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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
戦力が足りない
31/176

31.いきなりの森狼王

 僕らはアロイ・ガライの館を出て、鬼の村までやってきていた。ここのお店で無魔法の魔導書が売っていれば、僕の強化につながるからだ。

 

「すいません。品物を確認に来ました」 

「我が友、ゆっくりみていっておくれ」


 僕の前にメニューが開かれる。

 

 見慣れた魔法が並ぶ中、運良く『無魔法:ムーンスピア』を発見した。

 

「やった。僕はラッキーだ」 


 でも買おうとしたら、なぜか買うことができない。

 

「ん、あれ。あっ」 


 価格が2000石貨。僕の所持石貨は1000とちょっと、全然足りなかったのだ。

 

「お金が足りない!」

「ならおばさんのお願いを聞いてくれるかい? うまく行けば500石貨の仕事だよ」


 それでも足りない。でもやらなければ、絶対に増えない。何にしろやるしかないのだ。


「やります。それっていくつも受けられますか?」

「おばさん以外にも力を貸して欲しい人はいるよ。例えば向こうにいる自警団の団長さんなら、森狼の討伐を依頼してくるはずさ」


 もし報酬が同じなら、それでなんとか石貨は足りる。

 

「ありがとうございます。仕事をさせてください」 

「ありがとうね」


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デイリークエスト:鬼の大好物を手に入れろ

鬼桃樹×10

鬼桃×30

報酬:500石貨

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「行ってきます!」

「気をつけてね」


 僕はその足で、自警団団長のもとへ向かった。

 

「すいません。討伐の仕事がもらえると聞いてきました」 

「おお、我が友。よろしく頼みますぞ」


 革鎧を来たイカツイ感じの鬼が、どうやら団長で間違いなかったようだ。

 

>>>>>>>

デイリークエスト:森狼を討伐せよ

森狼×20

報酬:500石貨

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 どちらも単純そうなクエストだ。僕は急いで『鬼の村』を出て、まずは森狼の討伐だ。

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 村から離れると、フォームAで僕らは森狼を探して歩いた。

 

 不意に木々の間から森狼が一頭、サクラに向かって飛びかかってくる。

 

「ウガァ」


 小鬼小刀の一振りで、森狼は多角形の板になって消えていった。

 

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森狼の牙×1

獣エッセンス×4 を手に入れました

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 物理で言えば、サクラが一番高い攻撃力を持っている。レベルではサクラは劣っているけれど、この森ならば十分な戦力になっていた。

 

「フォームトライアングル!」 

 

 一頭だけだと思っていたら、さらに二頭が飛び込んでくる。僕らは三角形になって陣取り、周囲からの攻撃に備えた。

 

「ムーンブラスト!」 

「ウガァ」 


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森狼の牙×1

獣エッセンス×2 を手に入れました

森狼の牙×1

獣エッセンス×3 を手に入れました

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 森狼ならば一撃で倒すことができる。サクラも向かってくる森狼を、またしても一撃で倒していた。

 

「ラビィ、そっちにも行ったぞ」 

「まかせるナァ」 

 

 一頭がラビィへ向かっている。やはり今回の襲撃は集団戦闘みたいだ。

 

「アクアランスナァ!」 

 

>>>>>>>

森狼の皮×1

獣エッセンス×3 を手に入れました

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 でも森狼ならば、僕らは全員一撃で倒すことができる。油断さえしなければ、ボーナスタイムになるだろう。

 

(ついでに卵とかでないかな……)


 淡い期待が浮かんでしまう。召喚とかテイムと言えば、やっぱり狼が定番だろう。僕は男だけど、少女が狼とともに冒険とか考えただけで、ほんわかとした旅が想像できてしまう。

 

「それっ」

「ウガァ」

 

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森狼の牙×1

獣エッセンス×4 を手に入れました

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 時々ラビィの突進と同じくらい素早く、接近してくる森狼もいる。そんな時は魔法に頼らず、バスタードソードで攻撃する。その場合は一撃にならないので、魔法で追い打ちをかけていく。


