31.いきなりの森狼王
僕らはアロイ・ガライの館を出て、鬼の村までやってきていた。ここのお店で無魔法の魔導書が売っていれば、僕の強化につながるからだ。
「すいません。品物を確認に来ました」
「我が友、ゆっくりみていっておくれ」
僕の前にメニューが開かれる。
見慣れた魔法が並ぶ中、運良く『無魔法:ムーンスピア』を発見した。
「やった。僕はラッキーだ」
でも買おうとしたら、なぜか買うことができない。
「ん、あれ。あっ」
価格が2000石貨。僕の所持石貨は1000とちょっと、全然足りなかったのだ。
「お金が足りない!」
「ならおばさんのお願いを聞いてくれるかい? うまく行けば500石貨の仕事だよ」
それでも足りない。でもやらなければ、絶対に増えない。何にしろやるしかないのだ。
「やります。それっていくつも受けられますか?」
「おばさん以外にも力を貸して欲しい人はいるよ。例えば向こうにいる自警団の団長さんなら、森狼の討伐を依頼してくるはずさ」
もし報酬が同じなら、それでなんとか石貨は足りる。
「ありがとうございます。仕事をさせてください」
「ありがとうね」
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デイリークエスト:鬼の大好物を手に入れろ
鬼桃樹×10
鬼桃×30
報酬:500石貨
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「行ってきます!」
「気をつけてね」
僕はその足で、自警団団長のもとへ向かった。
「すいません。討伐の仕事がもらえると聞いてきました」
「おお、我が友。よろしく頼みますぞ」
革鎧を来たイカツイ感じの鬼が、どうやら団長で間違いなかったようだ。
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デイリークエスト:森狼を討伐せよ
森狼×20
報酬:500石貨
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どちらも単純そうなクエストだ。僕は急いで『鬼の村』を出て、まずは森狼の討伐だ。
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村から離れると、フォームAで僕らは森狼を探して歩いた。
不意に木々の間から森狼が一頭、サクラに向かって飛びかかってくる。
「ウガァ」
小鬼小刀の一振りで、森狼は多角形の板になって消えていった。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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物理で言えば、サクラが一番高い攻撃力を持っている。レベルではサクラは劣っているけれど、この森ならば十分な戦力になっていた。
「フォームトライアングル!」
一頭だけだと思っていたら、さらに二頭が飛び込んでくる。僕らは三角形になって陣取り、周囲からの攻撃に備えた。
「ムーンブラスト!」
「ウガァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
森狼の牙×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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森狼ならば一撃で倒すことができる。サクラも向かってくる森狼を、またしても一撃で倒していた。
「ラビィ、そっちにも行ったぞ」
「まかせるナァ」
一頭がラビィへ向かっている。やはり今回の襲撃は集団戦闘みたいだ。
「アクアランスナァ!」
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森狼の皮×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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でも森狼ならば、僕らは全員一撃で倒すことができる。油断さえしなければ、ボーナスタイムになるだろう。
(ついでに卵とかでないかな……)
淡い期待が浮かんでしまう。召喚とかテイムと言えば、やっぱり狼が定番だろう。僕は男だけど、少女が狼とともに冒険とか考えただけで、ほんわかとした旅が想像できてしまう。
「それっ」
「ウガァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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時々ラビィの突進と同じくらい素早く、接近してくる森狼もいる。そんな時は魔法に頼らず、バスタードソードで攻撃する。その場合は一撃にならないので、魔法で追い打ちをかけていく。
「ムーンブラスト!」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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順調だ。でももう当たり前に思えるくらいに、森狼の卵はでない。そう言えば小鬼の卵を手に入れてから、卵のドロップを見たことがない。
「突進! アクアショットナァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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ラビィも突進だけでは倒せない。その場合はいつものコンボだった。
