34.元召喚師の戦士
食堂からでると、僕らは大通りへと戻る。最初は冒険者ギルドへ行って、このあたりのクエストを調べてみよう。
そう言えば冒険者のランクがFのままで、全然上がっていなかった。クエスト数は満たしているはずだから、ベータの情報とは違って、なにかしら条件がついたのかもしれない。
「っと、ここだった」
考えながら歩いていたら、通り過ぎるところだった。僕は冒険者ギルドの扉を開いて中に入る。初めてのギルドなので、ちょっと緊張していたら、聞き慣れた声が僕を出迎えてくれた。
「ラルさん、おかえりなさい」
「ただいまって、マリー?」
思わず扉から外を見る。間違いなくここはチェルナーレだ。受付に眼を戻すと、ふふふっとマリーが受付で笑っていた。
「実は冒険者ギルドの扉は、全部ここにつながってるんです。どこの街からでも、私はここにいます」
嬉しいけれど、よくわからないシステムだった。人員削減を表現したのかと思ったけれど、そもそもインスタンスで平行世界の冒険者ギルドが広がっているのだろう。
だとすればとか考えていたら、なんだかどうでも良くなってきた。
街ごとの看板娘もいいけれど、こういう仕様も悪くない。
「思わぬ再会で嬉しいよ」
「いたずら成功ですね」
つまらないイタズラが、不思議と楽しく感じられる。僕にとってリアルでは体験できない、美少女との出来事だからかもしれない。
「それではチェルナーレに到達おめでとうございます。これにて冒険者ランクがEとなります。ラルさん、あらためておめでとうございます」
ランクEの条件は、クエストの一定数クリアと、チェルナーレへの到達のようだ。
「ありがとう」
「それではチェルナーレの施設の説明や、ランクEに上がったことにより可能になったことなど、説明しますか?」
「おねがい」
もうマリーは驚いたりしない。僕の返事はわかっていましたよと言う感じで、ニコニコの笑顔になっていた。
「説明いたします。ここチェルナーレでは生産施設が充実しており、職人街と呼ばれる区域がございます。そこでは多少のお金はかかりますが、いつでも生産施設が利用できます」
はじまりの街でもレンタルの生産施設があった。充実しているという以上、なんらかのボーナスがあるのかもしれない。
「他には魔法を使う方はよく利用するであろう図書館です。ここでは魔導書クエストという依頼があり、達成すると魔導書が報酬でもらえます」
この情報は知っていた。ベータでも存在していたし、むしろここでしか新しい魔導書は手に入らないと思っていた。でも今は入手先が複数あるのもわかっている。
「そしてチェルナーレにしかない施設。それがエッセンス注入施設、エッセン屋です。ここでは武器に特定のエッセンスを注入することにより、特別攻撃効果、すなわち特効を付与することができます」
なんとなくわかるけれど、具体的に聞いておこう。
「お金とかかかるの?」
「そうですね。鬼エッセンスを例にしますと、まず鬼特効になります。鬼特効を1%にするのに、鬼エッセンスを100と1000ウェド必要です。2%にするには、鬼エッセンスを200と2000ウェドが必要になります」
わかってきた。つまり10%にするには、鬼エッセンスを1000と10000ウェドってわけだ。
「最初から高い%のほうがお得になるの?」
「いえ、特効は1%づつしか上昇できません。いきなり5%とかは無理なのです。しかも失敗することがあります。その場合の料金やエッセンスの返却もありませんし、稼いでいないうちは無理ですね」
お金や手間がかかりすぎる気がする。でも鬼特効が20%くらいになったら、ベース100のダメージが120になるわけだ。ってしょぼすぎる気がした。
(えっと、20%に挑戦するだけでも、エッセンスが2000に20000ウェドになるよね。累計で考えたら、今の僕でも数が足りないぞ)
運営の告知を見る限り、エッセンスのシステムは正式サービスから導入しているのがわかる。正直、このエッセン屋はやばい。必要数を減らすか、効果を上げない限り、誰がやるかってシステムだ。
「面白そうなお店だね」
でもマリーに文句を言っても仕方がないので、ここはスルーしておく。後でこの件も、ポータルの話とまとめて運営にメールしておこう。
「そしてランクEになってできることですが、『鉱山迷宮』へ入ることができます」
「えっ、そこってランク制限があるの?」
「昔はなかったのですが、最近は無駄な犠牲を減らすために、ランク制限が導入されました」
ベータからの変更点が、ちょこちょことあるみたいだ。それほど影響のある変更じゃなかったけれど、世界の変化は悪いことじゃない。
「現在では火竜の生息場所も調査中ですが、それらの情報を得るためにも、ランクが重要になるでしょう」
マリーの言葉で背中に電流が走った。この『バトルバトルオンライン』のファーストバージョンにおいて、火竜はメインのイメージイラストにもなっている重要な魔物だ。
この火竜討伐こそが現在の最終目標だし、全てのプレイヤーがたどりつきたい頂点なのだ。
「いつか出会うのかな」
「ラルさんなら出会えると思います」
きっとすべてのプレイヤーに言っているのだと思うけれど、それでも嬉しくなる言葉だった。
「ありがとう。このあたりのことも分かったし、クエストを確認するよ」
「はい」
僕が依頼板に移動すると、いつものようにメニューが開く。『ロードラクルの討伐』『岩石人形の討伐』、『鉄鉱石の納品』が初めての討伐以外のクエストだった。
でも鉄鉱石は使うので、受けても納品する気にはならない。その他はよくわからない魔物の部位の納品などもあったけれど、今は確認だけで『鉱山迷宮』に行っておきたい。
もちろん『鉱山迷宮』に行く以上、『岩石人形の討伐』は受けておく。
「よし。そろそろ出発するよ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