「ムーンブラスト!」


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森狼の牙×1

獣エッセンス×3 を手に入れました

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 順調だ。でももう当たり前に思えるくらいに、森狼の卵はでない。そう言えば小鬼の卵を手に入れてから、卵のドロップを見たことがない。

 

「突進! アクアショットナァ」 


>>>>>>>

森狼の牙×1

獣エッセンス×2 を手に入れました

<<<<<<<


 ラビィも突進だけでは倒せない。その場合はいつものコンボだった。

 

「げぇ、ムーンボム!」 


 サクラに一頭、僕に三頭向かってきたので、思わず変な声が漏れた。二頭はムーンボムの範囲だが、一頭が無傷で僕まで接近する。

 

 僕は迫りくる牙より速く、バスタードソードを振るった。

 

「ムーンブラスト!」


>>>>>>>

森狼の牙×1

獣エッセンス×4 を手に入れました

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 近接してきた一頭は倒せたが、体勢を立て直した二頭が迫ってくる。


「ウガァ」


>>>>>>>

森狼の牙×1

獣エッセンス×2 を手に入れました

<<<<<<<


 サクラは自分に向かった一頭を簡単に倒していたが、僕はどちらの魔法もリキャストタイム中で、使うことができなかった。

 

「アクアランスナァ」 


 背後からラビィの魔法が飛んでくる。

 

>>>>>>>

森狼の牙×1

獣エッセンス×2 を手に入れました

<<<<<<<


「ありがと、ラビィ!」


 一頭になった森狼に向けて、僕はバスタードソードを振り下ろす。

 

 パァンと気持ち良いくらいに、ダメージエフェクトが飛んで行った。

 

>>>>>>>

森狼の皮×1

獣エッセンス×5 を手に入れました

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「アンコモンゲット! おまけで卵も頂戴!」


 とか言っていたら、森狼が襲ってこなくなった。どうやら集団を殲滅したみたいだ。

 

「あれ、もう終わりか。残りを探さないとね」 

「マスター、あれを見るナァ」

 

 ラビィの指差す方を見ると、森狼よりも一回り大きい狼がそこにいた。

 

 詳細を確認すると、森狼王となっている。芋虫の王もいたし、何かしらボス的な存在は王を名乗るのかもしれない。

 

「ウオォォォォン!」


 森狼王の咆哮。スキルだったらしく、一瞬体の動きが止まる。

 

「サクラ!」 


 ラビィは大丈夫だったみたいだけれど、サクラはブルブルと震えて動かない。おそらくはレベル差で、思い切りスキルの影響を受けたのだろう。

 

「ムーンブラスト!」 

「アクアショットナァ!」


 今まで魔法をよけられた事はなかった。でもこの森狼王は着弾の瞬間、ブワッとブレてその場から消える。

 

「どこっ」 

「ガァ」


 サクラが僕の近くへ飛んでくる。いつの間にか森狼王は、サクラへ突進していたのだ。その速さは、ラビィの突進以上かもしれない。

 

(森狼が突進系を使うんだ。森狼王が使うことも警戒するべきだった) 


「突進! アクアランスナァ!」


 意外にもラビィはヒールではなく、森狼王へと突進していた。おそらくヒールしていれば、森狼王の追撃をサクラが受けると考えたのだろう。

 

「よくもサクラを! 僕が前に出る!」 


 サクラを背後に隠すようにして、僕は森狼王へ向けて駆け出した。魔法で遠距離とかしている場合ではない。サクラを守るために、僕が近接するんだ。

 

「ムーンシールド!」 


 ガンっと見えない盾に森狼王がぶち当たる。僕の悪い予感が当たっていた。さっき突進したばかりのはずだけど、なぜかもう一度くる気がしたのだ。

  

「ヒールサークル。ヒールナァ!」


 その間にサクラが癒される。チラリと後ろを見ると、サクラが立ち上がっていた。 


「ムーンボム!」


 突進の隙きをついて、僕は最大の魔法を打ち込む。どうやら突進で移動しなければ、魔法はよけられないようだ。

 