「げぇ、ムーンボム!」
サクラに一頭、僕に三頭向かってきたので、思わず変な声が漏れた。二頭はムーンボムの範囲だが、一頭が無傷で僕まで接近する。
僕は迫りくる牙より速く、バスタードソードを振るった。
「ムーンブラスト!」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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近接してきた一頭は倒せたが、体勢を立て直した二頭が迫ってくる。
「ウガァ」
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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サクラは自分に向かった一頭を簡単に倒していたが、僕はどちらの魔法もリキャストタイム中で、使うことができなかった。
「アクアランスナァ」
背後からラビィの魔法が飛んでくる。
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森狼の牙×1
獣エッセンス×2 を手に入れました
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「ありがと、ラビィ!」
一頭になった森狼に向けて、僕はバスタードソードを振り下ろす。
パァンと気持ち良いくらいに、ダメージエフェクトが飛んで行った。
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森狼の皮×1
獣エッセンス×5 を手に入れました
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「アンコモンゲット! おまけで卵も頂戴!」
とか言っていたら、森狼が襲ってこなくなった。どうやら集団を殲滅したみたいだ。
「あれ、もう終わりか。残りを探さないとね」
「マスター、あれを見るナァ」
ラビィの指差す方を見ると、森狼よりも一回り大きい狼がそこにいた。
詳細を確認すると、森狼王となっている。芋虫の王もいたし、何かしらボス的な存在は王を名乗るのかもしれない。
「ウオォォォォン!」
森狼王の咆哮。スキルだったらしく、一瞬体の動きが止まる。
「サクラ!」
ラビィは大丈夫だったみたいだけれど、サクラはブルブルと震えて動かない。おそらくはレベル差で、思い切りスキルの影響を受けたのだろう。
「ムーンブラスト!」
「アクアショットナァ!」
今まで魔法をよけられた事はなかった。でもこの森狼王は着弾の瞬間、ブワッとブレてその場から消える。
「どこっ」
「ガァ」
サクラが僕の近くへ飛んでくる。いつの間にか森狼王は、サクラへ突進していたのだ。その速さは、ラビィの突進以上かもしれない。
(森狼が突進系を使うんだ。森狼王が使うことも警戒するべきだった)
「突進! アクアランスナァ!」
意外にもラビィはヒールではなく、森狼王へと突進していた。おそらくヒールしていれば、森狼王の追撃をサクラが受けると考えたのだろう。
「よくもサクラを! 僕が前に出る!」
サクラを背後に隠すようにして、僕は森狼王へ向けて駆け出した。魔法で遠距離とかしている場合ではない。サクラを守るために、僕が近接するんだ。
「ムーンシールド!」
ガンっと見えない盾に森狼王がぶち当たる。僕の悪い予感が当たっていた。さっき突進したばかりのはずだけど、なぜかもう一度くる気がしたのだ。
「ヒールサークル。ヒールナァ!」
その間にサクラが癒される。チラリと後ろを見ると、サクラが立ち上がっていた。
「ムーンボム!」
突進の隙きをついて、僕は最大の魔法を打ち込む。どうやら突進で移動しなければ、魔法はよけられないようだ。
「アクアショットナァ」
ラビィの魔法も着弾する。やはり突進でなければ、避けられない理論は正しいらしい。
「ワオォォォン!」
目の前で森狼王が叫んだ。その声に一瞬だけ体が固まってしまう。でも叫んでいる間は森狼王も攻撃はしてこない。きっとレベル差のおかげで、僕はこのスキルに耐えられるのだ。
叫びをやめると、森狼王はガブリと噛み付くように顔を突き出してきた。僕はその口へ向けて、真横にバスタードソードを払う。ガチンと森狼王は、嘘みたいに僕のバスタードソードに噛み付いた。
「このっ、離せ!」
「突進! アクアランスナァ」
僕が森狼王をおさえている間に、ラビィのコンボが決まる。でもさすが王を名乗るだけあって、まだまだ元気に思えた。
「ウガガァ」
そこへさっきのお返しとばかり、サクラの小鬼小刀が振り下ろされる。胴体を真っ二つとはいかなかったが、十分な程の多角形の板が飛び散った。
さすがに苦しかったのか、僕のバスタードソードを口から離した。
「せい!」
森狼王に向けて、僕はバスタードソードを突き出した。
「ウガァ」
僕の一撃はよけられたけど、サクラがそこを追撃する。
こうなればもう僕らの勝利は決まったようなものだ。ラビィの魔法と、僕の近接で森狼王を追い詰めていく。
「消えた!」
サクラが思い切り振り下ろした小鬼小刀が、なにもいない空を切った。
「突進で逃げたのか! ムーンボム!」
「アクアランスナァ!」
攻撃ではなく回避で突進を使う可能性は考えていた。だから僕は落ち着いて、準備しておいた魔法を放つ。
ラビィもこれを狙っていたのか、偶然にも同時のタイミングだった。
「アギャァァァァ……」
断末魔とも思える声と、たくさんの多角形の板を撒き散らしながら、森狼王は消えていった。
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森狼王の手袋×1
妖エッセンス×3
獣エッセンス×9 を手に入れました