僕らは『鉱山迷宮』へ向けて、まだ明るい街の中へと飛び出した。
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鉱山迷宮はチェルナーレの街の西から出て、森の中の道を進んでいけばたどり着けるという話だ。
道を進んでいれば襲われる可能性も低いということで、景色を眺めながら散歩気分で『鉱山迷宮』を目指していた。
「天気がいいと、ピクニック気分になるね」
「気持ちいいナァ」
「ウガァ」
ラビィもサクラも送還して、一人で歩いても問題ないのだけれど、やっぱり僕が一緒にいたいと思ってしまう。
風が吹くと木々たちから、ざざざっと葉の擦れる音が響き渡る。姿は見えないけれど、小鳥っぽいさえずりがピピピッと聞こえてくるのだ。
「癒される……」
深呼吸をしたところで、マイナスイオン効果なんてあるわけもない。だけどそうしたくなるくらい、森の中は心地よかった。
そうやって進んでいると、結構な距離を歩いているはずだが、魔物の襲撃もない。いつの間にか森がきれて、岩混じりの山の側まで来ていた。
「おっ、ポータル発見」
ゴツゴツとした道の先に、ポータルが存在した。意外に早かったかなと思いながら、僕はそこを目指す。
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「登録完了っと」
ポータルの場所は若干の広場になっており、数メートル離れた岩壁に穴が開いているのが見える。そここそが『鉱山迷宮』の入り口みたいだ。
そうやって眺めていると、『鉱山迷宮』から出てくるプレイヤーも見かけた。でもファームしているのか、すぐに姿を消してしまう。
「やってるねぇ。僕らも行こう」
「はいナァ」
「ウガァ」
ポータルを離れて迷宮の入口に近づくと、背後から『あっ』と言う声が聞こえた。その声に思わず振り向くと、そこには全身鎧を着たプレイヤーが立っている。
(女の子っぽい声だったけど、フルフェイスの兜で性別はわからないや。と言うか、あの人が声を出したのかな)
っと思っていたら、鎧の人のほうから近づいてきた。
「すいません。召喚師の方ですよね。小鬼と契約するなんてすごいですね」
「召喚師です。小鬼は珍しいんですか?」
サクラの前でガシャンと鎧を鳴らしながら、鎧の人はしゃがみこんだ。
「他の人で小鬼と契約している人を知らないです。私が見たことのある召喚師は、確実に『岩石人形』を使っていますね。多少の違いはあるみたいですけど」
いわゆるエッセンスによる違いだろう。ラビィの例もあるように、やりようによってはとんでもない『岩石人形』が生まれるかもしれない。
「使いやすいんですかね」
「単純に『鉱山迷宮』にこもる時間が長いので、手に入れる人が多いみたいですけど」
どうやら『鉱山迷宮』ファームは定番になるようだ。だからこそドロップする可能性が多いというわけだ。
「私も前は召喚師だったんですよね」
「えっ?」
全身鎧を見ていると、とてもそうは思えない。と言うか職業変更のシステムはないから、別キャラを作ったということだろう。
「もふもふが好きなんです。だから森狼が欲しくて、森で頑張ったんですけど……」
その気持はよく分かる。僕もサクラのために、どれだけ小鬼を倒したのか覚えていないほどだ。
「100体ほど倒したところで、心が折れてしまいまして……」
すくな! って言うのを止められた僕を自分で褒めてあげたい。はっきりいって100体なんて、入り口の入り口のそのまた入り口レベルの数だ。
「卵はレアドロップみたいなので、もう少し倒せば出たかもしれないですよ」
「でも100体ですよ」
どうやらこの人にとっては、100は大変な数らしい。
「諦めない限り、いつか手に入る。それがレアドロップです」
「すごい。その考えで小鬼と契約したんですね」
「小鬼の進化先を見て、どうしても契約したかったんですよね」
僕の言葉に鎧の人は俯いてしまった。どうしようかなと思っていると、先に鎧の人が顔を上げる。
「私にもできるでしょうか?」
『何がですか?』などとは言わない。この流れなら、何が言いたいのかはわかっている。普段の僕なら『そんなものはわからないよ』と言うところだけど、ある意味僕が煽ってしまった以上、ここは応援することにしよう。
「できますよ」
僕の言葉に、鎧の人はガシャンガシャンと音を立てながら、小躍りしていた。
「なんだかできる気がしてきました。前のキャラに戻って、もう一度頑張ってみたいと思います」
「うん。頑張ってね」
「そうだ。『鉱山迷宮』に行くんですよね。お礼にお手伝いします。私は戦士なんで、きっと役に立ちますよ」
革鎧のサクラと、布装備のラビイ。そしてよくわからない格好の僕とくれば、たしかに戦士がいてくれれば助かる。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「はい。パーティに誘ってください」
そう言えば初めてのパーティになる。ちょっと緊張したけれど、パーティへの勧誘は難しくない。メニューから申請すると、すぐに鎧の人が参加してきた。
「コールドベリーさん。よろしくね」
「あっ、コールドベリーです。ラルさん、よろしくおねがいします」
僕らはパーティにしか聞こえないチャンネルで挨拶をした。するといきなり、コールドベリーが驚いた声を出す。
「えっ、召喚獣だったんですか! あの、ラビィさんって」
「はい」
そう言えば見た目だけなら、ラビィはプレイヤーに見える。いわゆるNPCは名前が頭上に表示されたりするが、プレイヤーや召喚獣にはそれがない。でもパーティになれば、召喚獣は僕のメンバーとして、パーティとは違った枠に表示される。
それで召喚獣と気がついたみたいだ。
「やっぱりラルさんってすごいんですね」
「粘り強いだけですよ」
そんな事を話しながら、僕らは『鉱山迷宮』のノーマルにチャレンジした。




