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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
戦力が足りない
43/176

43.まさかの卵

 ラズベリーは僕がいない時にプレイしていたのか、9レベルにまでなっていた。そのレベルならば、この森は適正レベルと言えるだろう。


 森の奥を進んでいると、すぐに森狼が現れた。

 

「ウィンドブレイド!」 

 

>>>>>>>

森狼の牙×1

獣エッセンス×2 を手に入れました

<<<<<<<

 

 細かな違いはわからないけれど、少し余裕な感じに見える。きっと一人で戦いながら、森狼との戦闘に慣れたのだろう。

 

「何度か討伐したのですが、やっぱり卵はドロップしなかったです」 

 

 何体討伐したのかは聞かないけれど、卵ドロップは茨の道で間違いない。でもドロップさえすれば、召喚師の本領が発揮できるのだ。

 

「そのうち出るさ気分でやるのが、ちょうどいいと思うんだよね」


 自分の時は『出ろ!』とか言っていた気がするけれど、パーティを組みながら『次こそ出ろ』とか『卵を頂戴!』とかは言いにくい。

 

「リラックスですね」

「そう。リラックスだよ。って、ムーンボム!」


 2体が僕に向かってきた。と言うことはいつもの集団戦闘だろう。

 

 ラズベリーも慣れているし、集団戦闘でも危なげなく戦えた。

 

 13体くらい倒したが、それでも卵は出ない。


「卵はなしか……」

「ラルさん!」


 ラズベリーが指差す方向を見ると、いつか見た一回り大きい森狼がいた。

 

「森狼王だ。咆哮に気をつけて!」

「ウオォォォォン!」


 言ってから思ったけれど、せめて耳を塞いでと言うべきだった。

 

 でも前と違ってサクラは耐えている。ラズベリーは硬直しているみたいなので、10レベル以下は影響を受け易いのかもしれない。

 

「しばらく硬直するけど自然に解ける。その間は任せて。ムーンブラスト!」 

 

 森狼王の戦略はわかっている。初撃の魔法を躱しつつ、誰かに突撃してくるのだろう。


「突進ナァ」 

 

 思った通りに森狼王がその場から消えたと思った瞬間、ラビィも突進を使っていた。

 

「ラビィ?」 

 

 思わずラビィがいた方へ視線を向けると、そこに森狼王がいた。どうやらラビィは森狼王の突撃を、自分の突進で避けたらしい。

 

「ナイスだラビィ。ムーンシールド!」 

 

 一度戦闘を経験しているから、森狼王が何をするかはある程度推測できた。僕はラズベリーと森狼王の間に、ムーンシールドを展開する。

 

 ガンっとムーンシールドに、森狼王がぶつかっていた。

 

「やると思ったよ」 

 

 以前はサクラに突撃していた。もし同じ行動をするのなら、間違いなくラズベリーを狙うだろう。

 

「ムーンスピア!」 

「アクアランスナァ」 

 

 前回も突撃を連続で使ったのは、最初だけだった。予想通りに、二つの魔法は森狼王へと直撃する。

 

「ウィンドブレイド」 

 

 硬直から解放されたラズベリーが、近距離で魔法を放つ。もちろん森狼王は避けられず、気持ちよくダメージエフェクトが飛んで行く。

 

「ウガァ」 

「ウオォォォォン!」


 サクラの動きが一瞬止まる。ラズベリーは再び硬直した。

 

(前と同じパターンならば、ここで突撃を使って逃げるはずだ) 

 

 サクラの小鬼小刀は、やはりそのまま空を切った。

 

「逃がさない!」 

 

 僕はそれを追いかけて、キーンソードを振り下ろす。

 

「アギャァァァァ……」 


 パーンと派手に多角形の板が飛び散ると、森狼王は断末魔とともにスッと消えていった。

 

「よし。完勝だ!」 

 

>>>>>>>

森狼王の手袋×1

妖エッセンス×4

獣エッセンス×8 を手に入れました

<<<<<<<

 

