39.森狼の卵を探して
僕らがお店に近づくと、エプロン姿の鬼の方から話しかけてきた。
「我が友、久しぶりだね。優しき人は初めてだね。どんどん買い物していってよ」
僕の前にメニューが開く。ラズベリーの前にもメニューが開いているはずだ。
「わぁ、色々売ってるんですね。魔法やレシピがある……」
「大半が5レベルまでだけど、時々それ以上も混ざっているから、よく見た方がいいよ」
ということで僕は『ムーンスピア』を検索する。
「おっ、あった……?」
検索にヒットしたので喜んだけど、どうやら検索の言葉を変えるべきだったらしい。まさかの同名の槍が、存在するとは思わなかった。
(ムーンブラストを発動できる槍だ。でも攻撃力が低いし、序盤の装備なんだろうな)
そして当然のように、僕の欲しい『無魔法:ムーンスピア』はなかった。
「あ、ウィンドアローが売ってます!」
リストを見ると『風魔法:ウィンドアロー』が売っている。この魔法はレベル5で覚えられるやつで、僕の欲しい『無魔法:ムーンスピア』と同じ必要レベルだ。
つまりこれを逃せば、次の機会なんていつくるかわからない。
「ラズベリーは風魔法を使うの?」
「はい。まだ3レベルです」
だが5レベルなんてすぐだ。特に卵を狙って戦うならば、本当にすぐだって感じるくらいにレベルが上がる。
『風魔法:ウィンドアロー』は1000石貨。こういう時のために、僕はお金を貯めたんだ。
「あっ、無くなりました」
「大丈夫だよ。はい、これ」
僕は買ったばかりの『風魔法:ウィンドアロー』を差し出した。
「えっ」
戸惑うラズベリーに、僕はこのお店の特徴を説明する。
「ある時に買わないと、二度と手にはいらないようなお店なんだ。さっきのクエスト二回分で買えるわけだし、気にしなくていいよ」
「ありがとうございます」
さっきのクエスト二回分が効いたのか、ラズベリーは素直に受け取ってくれた。
僕の欲しい魔導書がなかったのが微妙だけど、魔導書を抱きしめならがニコニコするラズベリーに、そんな気持ちも癒やされていく。
「それじゃ、森狼狩りをしよう」
「はい」
「はいナァ」
「ウガァ」
僕らは鬼の村を出て、森狼狩りを開始する。
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村から出て少し進むと、幸先よく森狼が現れた。
「ウィンドブレイド!」
ラズベリーの風魔法を受けて、一撃で狼は消えていった。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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「いい感じだね」
「全力なら倒せるのですが、その分消費がつらいです」
最初の頃は全力での魔法なんて、4、5回撃てれば良いほうだ。この状況での100体狩りは、たしかにきついかもしれない。
「そうだ。このマントを装備して狩るといいよ」
「えっ」
僕のイモキンマントを見て、若干ラズベリーの顔が曇る。僕はきらいじゃないけれど、人を選ぶデザインなのは理解していた。しかもラズベリーのワンピーズが緑なので、まるでセットのようになるだろう。
それでも僕は悪くないと思うのだけれど、感じ方は人それぞれだ。
「デザインが気に入らないかもしれないけれど、ドロップ率向上小がついてるんだ」
効果を聞いても微妙な顔をしている。でも最終的には装備することにしたようだ。
「お借りします」
「うん。これを装備していれば、卵がドロップしたのにとか、絶対にイヤだからね」
ラズベリーがイモキンマントを装備すると、思った通りによく似合う。ちょっぴりイモキンマンとかスーパーヒーローっぽいイメージが浮かんだけれど、それはそれで良いものな気がした。
ラズベリーは『どうですか?』とも聞くことなく、次の森狼を探し続ける。少し顔が赤いのは、マントが恥ずかしいのかもしれない。
ふっと現れた森狼に、ウィンドブレイドの魔法が飛んだ。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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今のところ集団では来ていない。
僕らも戦いを始めよう。
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森狼王がポップするかもと言う不安はあったけれど、まだその姿は見えない。何度か集団戦をこなしたおかげで、段々とラズベリーも慣れてきたようだ。
「フォームトライアングル!」
ラズベリーを中心にして、僕らが三方向へ広がる布陣。まだレベルの低いラズベリーを守ると同時に、三方向の誰にでも、援護してもらえるようにという位置取りだ。
「ムーンボム!」
運悪く僕のもとへ三頭向かってきた。
「ウィンドブレイド!」
ムーンボムの範囲から外れた一頭へ、ラズベリーの魔法が飛んで行く。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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倒したときのドロップ判定は、僕とラズベリーへそれぞれ行われる。つまり一頭の森狼で、卵が出る確率は二倍だと言っても良い。
「ムーンブラスト!」
体勢を立て直した一頭へ一撃。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×1 を手に入れました
