42.解決のアイディア
僕らは街に戻り、職人街で鍛冶の部屋をレンタルしていた。
どう考えても足りないのはタンクなので、もはや僕がやるしかない。
でも絶対に痛いのは嫌だから、余った鉱石を使って最高の防具を作る。幸いにも鬼シリーズのレシピがあるし、普通よりも良いものができるはずだ。
「インゴットはババリアが良い。僕が作れる中で最も硬いインゴットだ」
素材も銀鉱石が一つに鉄鉱石が4つと、レアな鉱石を使わないのも最高だった。
余計なオプションを付けずに作成すれば、今の僕なら失敗しない。軽くミニゲームをこなしながら、ババリアのインゴットを作成していく。
鬼シリーズはR6の装備だ。鍛冶レベルが7の僕なら、刀と同じレベルで成功できる。
僕は次々と鬼シリーズを作成していった。付与する事ができないので、難しいことを考える必要もない。
「できた……」
鬼の兜は大きな角が一本生えた、フルフェイスタイプだった。鎧はなんだか鬼の筋肉をかたどったような流線型で、手甲と足甲を合わせると、銀色な感じの鬼に見える。
「鬼の姿になるから鬼シリーズなのか。早速装備してみよう」
ちょっと怖い姿になるけれど、防御力のほうが重要だ。前に立って攻撃を受ける以上、格好なんて気にしている場合ではない。
最初に鬼の兜をかぶろうとしたけれど、なぜか装備することができなかった。
「忘れてたー!」
「どうしたナァ?」
ラビィが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。
ババリアの特性を忘れていた。ババリアは硬くて魔法防御力もいい感じだけど、その代わりにものすごく重いのだ。
鬼の兜でも必要筋力が100で、鎧は120。手と足はそれぞれ110だった。
もともとレベルも低い僕には、とても装備できる防具ではなかった。
持ち上げようとしてみても、重くてずらすのが精一杯だった。仕方ないのでそのままインベントリへとしまう。そして何一つ解決していないことにため息が出てしまった。
「はぁ……」
「マスター、元気だすナァ」
ラビィは慰めてくれるが、最近のサクラは角が気になるらしい。なんだか爪で角をカリカリとしている。
「落ち込んでも仕方がない。次の策を考えよう」
「応援するナァ」
僕はそうして、解決策がそこにあるんじゃないかというくらいに、作業台を見つめたのだ。
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いろいろ考えたけれど、結局ババリアではなく黒鉄を使うという、誰しもが思いつくところに落ち着いた。
でも黒鉄のインゴットで鬼の兜を作ったら、このアイディアもダメだった事に気がついた。
「黒鉄でも70必要なのか……」
戦士だとしても、大体レベル15か16は必要だろう。レベル13の召喚師では、装備できるはずもなかったのだ。
鉄のインゴットで作成すれば、あるいは装備できるかもしれない。でもそこまで性能を落としてまで、タンクをやりたくはなかった。
自分でできない以上、戦士のフレンドを作るか、戦士タイプの召喚獣と契約するしか思いつかない。
そう言えば攻撃を受けとめるタンクではなく、タンクと呼ぶべきかわからないけれど、避けるタイプのタンクもいるはずだ。
でもだからといって、それが自分にできるとも思えない。避けるのに失敗すれば、痛い目を見るのは明らかだ。
「コールドベリーのレベルはわからないけれど、召喚師で頑張るって言ってるのに、戦士でプレイしてもらうのも気が引ける」
いっそマーミンを頼って、ラズベリーと一緒に攻略にチャレンジしてみるか。でもこのメンバーでも、結局タンクの問題は解決しない。
マーミンの高火力に頼る戦い方は、どう考えても歪んでいる。高火力と言うものは、ちゃんとしたタンクあってのものだろう。
「八方塞がりだなぁ」
そんな風に悩んでいたら、突然メッセージが届いた。
ラズベリー:こんにちはー。この前はマントすいませんでした。
ラル:こんにちは。僕も忘れていたから、気にしないで。
ラズベリー:あの、今から大丈夫ですか?
なんとなく文言から、申し訳無さそうな感じが伝わってくる。ちょうど行き詰まっていたし、ラズベリーからのメッセージはありがたかった。
ラル:もちろん。あのポータルでいい?
ラズベリー:はい。お待ちしてます。
まだレンタル時間は残っていたけれど、僕はそのままポータルへと向かった。
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ポータルに来ると、前と同じ姿のラズベリーがそこにいた。
「こんにちは」
「あ、ラルさん。こんにちは。この前ぶりですね」
感覚的にラズベリーに会ったのは、結構前な気がしてくる。でも実際には、それほどでもないだろう。
「もしかしてそれは、新しく作成した剣ですか?」
マントはラズベリーが装備しているので、僕は背中にバスタードソードを装備していた。
「そうなんだ。ラズベリーがくれた鉱石で、良いバスタードソードが作成できたよ。ありがとね」
僕は鞘ごとバスタードソードを外すと、ラズベリーに手渡した。
「すごい……。ラルさんは付与まで使えるんだ。あの鉱石がこんなにすごい武器になるなんて、生産も得意なんですね」
ラズベリーはそう言いながら、僕に剣を返してきた。あまりのべた褒めに、僕もちょっと照れてしまう。
「いやぁ、粘り強いだけだよ」
美少女に褒められるなんて、そう簡単にリアルで体験できるものではない。このゲームをプレイして良かったと思いながら、僕は照れているのに気が付かれないように、急いで話を変えた。
「それじゃ、せっかくだから森狼を狩ろうか」
「ありがとうございます。今日もよろしくおねがいします」
落ち込んだときには、美女の笑顔が最高だ。それが僕のプラスにならなくても、ラズベリーとの狩りは楽しく思える。
「まずは鬼の村でクエストを受けよう。石貨は無駄にはならないから」
「はい」
パーティを組むと、僕らは鬼の村を目指した。




