41.レジェンドクエスト
僕は再びゲームに戻ると、ロードラクルを討伐するということで、ギルドでクエストを受けてきた。2000ウェドといい感じの報酬だし、装備の充実などに使っていこう。
準備万端で森へと来たが、前とは違い雨は降っていなかった。
今日の南の森は、木々の隙間から日が差し込み、幻想的な感じになっている。
どこからか聞こえてくる小鳥の声が、僕のファンタジー感を増幅させた。
目的を忘れて雰囲気に浸っていたら、がさっと下草を踏みしめる音が聞こえてきた。
音のした方を確認すると、空気を読まずにロードラクルが近づいてくる。
「ムーンスピア!」
のんびり気分だったけれど、ロードラクルを見たら気合が入る。僕は早速新しい魔法を試してみた。
小さめで青白く光る投槍が、僅かに軌跡を残しながら、ロードラクルへ向けて飛んでいく。
「綺麗だな」
夜ならばもっと綺麗に見えるだろう。
ムーンスピア自体の初期使用魔法力は10だった。ムーンブラストの限界が10なので、これで倒せるならば、魔法力の効率が良くなるはずだ。
だがそれだけでは怯むだけで、一撃というわけにはいかなかった。魔法制御で調整しながら、最適を探していこう。
「ウガァ」
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ロードラクルの牙×1
獣エッセンス×1
竜エッセンス×4 を手に入れました
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でもラビィが魔法を使うことなく、サクラの追撃で倒すことができる。ムーンスピアだけで、ムーンブラスト、ムーンボム、そしてアクアランスを合わせたダメージにはならないだろうから、オーバーキルにならないぎりぎりで、サクラの攻撃がいい感じになったみたいだ。
「いけそうだ」
「いい感じだナァ」
すでに気持ちが戦闘モードになった僕は、次のロードラクルを探して歩く。
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あれから何度かロードラクルと戦闘した結果、ムーンスピアを使って一撃で倒すためには、消費魔法力を15にする必要があった。
今の僕だと6、7発くらいで魔法力切れを起こすだろう。
自動回復を計算に入れれば、もしかすると8発はいけるかもしれない。
でもそもそも僕は一人じゃないし、一人で倒してもスキルレベルは上がらない。
だからサクラが反撃を受けない範囲で、もっと調整してみよう。
「ラビィのアクアランス後に、僕のムーンスピアを撃ち込む。そこをサクラが一撃でいこう」
「わかったナァ」
「ウガァ」
ムーンスピアのリキャストタイムは、ムーンボムと同じ10秒だった。チェインするほどの連戦でなければ、まあ許容範囲といえるだろう。
ちょうどよくスッと木々の間から、ロードラクルが出てきた。
「アクアランスナァ」
「ムーンスピア!」
ラビィの魔法が着弾するくらいで、僕はムーンスピアを使う。連続攻撃を受けたロードラクルが怯んだところへ、サクラが飛び込んで小鬼小刀を振るった。
「ウガァ!」
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ロードラクルの皮×1
獣エッセンス×2
竜エッセンス×3 を手に入れました
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リキャストタイムは10秒だけれど、これが一番安定する方法に思えた。少なくとも1体で20秒かからないのだから、かなりのペースになるはずだ。
そうやってロードラクルを倒しながら、ギルドに戻ってはクエスト報告をし、あらためてクエストを受け直す。
そんなことをしていたら、71体目でついにあれがドロップした。
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ロードラクルの肝×1
獣エッセンス×1
竜エッセンス×4 を手に入れました
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「最初の一個目ゲット!」
傷つけてしまいそうだし、ちょっと怖いのでインベントリからは出さないけれど、まずまずのタイミングでドロップしてくれた。
「この調子でどんどん行くよ」
「はいナァ」
「ウガァ」
クエスト報告があるので、森の奥には入らないようにしながら、僕らは次のロードラクルを探していく。
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クエストを一日の最大までクリアしたおかげで、合計20000ウェドの収入を得た。店売りの装備はそこそこの性能なので、そのうちオークションなどを確認してみよう。