「アクアショットナァ」 


 ラビィの魔法も着弾する。やはり突進でなければ、避けられない理論は正しいらしい。


「ワオォォォン!」 


 目の前で森狼王が叫んだ。その声に一瞬だけ体が固まってしまう。でも叫んでいる間は森狼王も攻撃はしてこない。きっとレベル差のおかげで、僕はこのスキルに耐えられるのだ。

 

 叫びをやめると、森狼王はガブリと噛み付くように顔を突き出してきた。僕はその口へ向けて、真横にバスタードソードを払う。ガチンと森狼王は、嘘みたいに僕のバスタードソードに噛み付いた。

 

「このっ、離せ!」 

「突進! アクアランスナァ」


 僕が森狼王をおさえている間に、ラビィのコンボが決まる。でもさすが王を名乗るだけあって、まだまだ元気に思えた。

 

「ウガガァ」 

 

 そこへさっきのお返しとばかり、サクラの小鬼小刀が振り下ろされる。胴体を真っ二つとはいかなかったが、十分な程の多角形の板が飛び散った。


 さすがに苦しかったのか、僕のバスタードソードを口から離した。

 

「せい!」


 森狼王に向けて、僕はバスタードソードを突き出した。

 

「ウガァ」


 僕の一撃はよけられたけど、サクラがそこを追撃する。

 

 こうなればもう僕らの勝利は決まったようなものだ。ラビィの魔法と、僕の近接で森狼王を追い詰めていく。

 

「消えた!」 

 

 サクラが思い切り振り下ろした小鬼小刀が、なにもいない空を切った。

 

「突進で逃げたのか! ムーンボム!」 

「アクアランスナァ!」 

 

 攻撃ではなく回避で突進を使う可能性は考えていた。だから僕は落ち着いて、準備しておいた魔法を放つ。

 

 ラビィもこれを狙っていたのか、偶然にも同時のタイミングだった。

 

「アギャァァァァ……」 

 

 断末魔とも思える声と、たくさんの多角形の板を撒き散らしながら、森狼王は消えていった。

 

>>>>>>>

森狼王の手袋×1

妖エッセンス×3

獣エッセンス×9 を手に入れました

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 ちょっとヒヤッとしたけれど、比較的問題なく討伐することができた。

 

「よっし、レアゲット!」 

「マスター、おめでとナァ」 

「ウガガァ」 

 

 僕は『森狼王の手袋』の詳細を確認した。防御力5、反応+2という性能だった。特殊効果はないけれど、手袋と考えれば、かなりの防御力はある。

 

「うん。悪くない」 

 

 ひとしきり眺めた後、僕はそれを装備した。もこもこに茶色い毛が生えた、肘まである手袋だ。ちょっぴり肘から先だけ、狼男気分になる。

 

「森狼の数が足りない。急いでクエストをクリアするよ」 

「はいナァ」 

「ウガァ」

 

 思わぬ魔物に出会ったけれど、今は時間が重要だ。僕らはフォームAに戻って、さらに森狼を探して歩いた。 

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他のパーティのスポット的な話を書いてみました。

本編の合間に投稿すると本編が止まるので、あとがきにしました。

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魔法使い マーミン1


 私はこのゲームを初めた頃、いきなり二人組にナンパされた。本当なら無視しても良かったのだけど、魔法使いがいなくて助けてほしいとか言われれば、私のプレイスタイル的に断る気にはならなかった。


 頼られれば助け、敵対すれば容赦しない。それが私、伝説の魔女マーミンのプレイスタイルなのだ。


 そのうちに回復役のモルギットもパーティに加わり、男二人と女二人というバランスのいい感じになる。


 意外に相性が良かったのか、『小鬼の村』のファームも絶好調で、レベルを上げて西へと向かい、魔導書クエストをこなし、ギルドの依頼をこなし、そうやって『鉱山迷宮』にもチャレンジするようになった。


 仲間の剣士はメーヴェリン、戦士はパーフェクトタンク。愛称みたいな名前だけど、パーフェクトタンクという痛い名前をつけていた。


 私も伝説の魔女とか名乗っているので、こういう人は嫌いじゃない。ランキングにも名前が載るくらいに順調に過ごしてきたけれど、もとから感じていた僅かな不満が、この『鉱山迷宮』の難度ナイトメアで火を吹いた。


