38.帰ってきた元召喚師
雨のせいもあるのか、なかなかロードラクルが見つからない。ただでさえドロップが渋いかもしれないのに、この状況に若干うんざりとした気分になってくる。
「っと、発見だ。ムーンボム」
「アクアランスナァ」
ムーンブラストとムーンボムの順番を変えてみたら、一手早く倒せる事に気がついた。でもバランスを崩すかは微妙なので、結局サクラが先手を取れずに、遅くなることもある。
「ウガァ」
今回はサクラが先手だったけれど、ムーンブラストからのほうが安定する気がした。
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ロードラクルの牙×1
獣エッセンス×4
竜エッセンス×3 を手に入れました
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「出ないな」
竜エッセンスが集まるのは、特に予定がなくてもなんとなく嬉しく思う。だけど肝がドロップしないので、僕の嫌な予感は加速してしまう。
なにより『クレアの注目』だ。なんとなく難しい試練を与えられている気までしてきた。
とか考えている間に、ヌッとロードラクルが現れた。
「アクアランスナァ」
「ムーンブラスト!」
ここでロードラクルの攻撃を、サクラが小鬼小刀でいなす。
「ムーンボム」
「ウガァ」
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ロードラクルの牙×1
獣エッセンス×2
竜エッセンス×5 を手に入れました
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なんとなくこの戦い方が気に入らない。今まではポンポン倒せていたのに、魔法が弱いというのもあるし、レベルがちょっと低いのかもしれないけれど、雨で気分がすぐれないのもあって、なんだかもやっとしてしまう。
それから同じように頑張って、十体ほど倒したけれど、全然肝がドロップしない。
「だめだ。肝がレアドロップだとしたら、あまりにも準備ができていなさすぎる」
今思えば、自分の武器も作成するべきだった。サクラの刀に執着しすぎて、全体的な戦力の向上が疎かになっている。
それに防具もやばいかもしれない。サクラが攻撃を受けるようになっているし、店売りの革鎧では心もとなくなっている。
生産で目指しているのは、サクラの刀と着物、ラビィの布装備に僕自身の布系装備だ。つまり必要なのは鍛冶と裁縫だけでいい。
革装備を作成する生産もあるけれど、サクラは将来的には革装備を卒業するし、さすがにそれは無駄が多くなる。
「どうするかな……」
ある意味ここが分岐点だ。きついながらも戦闘を続けるか、ラビィやサクラの進化を目指しながら、まずは装備や魔法を充実させるか。
僕は雨音を聞きながら、しばらく目をつぶって考えた。
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僕の思考を打ち破ったのは、予想もしないメッセージだった。
ラズベリー:こんにちはー。この前はお世話になりました。
突然のメッセージにびっくりしたけれど、内容を見てほっこりする。またしても名乗っていないのだけど、名前からしてコールドベリーだろう。
ラル:コールドベリー?
ラズベリー:あ、はい。そう言えば名乗ってませんでした。あらためてラズベリーです。
ラル:よろしくね
ラズベリー:ラルさんのおかげでやる気が出ました。これから森狼狩りにチャレンジします。
ふっと『鬼の村』を思い出す。今ならなにかしら良い物が売っているかもしれない。
ラル:今から行くよ。ポータルで待ってて
ラズベリー:あ、はい。待ってます
僕がなんで行くのか不思議だったみたいだけど、何で来るんですかと言われなくてよかった。
僕の目的は『鬼の村』が第一で、二つ目はラズベリーがどんな姿か知っておきたかったのだ。
何しろ僕が知る唯一の召喚師だし、あの全身鎧を着ていた人の中身なのだ。どんな姿をしているのか、興味が湧くのも仕方がない。
僕はチェルナーレへと向かい、待たせては悪いと急いでポータルに飛び込んだ。
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ポータルから出ると、すぐ目の前に女性が立っていた。
(黒髪でストレートのセミロング。160センチ位でスレンダーな感じだ。多分この人がラズベリーだよね)
いきなり登場した僕に、ちょっとだけびっくりしているみたいだ。
ラズベリーは昔にラビィが着ていたようなワンピース姿だった。ただ色が違って薄いグリーンだけど、装備には気を使っていないのか、特に珍しい装備もしていない。
(マーミンは快活でボーイッシュな美少女って感じだけど、ラズベリーはお嬢様っぽいな……。あの鎧の中の人とはとても思えない)
見た目と関係なく、ステータスがあれば可能だから、ある意味不思議でも何でもない。でも感覚的にちょっと違和感を覚えてしまう。
しかしマーミンもそうだけれど、やっぱり美形の人が多い。美化機能のおかげかもしれないけれど、現実ではなかなか出会えないような、まさしく深窓の令嬢とでも言いたくなるほどに、儚げな美しさが感じられた。
「初めまして。ラズベリーです」
「あらためてラルです」
「ラビィだナァ」
「ウガァ」
以前にコールドベリーと会ったときには、たしかラビィもサクラも話さなかったはずだ。
「よろしくおねがいします。ラビィさんと……」
「サクラだよ」
「サクラさん」
そこで僕はピンときた。
「もしかして魔物言語を取得してるの?」
「はい。森狼と契約した時に、お話できたらいいなって取得しました」
それでいくつかの謎が解けた気がする。時折ラビィが話さなくなるのは、話さないのではなく、話ができないのを知っているからなんだろう。
だから魔物言語を持つラズベリーとは、普通に話すことができる。
「ラルさん?」
魔物言語の事を考えていたら、ちょっとボーっとしてしまった。
「あっと、ごめん。フレンド登録をお願いしても良い?」
美人だからとか言う気持ちを出さぬように、同じ召喚師としてフレンドを申し込む。
「はい。よろしくおねがいします」
僕のフレンド申請を、ラズベリーは受けてくれた。
「これからよろしくね。それで早速だけど、『小鬼の村』ファームはしたことはある?」
「いえ。バトルラビットと芋虫でレベルをあげて、一気に森狼まで来ました」
とすればあの可能性がある。
「ならまずは『鬼の村』へ行こう。森狼を狩るなら、クエストを受けたほうが良いよ」
「鬼からクエストをもらえるんですか?」
僕はそのあたりを丁寧に説明しながら、南の森へと移動を開始した。
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何体かの森狼を倒しながら歩いたけれど、もちろん卵なんてドロップしていない。
「あそこが鬼の村だね。何かあっても攻撃しないでついてきてね」
「はい」
僕らは『鬼の村』へと近づいていく。森狼を倒しているとは言え、ラズベリーの友好度がわからないから、僕は内心で緊張していた。
(友好度が足りていますように)
そんな僕の杞憂を吹き飛ばすかのように、門番の鬼が軽快に話しかけてきた。
「我が友、優しき人よ。鬼の村へようこそ」
「あっ、ありがとうございます」
なぜかラズベリーはお礼を言っているが、特に門番の反応はない。
「門番は特に複雑な話はしないんだ。村の自警団団長のところへ行こう」
「はい」
僕らは森の中央広場にいる自警団団長に話しかけた。
「我が友、優しき人よ。森狼討伐を手伝ってくれるのかい?」
「はい」
「はい。あっ、クエストが出ました!」
僕の方にも表示されていた。流れでクエストを受けてしまったけれど、ラズベリー一人では森狼狩りはきついだろう。
100体倒しているとは言え、集団で来た場合には逃げるしかないはずだ。
「このクエストで石貨を貯めると、あっちのお店で買い物ができるんだ。行ってみよう」
「はい。行きます」
ラズベリーも楽しそうにしている。『鬼の村』を紹介してよかった。




