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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
戦力が足りない
33/176

33.初めてのフレンド

 森の中を歩いていると、遠くの方に門が見える。あれこそが間違いなく、チェルナーレの門だろう。

 

「って、メール?」 

 

 今のところ僕に知り合いはいない。どこからのメールか確認すると、プレイヤー全員に送信される、運営のお知らせメールだった。

 

 更新情報のお知らせで、細かいバグフィックスと仕様変更について書いてある。

 

「おっ、やった」

 

 以前に要望していた付与の部分が修正されていた。一回の付与で最大五つの素材に付与できるように変更されている。あの部分が修正されるだけで、付与を絡めた生産が楽になるだろう。

 

「街への到着直前で、なんだか幸先が良いね」 

「いいナァ」 

 

 僕らが門へと近づいていくと、近くに門番みたいな男が立っている。森から近いので、魔物が侵入するのを警戒しているのかもしれない。

 

「ようこそ。チェルナーレへ」 


 どうやら街の名前を教えてくれる人らしい。僕らは会釈をしながら、大きな門をくぐった。するとすぐに広場になっており、ポータルが目の前にある。

 

 最近ではあまり見ないたくさんのプレイヤーが、広場でワイワイとしていた。

 

「すごい熱気だね」

「すごいナァ」


 近接は小鬼の村長や鬼の村長の装備をしている人が多い。そうでない人は店売りか、生産で手に入る装備みたいだ。

 

 後衛の人はローブ姿が多く、特に代わり映えがしない。とは言え色が変えられるので、それなりにカラフルな感じになっている。

 

 そして一番目立つのは、真っ黒なフルプレートを装備している人だろう。おそらくあれが黒騎士装備で、かなりの性能を持っているはずだ。

 

(きっと上位の人なんだろう。ということは、レベル7の装備を作れる鍛冶師がいるってことだ) 


 攻略重視の人たちは、生産が得意な人も知り合いにいるだろうし、そういう準備は万全なんだろうな。

 

 僕はそんな人たちを眺めながら、忘れないうちにポータルで登録をした。このまま街の大通りに向かって、最初は冒険者ギルドへ行ってみよう。

 

 大通りへ向けて歩きだすと、なんだか視線を感じてしまう。でもそんなことを気にしてはいられない。無視して僕は歩いていく。

 

(そういえば街の東にポータルがあるのか。鉱山迷宮は西だし、西にポータルがあるべきじゃないのかな)


 毎回歩くのは面倒な気がする。最初はいいけれど、繰り返すと億劫になるのが、今からでも予想がついた。

 

「その内に運営に報告だな」


 そうやって大通りに入っていくと、広場から女の子が一人、僕らの方へ近づいてくるのに気がついた。


「あの、こんにちは」 


 女の子はラビィに用事があったらしい。突然声をかけられたラビィは、僕の腰を抱きしめるようにして、さっと僕の陰に隠れた。

 

「ごめん。人見知りなんだ。何かありましたか?」

「あ、そうなんだ。あなたもよく見ると面白い格好だけど、この子の装備が気になったの」


 いきなりで失礼だなと思ったけど、言われてみれば面白い格好だろう。初期装備のズボンに小鬼のイラストのTシャツ。もこもこの手袋で、さらに芋虫イラストのマントを装備しているのだ。

 

 職業なんですかと聞かれてもおかしくはない。

 

 そしてラビィはシークレットダンジョン産の装備だから、きっと珍しいのだろう。でも性能は、今となってはそれほどでもないはずだ。


「ドロップです」

「どこの? って、あ、ごめんなさい。詮索するようなことを言って」


 女の子は紫色のローブを着ている。黒髪ショートカットに、魔法使いがよく被っている三角帽子を乗っけていた。どこからどう見ても魔法使いの女の子は、同じ魔法使いに見えるラビィに興味を持ったらしい。

 

 ラビィよりも背は大きいけれど、顔も小さくて困り眉で可愛らしくみえる。ただ美化機能を使っているだろうから、リアルでは微妙かもしれない。

 

 でもそう思ったら、普段美人や可愛い人に縁のない僕も、緊張せずに話すことができるのだ。

 

「かまわないです」

「場所を変えて話さない? 私がおごるよ」


 何をおごるのか微妙にわからないけれど、特に断る理由もなかった。

 

