45.ノーマルの邪妖精長
順調に魔物を倒して進んでいると、ふと小さなことが気になってきた。
「ねぇ、マーミンは紫色のローブを着ているけど、その下は何を着ているの?」
「何も着てないわよ」
うっと返事に詰まってしまう。この場合の何も着てないは、決して裸というわけではない。すべての装備を外しても、必ず下着は身につけているからだ。
「好きでそうしているわけではないわ。ワンピースもそうだけれど、ローブって上下の装備枠に入るでしょう? だからローブは鎧であり、スカートでもあるの」
そう言えば前にラビィが、ワンピースからスカートに装備を変えた時、上半身の装備がなくなったことがある。
つまり今のマーミンがTシャツを着れば、下半身は下着だけになるってことだ。
「へー。そうなんだ」
内心でドキドキしながらも、僕は平静を装って答える。
「体を覆うマントでも似たような格好になるから、できればそっちがいいよね」
「そうだね」
という他愛もない会話をしていると、ついに最下層のボス部屋の前まで来た。
「いよいよですね」
レベルも強さも十分だと思うけれど、ラズベリーの声が少しだけ震えていた。それは不安からなのか、興奮からなのかは判断できない。
「さっさとやろうよ。ラル、扉に触って」
「ん、行こうか」
「はい」
僕が扉に触れると、いつものように部屋の中へとワープする。
イベント的に体が動かない間に、僕はボスの攻略法を説明した。
「ここのボスは攻撃すると空へと逃げる。その後に風の範囲魔法を使ってくるから、ボスの背後に隠れるんだ。そして降りてきたところを攻撃、空に逃げる、後ろに回るを繰り返して攻略する」
「はい」
「オーケー」
やがて『ウキャニャニャニャー!』っとボスが叫ぶ。
それが戦闘の合図なのだ。僕はボスから少し距離をとった。
「ファイアショット!」
マーミンは先制で魔法を使っていた。この魔法は最大で5つの火の塊を作成し、それを複数、もしくは単体へとぶつける魔法だ。
レベル6で覚えられる、いわゆる中級の魔法だった。
(綺麗だな)
初めて見る火魔法は、怖さよりも美しさがあった。火の塊が軌跡を残しながら、一つづつ邪妖精長へと着弾する。その一つ一つが当たるたびに、綺麗な多角形の板が飛び散った。
邪妖精長が空へと逃げようとしたが、なぜか力なく地面へと落ちてしまう。
「えっ」
「あれっ」
昔の僕でも数ターンだったのだから、ランキングに載るほどの魔法使いならば、この結果もおかしくはない。
「伝説の魔女に不可能はないのよ!」
マーミンが右手を顎に当て、左手は腰に添えて、なにやら決めポーズをとっていた。それが滑稽ではなく、格好良く見えるのは、言葉と実績が伴っているからだろう。
「ノーマルに敵なしだね」
せっかくのボス討伐だったのに、ドロップログを消していたのは残念だった。でもパーティで倒していたらログが埋まりそうなので、コモンドロップは表示しないという設定に変えておこう。
「あっ、妖精のブラウスがドロップしました」
「おめでとう」
「いいな、私は精霊のチュニックのレシピだって」
そのレシピは僕がファームした経験から言うと、レシピの中でもレアな方だ。マーミンは運がいいタイプかもしれない。
自分のドロップを確認してみたら『精霊のスカート』のレシピだった。被りまくって捨てたくなるレシピだけど、ドロップしたものは大切にしておこう。
「もしかしてこのブラウスって、ラビィさんの着ているのと同じですか?」
「同じだナァ」
ラビィの言葉を確認すると、ラズベリーは早速妖精のブラウスに着替えたみたいだ。
「おそろいだナァ」
ラビィはそっとラズベリーに近づいて、二人で並んで僕らに見せてくる。
でもこれはまずい。
ラズベリーの元の装備はワンピースだ。なのに上だけを装備変更したら、下半身がとんでもないことになってしまう。
(青と白の横ストライプ……)
「よく似合っているわ」
マーミンはなんとも思わないのか、普通に感想を言っていた。
「ありがとうございます」
ラズベリーも笑顔で言葉を返す。
「特にその縞パンが可愛いわ」
「えっ、あっ、きゃあ」
楽しそうなマーミンの言葉で、ラズベリーはしゃがみこんでしまう。そしてすぐに元のワンピースへと戻った。
「ま、街の中でなくて、よかったよね」
僕のフォローの言葉も、いまいちうまくなかったようだ。
ワンピースに戻ったラズベリーは、ズボッとキンちゃんの毛の中へと入ってしまった。
「主、お似合いですぞ。恥ずかしがることなどありません」
そのキンちゃんが、とどめを刺しているような気がした。
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ラズベリーが立ち直るまで、なかなか毛の中から出てこなかったけれど、マーミンと魔法の話をしているうちに、すっと外に出てきた。
「お、お騒がせしました……」
「いいのよ」
「全部揃えればいいのさ」
僕の言い方が悪かったのか、ちょっと顔を赤くしてラズベリーは俯いてしまう。
「はい」
小さいけれど返事が聞こえたので、しばらくすれば気にしないようになってくれそうだ。
「お待ちかねのハードチャレンジよ!」
マーミンはもともと気にしていないのか、心はハードモードみたいだ。ここでもやもやしていても仕方がないので、僕もその勢いに乗らせてもらう。
「よっし、ハードにチャレンジするよ!」
「はい」
僕はダンジョンメニューから、邪妖精の迷宮ハードを選択する。
そうやってついに、僕らはハード迷宮に挑戦するのだ。