 生憎ドロップは前と変わらない。正直二つもいらないけれど、無事に倒せたことを喜ぼう。

 

 硬直は大丈夫かなとラズベリーを見ると、戦闘は終わっているのに、なんだか青い顔をしている。

 

「ラズベリー、大丈夫?」 

「あんまり大丈夫じゃないかも……。あの、これ……」


 ラズベリーが手に持っていたのは、緑色の不思議な模様が入った卵だった。その卵はラビィやサクラとも違い、少し大きく見える。

 

「まさか、これ……」 

「森狼王の卵です」


 王って卵になるのかよっと心のなかで叫びながらも、喜びしか沸いてこない。ラズベリーがあれ程欲しがっていた森狼の卵を、ついに手にいれたのだ。

 

「おめでとう、ラズベリー。やったじゃないか!」 

「ありがとうございます!」

「おめでとナァ」

「ウッガガァ」


 さっきまでは青かったラズベリーの顔が、興奮してきたのか赤くなってくる。どうやら驚きすぎて、最初は怖くなっていたらしい。

 

 今は元気に飛び跳ねていた。


「初めての契約だね」

「はい。あー、なんだかドキドキします」


 気持ちはよく分かる。僕はラビィの時も、サクラの時もドキドキだった。なによりエッセンスの要素があるから、望みどおりになるかどうかも不安になっていた。

 

「そうだ。契約にはエッセンスが使えるんだ。それによって進化の可能性や、契約時の姿が変わるから、よく考えたほうが良いよ」 


 ただ王の卵なんて情報は持っていないから、何がどうなるのか楽しみでしかない。僕の卵じゃないけれど、なんだかワクワクもしてくる。

 

 と思っていたら、森狼王の卵へと光り輝く小さな玉が吸い込まれていった。この様子から想像するに、何かのエッセンスを1種類だけ使ったのだろう。


 バッと卵が強烈な光を放つと、そこには馬よりは若干小さく見える毛だらけの狼がいた。

 

(森狼王の卵だから狼だとは思うけれど、毛に覆われているから、犬って言われても納得しそうだ)


「やった。もふもふぅ」


 ラズベリーが狼の首を抱きしめるようにして、毛の中に埋まっていた。

 

「しあわせぇ……」 


 毛の中から、微かに声が聞こえてくる。そんな声を聞かされたら、モフラーでもない僕でも、ちょっと堪能したくなる。


「僕もいいかな?」


 そう言って狼に近づこうとした途端、狼が毛だらけの顔をこちらに向ける。

 

「愚か者! 我に触れられるのは主のみ。その他一切を許したりせぬわ!」


 長い毛に覆われて表情は見えないが、狼のわりに流暢な話し方だった。騎士タイプの雄かなって思っていたら、ラビィの可愛らしい声が聞こえた。

 

「あったかいナァ」 


 いつの間にか狼の胴体に、ラビィの上半身が埋まっていた。

 

「主だけじゃないの?」 

「お、愚か者……この娘は同じ獣族だからいいのだ」


 顔が見えなくても、うろたえているのがわかる。まさかとは思うけれど、女好きの狼なのかもしれない。

 

 ちょっとだけサクラをけしかけて見たくなるが、女好きを暴いたところで、何も良いことはない。

 

 何よりサクラも興味が無いようで、自分の角を爪でカリカリとしていた。その様子を見て、ちょっとだけ不安になってくる。

 

(最近良く見るけれど、何か意味ありげに思えてくるよね)


 進化予定の鬼姫は、確かにおでこからは角が生えていない。だから気にしてるのかなとも思えるけれど、たいして深い意味はないかもしれない。

 

「背中に乗ってもいいかナァ」 

「待つのだ。主、最初に我が背中に乗って欲しい」


 ズポッと毛の中からラズベリーが顔をだすと、嬉しそうな顔でこう言った。

 

「乗りたい!」


 毛だらけの狼は、スッと地面にお腹をつける。低くなった背中へと、ラズベリーが跨った。

 

