリーだし、なんだかすごくネイチャーに感じた。
「似合っているけれど、どうせなら縞パンとブラでさ……」
「あーあー、もう知らないです」
縞パンの記憶がまだ恥ずかしいのか、ラズベリーは両手で耳をふさいでしまった。
やっぱりそういう会話は、僕がいない時にして欲しい。
どうしようかと思っていたら、ちょうど奥に階段を見つけた。
「あれ、まだ先があるみたいだね」
「えっ、本当?」
僕の言葉に、真っ先にマーミンが反応する。
「つまり今のは中ボスで、真のボスは先にいるってことよね」
「ワクワクしますね」
「そこに何がいるのか、僕らの手で暴いてやろう」
未知なる階層に燃えてくる。どうやらみんなも、ワクワクしているようだ。




