40.初級魔導クエスト
ラズベリーと別れた後、僕は『鬼の村』で魔導書を確認してみた。
でも残念ながら、こっちの方もダメだった。
その後チェルナーレへと戻り、レンタル生産所で僕の武器を作成した。バスタードソードは初級で作成できるけれど、素材をフォレンチノにしたせいか、ミニゲームをやらされた。
でも難易度は刀に比べれば簡単で、いい感じにスロットもできた。
キーンソード+1、攻撃力89、耐久度29、必要筋力40、キーン4、シャープネス4、ストレングス1。小鬼小刀以上の性能だった。
フォレンチノで作成したときの付与のスロット数の最大値は3で、付与した魔法力値がスロット自体の最大値になる。
とは言え100で付与して、100のスロットができることはほぼ無いし、ほとんどが半分以下になってしまう。それに必ずスロットが3つできるわけでもない。
その中でも、このバスタードソードは大成功といえるだろう。
というわけで、僕はこのまま調子に乗って図書館へと向かった。
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「こんにちは」
「図書館へようこそ」
前と同じ大人っぽい女性が、僕を迎えてくれた。
まだ中級魔導クエストをクリアしていないのに、わざわざ図書館まで来た理由は、初級魔導クエストを受けるためだ。
(クエストは別枠だし、僕の欲しいムーンスピアは、よく考えれば5レベルだし、早めに気がついてよかった)
「初級魔導クエストを受けに来ました」
そう言って近づくと、クエストメニューが浮かんだ。そのまま僕は初級魔導クエストを受諾する。
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初級魔導書クエスト:小鬼の角を収集せよ
小鬼の角×10
報酬:初級魔導書からランダム
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このアイテムはサクラの進化に使うけれど、僕の持っている数は普通じゃない。余裕の気持ちでクエストを完了する。
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火魔法:炎の魔導書×1 を手に入れました
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まさかの付与魔法シリーズだ。だけど火魔法だから、またしても僕らは使えない。
「まだまだいくぜ」
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初級魔導書クエスト:虫エッセンスを収集せよ
虫エッセンス×30
報酬:初級魔導書からランダム
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エッセンスのクエストもあるらしい。でもクエストクリア前に不安になる。バッタの足を要求されたら、今の僕は一本しか持っていない。
「そのことは忘れてクリアだ」
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火魔法:ファイアボールの魔導書×1 を手に入れました
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火魔法レベル3が必要な、着弾時に爆発する範囲魔法だ。前もそうだったけれど、属性が偏っている気がしないでもない。
でもランダムのはずなので、何も考えずにどんどん行こう。
ムーンボム、アクアランスと持っている魔法が続く。クエストで収集するアイテムは、運良く持っているものばかりだけれど、手に入る魔法まで持っているやつでなくてもいいのに。
特にアクアランスなんて、レベル5が必要なレア魔導書だ。それが出るなら、ムーンスピアが出てくれよと思う。
「ウィンドアロー……」
そして今度は風魔法のレベル5だ。レアが出るのは良いけれど、なんだか僕は思っているよりも運が悪い気がしてきた。
計算が苦手だけど、ちょっと考えてみよう。初級魔導クエストでは5レベルまでが出現するということは、3レベルから5レベルまでが手に入るということだ。
4属性と無属性で5×3で15種類。それに付与系の魔法を含めると、大体20くらいになるはずだ。
で、僕が欲しい魔法は、そのうちの1つ。
「5%ってことか!」
でも5レベルはレアのはずだから、単純に5%ではないはずだ。軽く考えていたけれど、本当にレアドロップ並なのかもしれない。
しかも計算に入れ忘れたけれど、回復魔法だって手に入るはずだ。それを加味したら、なおさら狙いの魔法は出ない。
考えなければよかったと思いながら、僕は初級魔導クエストをクリアする。
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火魔法:ファイアボールの魔導書×1 を手に入れました
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欲しい魔法は出ないくせに、いらない魔法は被りまくる。
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初級魔導書クエスト:鬼エッセンスを収集せよ
鬼エッセンス×30
報酬:初級魔導書からランダム
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次に出たクエストは、鬼エッセンスの収集だった。
「鬼エッセンス? 僕を誰だと思ってるんだ」
小鬼の卵を得るために、何日も戦い続けたレアハンターだ。ある意味余って仕方がない。
それに今日の僕は絶好調だ。さっきの鍛冶で最高のバスタードソードを手に入れた。魔法の武器だから名前を変更して、キーンソードにしたけれど、調子に乗ったからこそ、僕は図書館にやってきたのだ。
「レアハンターの血が騒ぐ!」
なんだか盛り上がってきた。この僕に手に入れられないレアドロップなど存在しない。
すでにムーンスピアを手に入れた気分で、僕はクエストを完了させる。
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火魔法:ファイアランスの魔導書×1 を手に入れました
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レベル5が必要なレア魔導書。だがそれじゃない。僕が欲しいのはそれじゃないんだ。
膝から崩れそうになる寸前に、図書館の扉が開いた。
「あら、ラルじゃない。奇遇ね」
そこに現れたのはマーミンだった。
「マーミン。なんだか久しぶりな気がする」
「本当? ってことは、あれからいろいろあったんでしょ」
森狼の卵チャレンジ、鬼の村のお店確認、武器が折れる。そして武器生産、さらに魔導書クエストチャレンジ。
この中でうまくいったのは、武器生産だけだ。
失敗続きの状況に、僕は少し疲れたのかもしれない。
「それともあれかな。狙った魔導書が出なくて、がっくりしてるとか?」
「そうなんだ。ムーンスピアが出ないんだよ……」
わかるわかるというように、マーミンはなんども頷いた。
「欲しいものほど出ないよね。私もファイアランスが出なくてさ。ムーンスピアなら結構かぶってるし……」
僕はマーミンと顔を見合わせる。きっと同じことを思いついたのだろう。
「ムーンスピアが余ってるの?」
「ファイアランスを持っているとか?」
まさしく渡りに船だった。マーミンの言葉と表情を見て、所持していることを確信する。
「交換しよう!」
僕らの声が重なり合う。そしてついに、僕はムーンスピアを手に入れたのだ。
「上位の魔法がないから、戦力不足だったんだ」
「私は上位はあるけれど、そこだけ抜けてて気になっていたのよ」
僕らはがっしりと握手をする。
これで単体攻撃のバリエーションが増えるし、一撃で倒せなかった魔物も、倒せるようになるだろう。
一つ解決したので、マーミンのことが気になった。
「そういえばさ、小鬼のほうはどうしてるの?」
「村に行ったら襲われちゃう感じね。すぐに逃げて森の小鬼を倒しているけど、気分転換に図書館に来たのよ。本当に来てよかったわ」
マーミンは魔物言語が無いようだから、ラビィたちも会話をしない。おそらく村の小鬼とも、会話ができないのだろう。
でも話せなくても、友好度が上昇すれば、襲われなくなるはずだ。
「仲良くなれば、素通りできるはずだから、それまではチェックと討伐だね」
「うん。それじゃ気分転換もできたし、森に行くね」
「魔導書ありがとう、またね」
「またね」
マーミンは図書館から出ていった。僕はこれからロードラクル狩りだ。
戦力も増強したし、ロードラクルの肝なんて、瞬く間にドロップしてみせる。
でもその前に、ログアウトして休憩しておこう。




