35.タンクは重要
『鉱山迷宮』に入ると『邪妖精の迷宮』と同じように、なぜだか明るくなっている。せっかく灯の道具も売っていたり、夜目とかのスキルもあるのに、なんで理由もなく明るいんだろう。
「私が先頭で魔物をひきつけますから、討伐よろしくお願いします」
「了解」
僕はサクラとラビィに作戦を説明する。まあ作戦というほどではないけれど、コールドベリーに魔物が集まったら、それを横から攻撃するだけだ。
コールドベーリーを先頭に、フォームBでダイヤの陣形を保ちながら、僕らは鉱山を進んでいく。
「岩石人形がいました。我が名はコールドベリー!」
戦士が大抵持っている『名乗り』のスキルだ。これにより近くの魔物を、自分へと引き寄せる。
のっそりと歩く『岩石人形』が三体も、コールドベリーに集まってきた。
そう言えばコールドベリーは、いつのまにか鉄の棒と鉄の盾を装備している。まさしく硬そうに見えて、そう簡単には倒されることはなさそうだ。
ガンガンガンと『岩石人形』のパンチがコールドベリーを襲っている。だがコールドベリーはその場から動かず、ただ攻撃を受けていた。
「今です!」
「ムーンブラスト!」
「アクアランスナァ」
「ウガァ」
まずは左の岩石人形に集中攻撃だ。最初ということで全力でやってみたけれど、ひとりひとりの攻撃では、岩石人形を倒せないみたいだ。三人の全力攻撃で、やっと一体を倒せるくらいのダメージだった。
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鉄鉱石×1
人エッセンス×3
妖エッセンス×2 を手に入れました
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(コールドベリーがいなかったら、やばかったんじゃないか?)
コールドベリー自身も、鉄の棒で岩石人形を叩いている。
「次は右だ。ムーンブラスト!」
「アクアショットナァ」
「ウガァ」
ラビィの魔法が変わったので、少しダメージ総量が減った。でもその減少分は、コールドベリーの攻撃で補えた。
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鉄鉱石×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×4 を手に入れました
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コモンは鉄鉱石らしい。でも一個しかでないのは、結構きつい気がする。なにしろ鉄のインゴットを作るだけでも、鉄鉱石が三つ必要だからだ。
「はっ!」
「ウガァ」
「アクアショットナァ」
「ムーンブラスト!」
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鉄鉱石×1
人エッセンス×2
妖エッセンス×5 を手に入れました
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ちょっと僕の攻撃が遅れたけれど、これで三体討伐だ。
「ふぅ。いい感じですね」
コールドベリーはダメージを受けた様子はない。その証拠に、ラビィもヒールをしていなかった。
「大丈夫そうなら進もうか。僕らの攻撃力はこんな感じで、戦い方もこんな感じだけど」
「十分ですよ。これならボスも倒せると思います」
コールドベリーがそう言うので、僕らは同じフォーメーションで先へと進んだ
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しばらく進んでいくと、鉱山の壁に扉を見つけた。コールドベリーがそのまま無視して進むので、僕は慌てて声をかける。
「待って。この扉は?」