「はい」

「よかった。こっちについてきて」


 僕らは女の子についていった。


--------------------------


 女の子についていくと、到着したのは特別な食堂だった。複数のテーブルと椅子が並び、カウンターの向こうで男の人がフライパンを振っている。

 

「ここは誰でも使えるプライベートゾーンだから、気兼ねなく話しができるの。約束通り、ビッグバーガーをおごるわ」


 何をおごるかは約束していなかったけれど、女の子の中では確定だったようだ。


 この『バトルバトルオンライン』の略称は『BBO』と呼ばれている。だがこのBはバーガーのBじゃないかと言われているくらい、バーガーおしをしていた。

 

 このリアルマネーアイテムだけが売っている食堂でも、当然のように買えるのはバーガーだけだった。

 

 中でもこのビッグバーガーは、ちょうど中間の効果をもっている経験値増加アイテムだ。これを食べると取得経験値が増加する。30分という制限はあるけれど、時間内にガンガン倒せばたっぷりと経験値がもらえるのだ。

 

「待って。話が聞きたいって言ってたけれど、リアルマネーのアイテムを貰うほどの話でもないよ」

「私が知る限り、あなたの装備も、その子の装備も出所不明だわ。あっと、自己紹介がまだだったよね」

 

 女の子は椅子に座り直した。

 

「私の名はマーミン。伝説の魔女、マーミンよ」 

 

 真顔でそんなことを言ってくる。マーミンの名前に聞き覚えがあると思ったら、例のランキングに載っていた魔法使いだ。一位の人は爆炎魔法少女って二つ名を名前に入れていたけれど、どうやらマーミンは自分で名乗るタイプらしい。

 

 でも僕はこういう人が好きだ。変に萎縮して楽しめないより、全力で楽しむタイプが好きなのだ。

 

「ご丁寧にありがとう。僕はあらゆるものを手に入れるレアハンター、召喚師のラルさ」

「レアハンター……召喚師……」 

 

 同じノリの自己紹介に喜んでくれると思ったら、マーミンは困惑した表情になった。

 

「どうかした?」

「まさかMUOでも召喚師をやっていたラルさん?」

 

 『MUO』、つまりマジックユーザーオンライン。プレイヤーが全員魔法を使う職業しかできない、最近サービスが終了したゲームだった。僕はもちろんそのゲームでも召喚師だったし、それを知っているマーミンは知り合いかもしれない。

 

 と言うか魔女といえば、彼女しか思いつかない。

 

「もしかして大魔女マリーシアか?」 

 

 でも僕の言葉に、マーミンは複雑そうな顔になる。

 

「あの、その人じゃなく、知り合いだったわけでもないのだけど、マリーシアさんのプレイスタイルに憧れて、このゲームで伝説の魔女を名乗ってます」 

 

 マリーシアのプレイスタイルは、頼ってくるものは助け、敵になれば容赦はしない。来るもの拒まず、去るもの滅殺のわかりやすいプレイヤーだった。

 

 僕としては去るもの追わずでいいんじゃないと思っていたけれど、マリーシアはそういうのは嫌だったみたいだ。

 

「そうなんだ。まあ特殊な人だったけどね」 

「話を戻すけれど、その装備の情報を、ビッグバーガーで教えてもらえる?」 

 

 ロールプレイでこういう話し方をしているようだ。本来はもっと丁寧な感じな気がした。でもそれとは関係なく、この程度は大した情報でもないだろう。

 

 むしろリアルマネーアイテムを貰えるのに、こんな情報でいいのかと少し不安になるくらいだ。

 

「知りたい情報は?」 

「この子の装備の入手場所と、特殊な場所なら入場方法。よかったらそのTシャツとマントの話も聞きたいわ。あ、それとうさぎコスプレ情報もお願い」

 

 まとまると意外に多い。装備の情報だけだと悪いかなと思っていたので、増える分にはちょうどいい気がした。

 

「了解。まずラビィ、この子の装備だけど、入手場所は『小鬼の村』にある『邪妖精の迷宮』だよ」

「えっ、なんども『小鬼の村長』ファームをしたけど、そんな迷宮あるの?」 


 ファームしていたなら、正直この迷宮に行くのは大変だろう。方法は予想がついているけれど、かなりの苦労をするはずだ。

 

「小鬼と仲良くなったら教えてもらえるんだ。あとは……」 

「ま、待って。仲良くなれるの?」 

「なれるよ。頑張ればね」 

 

