03.冒険者ギルドへの登録
周りを見渡すと、どうやら『はじまりの街』の中央広場みたいだ。街の憩いの場らしく、多くの人で賑わっている。ここにはポータルがあり、遠出をした時などにこの場所にワープできるという場所だ。もちろん倒されてしまった時なども、ここに戻ってくることになる。
「あっと、そうだ」
さっきもらったスキルポイントを早速使っておこう。僕は迷わずに『運動』のスキルを取る。これは運動全般に関わる能力を、上昇させるというスキルだ。前衛には必須と思われるスキルだけれど、ベータでは否定されている。
なにしろ効果が目に見えてこないのだ。しかもレベルが上がりにくく、ベータの時は三レベルまでしかあがらなかったらしい。そこまで上げた人でも、全然効果を体感できなかったようなのだ。
そのせいでこの有用そうな『運動』のスキルも、識別とかと同じように死にスキルとされている。
「ま、何が役に立つかわからないからこそ、その時が楽しみだよね」
取得には1ポイントを使う。効率を目指すならば、1ポイントも無駄にはできないだろう。でも僕は別に効率よく先に進もうとは思わない。ベータまでの情報は見るけれど、正式では情報をネットで調べようとも思わない。
せっかく未知のゲームなのだから、手探りで楽しむのが最高なのだ。
「よしっと、そろそろ冒険者ギルドへ行こう」
広場を抜けて、僕は冒険者ギルドへと歩きだした。
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冒険者ギルドへ入ると、ちょっとした広間にいくつかの受付。建物は木製で、歩けばギィギィと床が鳴る。ただインスタンスなゾーンみたいで、他にプレイヤーはいない。その代わりNPCが数人いて、雰囲気を作っている。
「こんにちは、新規登録ですか?」
「あ、はい」
受付は三つくらいあるけれど、二つはNPCで埋まっている。一つだけ空いている受付にいるツインテールの可愛らしい女性が、僕に声をかけてきた。現実世界ならば、こんな事はありえないだろう。
「おねがいします」
受付に近づくと、可愛らしさがよく分かる。技術の進化のおかげもあって、気持ち悪さが全くない。むしろ現実では出会えないくらいの美少女に、なんだかドキドキしてしまう。
「では私の手を握ってください」
「えっ」
受付の向こうから、美少女が右手をそっと出してきた。冒険者登録の定番は、水晶に手を置けとか、血を垂らせとかそんなパターンのはずだ。なんでこんな美少女が、僕に手を伸ばしているのだろう。
「ふふふっ」
突然美少女が笑いだした。
「冗談です。困らせちゃってごめんなさい」
スッと美少女は手を引いた。そして受付の下から、定番の如き水晶を取り出した。あの時握っていればと後悔するが、それを顔に出してはならない。
僕は素直に水晶の上に手をおいた。
一瞬、水晶がぴかっと光ると、そこから水晶は消えていた。その代わり、僕の顔が入ったカードが置いてある。
「これが冒険者カードです。功績を上げると、ランクが上がります。今はFランクですね」
「これが……」
僕はカードを手にとって見た。まるで運転免許証のようなそれは、くすんだ白色をしていた。
「冒険者ギルドの説明はどうしますか?」
「おねがい」
「えっ?」
「えっ?」
最初の『えっ』は美少女で、次の『えっ』は僕だ。説明をどうするかと聞かれて、お願いと言っただけなのに、なぜか美少女は驚いていた。
「あっ、またいたずら?」
「いえ。今まで担当した冒険者の方で、説明を聞こうとした人がいなかったので……」
ありえない話ではない。ベータ組なら当然だろうし、情報はいくらでも手に入る。ここで説明を聞かなくたって、そこの依頼板でクエストを確認して受注する。クリアしたら報告に来る。手に入れたアイテムはここで売れるし、聞き直しても仕方がないことだ。
「おねがい」
でも僕はそれを聞きたい。
「はい。冒険者のランクはFから始まりますが、最高ランクはDまでです。C以上もあるのですが、現在はDまでとなっています」
理由は言わないけれど、ゲームの都合というものだろう。
「お仕事はそちらの依頼板でお願いします。手に入れた素材などは、そちらの受付で買い取ります。ある程度仕事をして功績が貯まると、冒険者ランクが上がります」
すべて知っている情報だけれど、こういうことは重要なのだ。自分が物知りで話を聞くだけ無駄だと思っている人ほど、自分の無知を理解しない。僕は知っていることでも、改めて説明してもらうことで、あらたな発見があることを知っている。
それはゲームでというわけではなく、現実世界のことだけど。
「また、初心者冒険者の方へ向けて、講習も行っております。お金がかかってしまいますが、訓練することで新たな才能を得ることもあります」
これだ。ベータでも説明されていない、公式ページにも説明されていない情報だ。おそらくスキルが偏っている人などのために、お金で救済するようなシステムなのだろう。
「どんな訓練があるのですか?」
「前衛が使う武器の講習や、後衛の使う魔法などの講習です」
「剣の講習はありますか?」
「はい。初回は500ウェドになりますが、講習が次の段階へ進むと、料金も高くなっていきます」
ゲームを始めた時の所持金は、誰しもが1000ウェドだ。装備を買う予定はないし、ここで講習を体験するのはいいかもしれない。
「では剣の講習をお願いします」
「わかりました。ではあちらから地下の訓練場へとどうぞ」
部屋から続く廊下の奥に、地下への階段があった。
「ありがとう」
その時点でお金は自動で減っている。やり取りがないのは楽だけれど、ちょっと味気ない気もした。
そんな事を考えながら、僕は地下へと降りていく。