「あっ、その扉は鍵がかかってるんです。奥にはレアな魔物がポップしていることがあるんですけど、斥候の人がいないとまず開けられません」
レアと聞いて、試さずにはいられなくなる。
「試してもいいかな」
「どうぞ」
僕は扉の前に立つ。
『解錠難度7を開始します』
前開けた扉は3だった。少なくとも、それの倍以上の難度らしい。
僕の目の前にバトルラビットと戦う剣士の絵が浮かんだ。それがゆっくりと左に移動していくと、さっきまで絵が浮かんでいたところに四角い枠ができる。
『制限時間20秒。左の絵と違っているところを指摘してください。ピッピッピッ、スタート!』
まさかの間違い探しらしい。スタートと同時に、枠の中に絵が浮かぶ。それはパッと見で、左の絵と違いがわからない。
「あっと、うさぎに角が生えている!」
ピンポーン。
間違いは一つではないようだ。角は分かりやすかったけど、背景も平原で、剣士も違いがあるように見えない。
『残り10秒です』
もはや時間がない。でも勝負はここからだ。追い詰められてからが、僕の本領発揮なんだ。
『残り5秒です』
地面ばかり見るからダメなんだ。空だ。空を見るんだ。
「く、雲の形が違う!」
ブブー。
それと同時に絵が消えていった。当然扉は開くことなく、解錠には失敗した。
「難しいですよね。斥候の人でも50%くらいで失敗するそうですよ」
厳しい戦いではなく、無謀な挑戦だったようだ。でも間違い探しなんて、解錠となんの関係があるだろう。前回のパズルはまだなんとなく、パズルなだけに解錠の許容範囲だったと思える。
でも間違い探しは関係なさすぎだ。
「っと魔物です。我が名はコールドベリー!」
僕の考えもまとまらず、失敗した気持ちが癒やされる前に、どんどん魔物が集まってくる。もはやこの気持は、戦闘で紛らわしてしまうしかなさそうだ。
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鉱山迷宮は階層の概念がないのか、分かれ道も少なく、ある意味長い一本道だった。そして『岩石人形』のアンコモンは銀鉱石で、ボス前まで全滅させたにも関わらず、2つしか手に入っていない。
(討伐数は30だった。鉄鉱石が27で銀鉱石が2つって、僕のマントが全然活躍していない)
「ここのボスはとにかく固いです。でも特徴はそれだけで、範囲攻撃もありません。全員でガンガン攻撃していれば、そのうち倒せると思います」
コールドベリーの説明を聞く限り、力押しのボスのようだ。攻撃をコールドベリーに集め、周りから僕らが攻撃すれば、トラブル無く倒せるだろう。
「了解。準備はOKだよ」
「では扉に触れてください」
僕がパーティリーダーだから、扉に触れることで部屋の中に入ることができる。
「よし、行くよ」
「おねがいします」
僕は豪華な扉にそっと触れた。
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いつものようにボス部屋の中へと転送される。そして体が動かない。いわゆるイベントというやつだろう。
「おおっ」
初めて見るので思わず声がでた。岩の地面から石が飛び出し、それがガキンガキンと集まっていく。それらが集まって大きな人型になると、石が鉄のように変化していった。
「岩鉄人形です。固いので頑張りましょう」
「攻撃は任せてくれ」
と言うほど自信もないけれど、他にできることはない。
「ボボボボボォ」
まるで火でも吐き出しそうな擬音だけど、岩鉄人形がそれを叫ぶと同時に、戦闘は開始された。
「我こそは王国の騎士にして最強の棒使い。我が名はコールドベリー!」
名乗りのスキルは名乗れば効果があるけれど、もしかするとこれでもっと効果が上がるのかもしれない。
「ムーンブラスト」
「アクアランスナァ」
コールドベリーが岩鉄人形をひきつけているのを確認して、僕らは魔法を飛ばした。効果はそれほど高くなさそうだけれど、多角形の板は舞っている。
ガイン!