 鬼とは敵対すれば『黒騎士の修練場』だし、仲良くなれば『邪妖精の迷宮』に行ける。前衛と後衛で別れている気がするから、マーミンは『邪妖精の迷宮』に行くべきかもしれない。

 

 でも『小鬼の村長』ファームをしていたなら、森の小鬼を何体倒せば仲良くなれるのかなんて、想像もできないくらいの数な気がする。

 

「えっと、どうやって仲良くなるの?」 

「村の近くの森にいる小鬼を、ひたすら倒し続けるんだ。決して村の中の小鬼を襲ってはいけない。そうしたら仲良くなれるけれど、すでに村長を倒しているのだから、どれだけ倒せば仲良くなれるのかは予想がつかないよ」

「そ、そうなんだ。でも方法がわかっただけでも嬉しいわ」 

 

 後は僕のTシャツとマント、うさぎコスプレの話だ。

 

「Tシャツはその森で小鬼を狩っていたら、Tシャツを着た小鬼がポップしたんだ。一度しか出会っていないから、必ずTシャツをドロップするかはわからない。マントは『はじまりの街』からこっちへ向かって馬車に乗ってたどり着く、最初の村の北で出会う『芋虫の王』のドロップだよ」 

「あの村の北に、そんな魔物がいたんだ」 

 

 マーミンは顎に手を当てて、何かを考えているようだ。僕は気にせず話を続ける。

 

「で、うさぎコスプレだけど、この耳は自前だよ」 

「自前? って生えてるの?」 

 

 僕はコクリと頷いた。

 

「えっ、もしかして召喚獣? でも人型のうさぎはラビットンのはず」 

「契約時の無限の可能性ってやつみたいだよ」 

「そう言えば小鬼と契約しているのも珍しいし、一体何者なの……ってレアハンターのラルさんだよね」


 何かに疑問を持ち、何かに納得してマーミンは一人で何度も頷いている。

 

「一応言っておくけれど、ラビィが装備している妖精シリーズは、それほど性能は良くないよ」 

「迷宮ならばハードやナイトメアがあるでしょ。そっちではドロップの質も上がるしって、もうクリアしちゃってる?」 


 難易度が上がればドロップが良くなるのは予想していたけれど、僕はノーマルしか攻略していない。

 

「いや、ノーマルだけだから、ハードとかだと良くなるだろうね」 

「ならなおさら価値があるわ。って、もしかしてこの小鬼ちゃんが装備しているのは、メイドのカチューシャ!?」 

「ん? そうだよ」 

 

 なんだかマーミンは驚いてばかりな気がするけれど、メイドシリーズは最近噂になっていると言っていたし、まだそれほど広まっていない情報なのだろう。

 

「あ、あの、ビッグバーガーを追加するから、ドロップ情報を教えてくれないかな?」

「いいよ。常闇の森のアロイ・ガライの館にある迷宮でドロップするよ」

「あの話、本当だったの? でも館なんてどこにもなかった」

 

 例の謎のせいだろう。でもそれを教えるのは、何かが違う気がする。だって楽しみを奪ってしまう行為だもの。

 

「常闇の森に館はある。絶対にあるから、安心して探してよ」 

「ありがとう。あるとわかって探すのと、本当かなで探すのは大違いだからね。絶対見つけて見せるわ。伝説の魔女の名にかけて!」 

 

 驚き続きだったマーミンも、どうやら調子を取り戻したらしい。

 

「ねぇ、よかったらフレンド登録しない?」


 突然の申し出だったけど、特に断る理由もないし、というか断る意味がわからない。

 

「もちろん。よろしくね」 

 

 僕はメニューからフレンド申請を送った。そしてすぐにそれは了承される。

 

「こちらこそよろしく。何かあったら、伝説の魔女マーミンを思い出して」


 頼られれば全力で助ける。きっとあの魔女と同じように、そういうプレイをしているのだろう。

 

「それじゃがんばってね。ビッグバーガーを二つもありがとう」 

「あっ、ビッグバーガーはもちろん食べられるけど、実際に食べなくても使えばいいからね。腐ったりもしないし」


 食べなきゃダメだと思っていたけれど、ただ使うだけでもいいようだ。知らなかったとか言えば話が長くなりそうなので、そこは空気を読んでスルーする。


「ん、じゃあまたね」

「またね」 

 

 僕らはそうして食堂からでた。

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