クエストから解放された僕らは、街の近くではなく、どんどん森の奥へと移動するようにして狩りを続けた。
少しづつ森が深くなっていくけれど、基本的に戦い方は変わらない。
そうやって討伐を続けていると、ロードラクルの牙が300までいかない内に、3つめのロードラクルの肝まで手に入った。
「順調だなぁ」
ロードラクルにも慣れてきたので、あらためてキーンソードを試してみたくなる。
「ラビィ、サクラ。次は僕に任せてくれ」
「わかったナァ」
「ウガァ」
少し歩いただけで、ロードラクルを発見した。
「よし」
僕はなるべく気が付かれないように近づいていく。首尾よく3メートルくらいまで近づいたところで、僕はムーンスピアで攻撃した。
今回はキーンソードの試しなので、最低魔法力で使用する。
予定通りに一撃では倒せないけれど、ロードラクルが怯んでいる間に、僕は間合いを詰めて剣を振るった。
「えい!」
想像以上のダメージエフェクトが、僕の目の前で弾け飛んだ。
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ロードラクルの肝×1
獣エッセンス×3
竜エッセンス×2 を手に入れました
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「すごい。武器の数値でも予想していたけれど、とんでもない威力だ」
でも前に見た黒騎士の槍と比べるとどうだろう。特殊効果で範囲攻撃までしていたから、まだ追いつけている気はしない。
「まだまだだな。っていうかさりげなく肝もドロップしてる。よし、残り1つだ!」
武器もいい感じで、肝も残りは一つで良い。
思わずスキップ状態になって森を進むと、いきなりひらけた空間に飛び込んだ。
いい感じに下草が生えた広場に、いくつもの切り株が見える。
「切り株が複数ある。誰かが意図的につくった広場だよね……」
「わからないナァ」
どういうことだろうと見回していると、空からバサッバサッと、不穏な羽ばたきが聞こえてきた。
フッと空を見上げると、体が鷲でありながら、鶏の頭を持った魔物が降りてこようとしていた。
「チキンヘッド……」
火竜の情報の一つに、まるで火竜を守護するかのごとく、近くにはチキンヘッドが存在するという話がある。
実際に守護しているのかは知らないけれど、なんだかその存在にドキドキしてきた。
そうやって眺めていると、バサリと切り株に1羽が降りてくる。すると続けて数羽が降りてきた。
「優しき人間よ。我らに何か用事か?」
はっきり言ってここに来たのは偶然だ。でも火竜のヒントになりそうな魔物なので、ここは何かしらの情報が欲しい。
「火竜についての情報が欲しい」
「ここは我らの羽休めの休憩場。火竜は山に棲んでいる。それ以上の情報が欲しいのならば、我らが頼みを聞いて欲しい」
どうやら本当に火竜の情報を持っているようだ。
しかもこれは予測だけど、魔物言語がなければ会話もできないはずだ。とすれば、他のプレイヤーがここでチキンヘッドに会ったらどうなるか。
おそらくは言っていることがわからずに、討伐してしまうはずだ。
きっとレアな情報だろう。僕にできることならば、ここは頼みを聞くべきだ。
「はい。どんな依頼ですか?」
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レジェンドクエスト:ドラクルキングを討伐せよ
ドラクルキング×1
報酬:チキンヘッドからの信頼
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クエストが突然受理された。どうやらドラクルキングとやらを討伐するらしい。
「この休憩場でも、不意にロードラクルから襲われることがある。多くはないが犠牲になる仲間たちがいるのだ。そこで森を抜け、ドラクルキングの棲む洞窟へと向かい、これを討伐してほしいのだ」
悪くない話だとは思う。最終目標である火竜は、どこにいるのかすらつかめていない。最前線のプレイヤーは、もしかしたら知っているのかもしれないけれど、少なくとも僕は知らない。
「がんばります」
「頼んだぞ。討伐後は、またここに来て欲しい」
そう言うとチキンヘッドたちは、次々と飛び去っていく。飛んでいく方向は『鉱山迷宮』みたいだ。
とすると火竜はあの山にいるのかもしれない。
「どうしようかな」
それはいつかわかるだろうから置いておくとして、問題はドラクルキングだ。ロードラクルですらあの硬さだ。間違いなく近接で硬いタイプの魔物だろう。
自分たちの戦力を分析するまでもなく、安定して戦える予想ができない。
「できれば避けたかったんだけどな……」
自分の中で解決策を見つけてはいるが、あまり気乗りがしなかった。