コールドベリーの鉄の棒が、岩鉄人形に叩きつけられる。鈍い音を響かせながら、しっかりとダメージを与えていた。
「ウガァ」
そこに遅れながらも、サクラが一撃を加える。切り裂くことはできなかったけれど、細かく多角形の板が飛んでいるのがわかる。
(全員そこそこのダメージだな。長期戦になりそうだ)
そう思った僕の眼に、識別の反応が現れた。岩鉄人形の右腕に、弱点マークが灯っている。
「右腕だ。全員、右腕に攻撃を集中するんだ」
「わかったナァ」
「ウガァ」
ガンっと左手の盾で、コールドベリーは岩石人形のパンチを受け止めた。
「わかったわ。カウンターシールド!」
受け止めた岩鉄人形の右腕に、カウンターのダメージが入る。その攻撃で一番多くの多角形の板を飛ばしていた。
この技は近接が使える魔法みたいなもので、秘伝書を使って覚えるものだ。街にいる師匠系のNPCに弟子入りして、クエストをクリアすると秘伝書ゲットという感じだ。
「えっ、クリティカル?」
コールドベリーはそう言うが、これはクリティカルではない。
「アクアショットナァ!」
「ウガァ」
岩鉄人形が一回攻撃する間に、僕らの攻撃が数回当たる。それはさっきとは比較にならないくらいに、多くのダメージエフェクトが出ていた。
「弱点なんだ。ムーン……」
魔法を使おうとしたところで、弱点マークがすっと消えた。
「それっ」
コールドベリーが鉄の棒で右腕を攻撃するが、さっきまでのようなダメージは出ていない。
どうやら時間経過で、弱点が出たり消えたりするようだ。でもこれを利用すれば、思ったよりも早く倒せるだろう。
「ボボボォ!」
「くっ」
ガンっと短く鈍い音が響く。岩鉄人形の左手の攻撃を盾で止められず、コールドベリーは胸で受けていた。
「ヒールナァ」
即座にラビィの魔法が飛ぶ。コールドベリーは盾で岩鉄人形を押し返した。
「我が名はコールドベリー!」
若干戦闘が長くなってきたせいか、再び名乗りを上げていた。そこに今度は岩鉄人形の右胸に、淡く弱点マークが灯る。
「右胸だ。右胸を狙え!」
「アクアランスナァ」
サクラの位置からは右胸が狙いにくい。そこで弱点を狙うだけではなく、サクラは足へも攻撃をしていた。
「ムーンブラスト!」
僕の魔法も景気良く多角形の板を飛ばした。弱点位置を狙えると、かなりダメージがお得になるようだ。
「カウンターシールド!」
何よりコールドベリーが活躍している。あの岩鉄人形の痛そうな一撃を、全て完璧に受け止めていた。
(これがタンクの実力だ。やっぱりタンクがいなければ、ここから先の攻略は難しいかもしれない)
っと、考えたところで申し訳ない気持ちになる。これはタンクの実力ではなく、コールドベリーの実力だ。口に出したわけではないけれど、心のなかで謝った。
「ウガァ!」
横からのサクラの一撃! 意外にもその一撃で、岩鉄人形が多角形の板を撒き散らしながら消えていく。
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金鉱石×1
銀鉱石×4
鉄鉱石×13
人エッセンス×6
妖エッセンス×9 を手に入れました
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思った以上の収穫だ。これならば素材集めも捗るだろう。
「やりました! しかもかなり早いですよ」
「んっ、そうなんだ」
ガシャガシャと鎧を打ち鳴らしながら、コールドベリーは小躍りして喜んでいた。ラビィやサクラはコールドベリーがいるせいか、控えめに喜んでいるようだ。
「二十分くらい戦うこともあるんです。ですが今回は八分くらいですか? 凄いです」
どうやら弱点攻撃がうまくいったらしい。ベータでは使えないと言われていた識別だけど、意図して誰かが隠したのか、正式で修正されたのかはわからないが、かなり使えるスキルみたいだ。
「コールドベリーのおかげで助かったよ。鉱山迷宮のレベルもわかったし、一周でどれくらい素材が集まるのかも予想ができる」
「この速さなら十周付き合います! さぁ、はやくやりましょう」
脱出の魔法陣へ向かっていくコールドベリーを見ながら、十周もすれば鍛冶レベルを上げる素材が集まりそうだと、いやらしい計算をしてしまった。
一周が大体15分と少しくらいでクリアできるから、ビッグバーガーも使っておこう。三十分経験値2倍なので、僕らにとってはかなりの助けになるはずだ。