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ちょっとヒヤッとしたけれど、比較的問題なく討伐することができた。
「よっし、レアゲット!」
「マスター、おめでとナァ」
「ウガガァ」
僕は『森狼王の手袋』の詳細を確認した。防御力5、反応+2という性能だった。特殊効果はないけれど、手袋と考えれば、かなりの防御力はある。
「うん。悪くない」
ひとしきり眺めた後、僕はそれを装備した。もこもこに茶色い毛が生えた、肘まである手袋だ。ちょっぴり肘から先だけ、狼男気分になる。
「森狼の数が足りない。急いでクエストをクリアするよ」
「はいナァ」
「ウガァ」
思わぬ魔物に出会ったけれど、今は時間が重要だ。僕らはフォームAに戻って、さらに森狼を探して歩いた。
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他のパーティのスポット的な話を書いてみました。
本編の合間に投稿すると本編が止まるので、あとがきにしました。
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魔法使い マーミン1
私はこのゲームを初めた頃、いきなり二人組にナンパされた。本当なら無視しても良かったのだけど、魔法使いがいなくて助けてほしいとか言われれば、私のプレイスタイル的に断る気にはならなかった。
頼られれば助け、敵対すれば容赦しない。それが私、伝説の魔女マーミンのプレイスタイルなのだ。
そのうちに回復役のモルギットもパーティに加わり、男二人と女二人というバランスのいい感じになる。
意外に相性が良かったのか、『小鬼の村』のファームも絶好調で、レベルを上げて西へと向かい、魔導書クエストをこなし、ギルドの依頼をこなし、そうやって『鉱山迷宮』にもチャレンジするようになった。
仲間の剣士はメーヴェリン、戦士はパーフェクトタンク。愛称みたいな名前だけど、パーフェクトタンクという痛い名前をつけていた。
私も伝説の魔女とか名乗っているので、こういう人は嫌いじゃない。ランキングにも名前が載るくらいに順調に過ごしてきたけれど、もとから感じていた僅かな不満が、この『鉱山迷宮』の難度ナイトメアで火を吹いた。
「マーミン。範囲攻撃だ!」
アタックリーダーのメーヴェリンから指示が出る。いまパーフェクトタンクが3体の魔物を抱えている状況で、さらに2体が現れたのだ。
この状況で範囲魔法を撃てば、タンクがターゲットをとっていない2体が間違いなく私へ向かう。
「我が名はパーフェクトタンク!」
戦士の名乗りで新しい2体もパーフェクトタンクへ向かった。
「ファイアフィールド!」
火魔法レベル6の範囲魔法だ。この攻撃だけでは倒しきれないけれど、そこにメーヴェリンが飛び込んだ。
「連撃! 連撃! 連撃ぃ!」
剣士は通常攻撃が、自然に二回攻撃になる。リキャストタイムがないので、攻撃力だけならば最強の存在になれるだろう。
「ぐえっ」
でもダメージを与えるということは、注目されるということだ。いわゆるヘイト管理が苦手なメーヴェリンは、こうやって無駄なダメージを受けてしまう。
「ヒールサークル」
モルギットが二人まとめて回復する。本来ならヒールだけでいいところを、余計な魔法力の消費だった。
「カウンターシールド!」
最後の一体になった岩石人形を、パーフェクトタンクの技で倒す。
「よっしゃ。俺達は無敵だぜ!」
空気も読めず、メーヴェリンが歓喜の声を上げる。
だけどモルギットは肩で息をするほど疲労しているし、私もかなりの魔法力を使っている。ナイトメアは今までと違って、連戦になることが多い。
ここはしばらく休憩してから、あらためて進むべき時だ。
「この勢いで攻略するぜ!」
なのにメーヴェリンは通路を進んでしまう。そして私の懸念通り、ボコボコと『岩石人形』が姿を表した。
「我が名はパーフェクトタンク!」
運悪く湧いた五体を、パーフェクトタンクがなんとか抑えて耐える。
「ゴッデスヒール!」
パーフェクトタンクが優しげな白い手で包まれた。この魔法は一定間隔ごとに回復する、いわゆるリジェネレーション系の魔法だ。
「後ろから斬りまくりだ! 連撃! 連撃! 連撃ぃ!」
何も考えていないのか、メーヴェリンは魔物の背後に回って攻撃する。確かにダメージは上がるけれど、この場合は位置取りが重要なのだ。
「さらに3!」
私は警告を発した。剣士は私ほどではないけれど、防御力なんて紙みたいなものだ。軽く殴られただけで、確実に倒されるだろう。
「そんなこと言ってる間に、範囲魔法で攻撃しろよ!」
さっきと同じ状況だが、ターゲットを取っていない魔物に攻撃するなんて、魔法使いにとっては自滅を望んでいるようなものだ。
だがアタックリーダーであるメーヴェリンが言う以上、やらないわけにもいかなかった。
「責任取ってよ。ファイアボール!」
メーヴェリンに近づいてきた3体に、全力のファイアボールを叩き込んだ。でもさすがに魔法力がまずい。魔法力を回復するアイテムもないし、これで魔法もしばらく使えない。
「ぐえっ」
「ヒールサークル!」
メーヴェリンは自分で攻撃した岩石人形から攻撃を食らう。倒しきれないのに高ダメージで攻撃するなんて、自殺行為だということを理解していない。
「だめ。もう魔法は……」
高レベルの回復魔法を使ったせいか、モルギットも限界みたいだ。
「我が名はパーフェクトタンク!」
っと叫んでいるが、リキャストタイムを過ぎていない。
当然ファイアボールで攻撃した3体は、私に向かって近づいてくる。
「マーミン逃げるな! 俺が助ける」
メーヴェリンが助けに来る。逃げるなは正しいし、逃げる気もないけれど、状況からは外れた行動だ。
(いつかこうなると思ったよ……)
私の目の前に、岩石人形の拳が迫ってきた。
つづく