「獣族の娘よ。乗っても良いぞ」 

「ありがとナァ」


 ぴょんっと軽い感じで、ラビィは背中に乗った。狼が立ち上がると、今度は二人の下半身が、毛の中に埋まっているように見えた。

 

「行きますぞ!」


 狼が突然走り出す。木々の間をぬって、あっという間に姿を消した。

 

「あー、誘拐事件……」 


 とかくだらないことを口にしながら、僕は召喚獣に騎乗できることにびっくりしていた。

 

 なにしろ騎乗ペットはリアルマネーアイテムだ。それが無料で手に入るとなれば、召喚師バッシングが始まるかもしれない。

 

「でもドロップ率を考えたら、お金を払うほうがいいと思うけどね。ねっ、サクラ」 

「ウガァ」


 二人しかいないので話を振ってみたが、やっぱりウガァとしか言われない。契約しているからか、『そうかもね』くらいのニュアンスは分かるけれど、いつ話ができるようになるのか、それも僕の楽しみになっている。


 なんだか気配を感じて視線を向けると、木の間に森狼王が見えてきた。

 

「結構速いな」 


 森狼だけに、森の中は得意なのかもしれない。

 

 僕らの前に狼が止まったけれど、ラビィはいるのに、ラズベリーの姿がなかった。

 

「あれ、ラズベリーは?」


 振り落としたんじゃないかと、嫌な予感が頭をよぎる。

 

「ぷはぁ」


 毛の中から、ラズベリーが飛び出した。

 

「ただいま!」

「お、おかえり」


 おとなしく見えるラズベリーが、もふもふを得て快活になっているみたいだ。一度は諦めたもふもふだけに、きっと興奮しているんだろう。

 

「ただいまナァ。最高だったナァ」 


 狼が立ったままなのに、ぴょんっとラビィは飛び降りた。

 

「おかえり、ラビィ」 


 なんとなく僕は、ラビィの頭の横をなでる。

 

マーミン:久しぶりぃ! 今大丈夫?


 っと、いきなりマーミンからメッセージが届いた。

 

ラル:何日かぶりだね。大丈夫だよ

マーミン:ついに小鬼の村に入れたの。迷宮も見つけたわ

ラル:おめでとう。大変だったでしょ

マーミン:大体1000討伐で許してくれるみたい。今から一緒に迷宮に行かない?


 マーミンからの迷宮への誘いだった。もちろん誘われた迷宮は『邪妖精の迷宮』だろう。

 

 そこで僕はナイスアイディアを思いつく。

 

ラル:友人の召喚師と一緒なんだ。二人でいってもいいかな?

マーミン:もちろんいいよ。じゃ、ポータルで待ってるから

ラル:了解


 視線をラズベリーに戻すと、またしても姿がない。

 

「ぷはぁ」 

 

 ちょっと見ていると、再び上半身が姿を見せた。

 

「ラズベリー。小鬼の村の迷宮に誘われたんだけど、今から一緒に行かない?」 

「小鬼の村ですか?」


 村のシークレットダンジョンを知らないようなので、僕はそれを説明した。

 

「そのような迷宮があったんですね。私も行けるなら、行きたいです」 

「むしろラズベリーだからこそ行けるんだ。鬼と仲良くないと、入れない迷宮だからね」

「行きます。キンちゃん。よろしくね」 

「承知」


 そう言うと、ラズベリーを乗せたまま狼は歩き出す。


「キンちゃん?」 

 

 いつの間に名付けしていたのか、名前をキンにしたようだ。おそらくは森狼王だから、フォレストウルフキング。すなわちキングのキンちゃんだろう。

 

「はい。さっきの戦闘でいっぱい突撃していたので、トツゲキングのキンちゃんです」

 

 キング違いだったけれど、キングからキンちゃんに変わりはなかった。

 

「そうだ。僕らもキンちゃんの背中に……」 

「我に触れられるのは主のみ!」 

 

 わかってはいたけれど、キンちゃんはぶれない狼らしい。

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