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ムーンボムで弱った森狼は、それで簡単に倒すことができる。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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さらに向かってきた一頭を、僕のバスタードソードが切り裂いた。
「サクラ。二頭注意だ」
「ウガァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×5 を手に入れました
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さらに二頭がサクラに向かったけれど、同時ではないので問題なく倒すことができる。
「ウガァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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時間差があるならば、一頭づつと変わらない。
こうやって戦っていると、小鬼の卵の事を思い出す。ある意味で始まったばかりなのに、まだ出ないのかと言う思いが生まれた。
(結局の所、僕は卵を三つも手に入れているし、心が贅沢になっているのかもしれない)
「ウィンドブレイド!」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×1 を手に入れました
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僕の目の前にいた一頭が、ラズベリーの魔法で消えていく。
「ラルさん?」
「ごめん。ドロップしたわけでもないのに、卵の事を考えてた」
僕の言葉にラズベリーはニコッと返してくる。同じ召喚師同士、卵の事を気にするのは当然だよね、みたいな感じだった。
「アクアランスナァ!」
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森狼の皮×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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「今にもドロップするんじゃないかって、ドキドキしますね」
ラズベリーも最初よりはレベルが上っている。戦闘にも慣れて、余裕も出てきたようだ。
「ワクワク感がいいよね」
ドロップしないと言われているものほど、ドロップしたときの喜びが大きい。ましてやそれが有用であればあるほど、喜びはひとしおなのだ。
「っと、全滅させたみたいだ。少し移動してみよう」
「はい」
集団を殲滅すると、しばらく出現しなくなる。
僕らが移動することで、次の森狼を見つけるのだ。
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さらに一時間ほど粘ってみたが、いまだに森狼の卵はドロップしない。小鬼の時と違って、チャンスも二倍のはずなのに、僕にもラズベリーにもドロップしなかった。
「すいません。そろそろ落ちる時間です」
「そっか。ならポータルへ向かいながら、倒していこう」
「はい」
ポータル付近の森狼は、集団で襲ってきたりはしない。
なのでまばらに狼を倒して進むが、やぱっり狼の卵はドロップしてくれない。
「あの一頭が最後かな」
「お願いします」
近くにいた一頭を、バスタードソードで切り裂いた。
バキーン!
のはずなのに、切り裂く前にバスタードソードが折れる。
「忘れてたー!」
「ウィンドブレイド!」
ラズベリーがすかさず魔法で倒してくれた。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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完全に刀身部分が折れている。今となっては性能も低いが、はじめて買った武器だけに、少しの愛着も生まれていた。
なのに修理を忘れるなんて、自分の間抜けさに口が開きっぱなしになる。
「完全に壊れると、特別な修理になるらしいですよ」
ポータルは眼の前だ。でもその短い距離の間に、ラズベリーが僕を慰めようとしてくれた。
「すごく高いみたいなので、思い切って新しくするのもいいかもしれないです」
「マスター、元気だすナァ」
「ウガガァ」
ちょっと落ち込んでしまったけれど、前向きに考えれば、新しい武器を手に入れろという啓示かもしれない。
「そうだね。落ち込んでいても仕方がない」
「そうだ。ちょっとここで待っていてください」
「あっ、はい」
するとラズベリーがログアウトしてしまった。
一分もしない内に、ポータルからコールドベリーが現れた。
「あっ、コールドベリー」
「えっと、これを受け取ってください」
取引ウィンドウに、金鉱石に銀鉱石、鉄鉱石があらわれる。どうやら前に一緒に『鉱山迷宮』へ行ったときの、ドロップ品みたいだ。
「私はメインをラズベリーで頑張るので、もう鉱石はいりません。今日のお礼に受け取ってください」
いつもの僕ならば、そんなの悪いよと断るところだけど、ログアウトしなきゃいけない時間が迫る中、わざわざキャラまで変えてきてくれたラズベリーの好意を、断る気にはなれなかった。
「ありがとう。この鉱石で新しい武器を作成するよ」
「はい。完成したら見せてくださいね。それじゃログアウトします。またね」
「うん。また」
「またナァ」
「ウッガァ」
すぅっとコールドベリーが消えていった。
「あっ、マントを返してもらうの忘れた!」
でも些細な事だ。今度インしてきた時にでも、返してもらえればそれでいい。




