44.パーティでの邪妖精の迷宮挑戦
懐かしい森のポータルに着いたら、目の前にマーミンが立っていた。
前に会った時と同じ感じで、三角帽子に紫のローブ姿だった。
「久しぶり。その子がお友達なの?」
「初めまして。召喚師のラズベリーです」
ラズベリーの自己紹介に、マーミンの眼がキラリと光る。
「丁寧な挨拶ありがとう。私はマーミン。伝説の魔女マーミンよ」
「えぇ!」
おとなしそうに見えるから、こういうノリはスルーしそうだったけれど、意外にもラズベリーは乗ってきた。
「魔法使いランキング4位のマーミンさんですか!?」
伝説の魔女はスルーらしい。
「えーっと、そうね。元4位のマーミンよ。最近はレベル上げもしていないし、きっとランキング外じゃないかな。よろしくね。ラズベリー」
「はい。よろしくおねがいします」
とはいえ、ロールプレイみたいなノリは、ラズベリーも嫌いじゃないはずだ。一緒に『鉱山迷宮』でボスと戦った時、なんかそれっぽいセリフを言っていた気がする。
「あれ? 我は王国の騎士にして……」
「あわわわ」
突然ラズベリーがキンちゃんに跨りながら、僕の口を塞ぐようにして慌てだした。
「ふふっ、仲が良いのね。パーティを組んだら、村へ移動しましょう」
「はい」
「そうしようか」
リアルでは体験できない、美女たちとの会話だけど、美化機能を使う前は普通なのだと想像して、自分の気持ちを落ち着けた。
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マーミンはハードに挑戦したがっていたけれど、最初はノーマルにしか行けない。一度クリアすれば行けるので、最初のノーマルは様子見気分になるだろう。
そうやって久しぶりに『邪妖精の迷宮』に入ったら、最初の敵が変わっていた。
「あれ、邪妖精が3体もいる」
「パーティを組むと、強さはそれほどでもないですが、数が増えるみたいです」
「そうなんだ」
「まずは我が先陣といこう」
さうがに迷宮内では、ラズベリーも騎乗していない。キンちゃんが邪妖精に向けて駆けていった。
「ウオォォォォン!」
森狼王だった頃のスキルも健在のようだ。
動きを止めた邪妖精を突撃で屠り、さらに一体に噛み付いて倒していた。
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妖精の粉×1
幻エッセンス×3
妖エッセンス×1 を手に入れました
妖精の粉×1
幻エッセンス×1
妖エッセンス×4 を手に入れました
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懐かしいドロップだ。
「ファイアランス」
残った一体に、マーミンの魔法が飛んで行く。
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妖精の粉×1
幻エッセンス×1
妖エッセンス×2 を手に入れました
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昔の僕で余裕だったのだから、このメンバーなら誰か一人になっても殲滅できる。
「嘘みたいに余裕だね」
「キンちゃん格好いい」
「伝説の魔女がいれば、どんな迷宮も余裕よ」
戻ってきたキンちゃんに、ラズベリーは上半身を埋めていた。
マーミンは冗談で言っているのだろうけれど、本当にそうかもと思ってしまいそうなところがすごい。
「この隊列で進んでいこう」
「はい」
「オーケー」
通路を進んで魔物を発見したが、やはり邪妖精の数は3だった。どうやらすべての場所で、数が増えているらしい。
「ところでキンちゃんだけど、どんな感じのステータスなの?」
「幸運以外のステータスが100を越えていて、固有スキルに突撃と咆哮があります」
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妖精の粉×1
幻エッセンス×3
妖エッセンス×1 を手に入れました
妖精の粉×1
幻エッセンス×2
妖エッセンス×2 を手に入れました
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「ウィンドブレイド」
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妖精の粉×1
幻エッセンス×1
妖エッセンス×4 を手に入れました
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話の邪魔になるから、今だけドロップログを止めておこう。
それは良いとして、ラズベリーの発言は衝撃だった。いくらボスだったとは言え、最初から100越えは、あまりにも無敵な気がする。
「ただ経験値バーが全然伸びないんです。レベルを一つも上げられないかもしれません」
「そうなのか……」
レベルが上がらなければ進化もできない。キンちゃんは強いけれど、召喚師としての楽しみは少し減ってしまう。
でも騎乗もできる、能力値も高い。エッセンスの影響なのかは、と言うか何のエッセンスを入れたんだろう。
「エッセンスはどうしたの?」
「もちろん獣エッセンスをマックスです」
もふもふ好きのラズベリーには、愚問だったかもしれない。よりもふもふを求めて、迷いなく獣エッセンスを選択したんだろう。
「アクアショット」
どうやらマーミンはたくさんの属性が使えるようだ。
でもやはりキンちゃんの能力が突出している。咆哮を使って注意を引いて、攻撃されれば華麗にかわす。
そんなタンクもできそうだ。
「ストーンニードル」
まさかの4属性。マーミンは火水風土の4つ全てを扱うらしい。
(スキル上げ大変だろうな。あっ、だから全部使っているのか)
ランキングの基準はレベルだから、今のマーミンは載っていないのかもしれない。でも強さで言えば、間違いなくトップクラスと言えるだろう。
おそらく一撃で全部倒せるはずなのに、キンちゃんが魔物から注目されるようになってから攻撃しているし、この余裕の状況でも、立ち位置に気を使っているのがわかる。
(プレイヤースキルが高そうな感じだ。できればレジェンドクエストも、一緒にやって欲しいな)
「ラル。少しは戦いなさいよ!」
「あっ、ごめん。マーミンに見とれてた」
「えっ、まあ、なら戦わなくてもいいわ!」
マーミンの顔が少し赤い。思わず歯の浮くセリフを言っちゃったけど、悪くはなかったらしい。
「サクッとクリアして、ハードをがんばろう」
「ならラルもって、やっぱりいいわ」
いつのまにかマーミンから呼び捨てにされているし、なんとなく距離が近づいている気がした。