「マーミン。範囲攻撃だ!」


 アタックリーダーのメーヴェリンから指示が出る。いまパーフェクトタンクが3体の魔物を抱えている状況で、さらに2体が現れたのだ。


 この状況で範囲魔法を撃てば、タンクがターゲットをとっていない2体が間違いなく私へ向かう。


「我が名はパーフェクトタンク!」

 

 戦士の名乗りで新しい2体もパーフェクトタンクへ向かった。


「ファイアフィールド!」


 火魔法レベル6の範囲魔法だ。この攻撃だけでは倒しきれないけれど、そこにメーヴェリンが飛び込んだ。


「連撃! 連撃! 連撃ぃ!」


 剣士は通常攻撃が、自然に二回攻撃になる。リキャストタイムがないので、攻撃力だけならば最強の存在になれるだろう。


「ぐえっ」


 でもダメージを与えるということは、注目されるということだ。いわゆるヘイト管理が苦手なメーヴェリンは、こうやって無駄なダメージを受けてしまう。


「ヒールサークル」


 モルギットが二人まとめて回復する。本来ならヒールだけでいいところを、余計な魔法力の消費だった。


「カウンターシールド!」


 最後の一体になった岩石人形を、パーフェクトタンクの技で倒す。


「よっしゃ。俺達は無敵だぜ!」


 空気も読めず、メーヴェリンが歓喜の声を上げる。


 だけどモルギットは肩で息をするほど疲労しているし、私もかなりの魔法力を使っている。ナイトメアは今までと違って、連戦になることが多い。


 ここはしばらく休憩してから、あらためて進むべき時だ。


「この勢いで攻略するぜ!」


 なのにメーヴェリンは通路を進んでしまう。そして私の懸念通り、ボコボコと『岩石人形』が姿を表した。


「我が名はパーフェクトタンク!」


 運悪く湧いた五体を、パーフェクトタンクがなんとか抑えて耐える。


「ゴッデスヒール!」


 パーフェクトタンクが優しげな白い手で包まれた。この魔法は一定間隔ごとに回復する、いわゆるリジェネレーション系の魔法だ。


「後ろから斬りまくりだ! 連撃! 連撃! 連撃ぃ!」


 何も考えていないのか、メーヴェリンは魔物の背後に回って攻撃する。確かにダメージは上がるけれど、この場合は位置取りが重要なのだ。


「さらに3!」


 私は警告を発した。剣士は私ほどではないけれど、防御力なんて紙みたいなものだ。軽く殴られただけで、確実に倒されるだろう。


「そんなこと言ってる間に、範囲魔法で攻撃しろよ!」


 さっきと同じ状況だが、ターゲットを取っていない魔物に攻撃するなんて、魔法使いにとっては自滅を望んでいるようなものだ。


 だがアタックリーダーであるメーヴェリンが言う以上、やらないわけにもいかなかった。


「責任取ってよ。ファイアボール!」


 メーヴェリンに近づいてきた3体に、全力のファイアボールを叩き込んだ。でもさすがに魔法力がまずい。魔法力を回復するアイテムもないし、これで魔法もしばらく使えない。


「ぐえっ」

「ヒールサークル!」


 メーヴェリンは自分で攻撃した岩石人形から攻撃を食らう。倒しきれないのに高ダメージで攻撃するなんて、自殺行為だということを理解していない。


「だめ。もう魔法は……」


 高レベルの回復魔法を使ったせいか、モルギットも限界みたいだ。


「我が名はパーフェクトタンク!」


 っと叫んでいるが、リキャストタイムを過ぎていない。


 当然ファイアボールで攻撃した3体は、私に向かって近づいてくる。


「マーミン逃げるな! 俺が助ける」


 メーヴェリンが助けに来る。逃げるなは正しいし、逃げる気もないけれど、状況からは外れた行動だ。


(いつかこうなると思ったよ……)


 私の目の前に、岩石人形の拳が迫ってきた。


つづく

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