29.シークレットクエスト
通路が迷路になっていると言うだけあって、複雑に入り組んでいた。でもマップはシステムが自動でやってくれるので、遠回りとかしたりするけれど、頑張ればマップを埋めることができる。
「っと、ゴーストだ。ムーンブラスト!」
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魂の欠片×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×3 を手に入れました
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ゴーストの卵が出ないのは良いとして、意外に彷徨っているゴーストの数が多いみたいだ。
「アクアランスナァ」
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魂の欠片×1
人エッセンス×2
妖エッセンス×1 を手に入れました
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『魂の欠片』って言うアイテムの名前が、なんだか意味深だ。手記にも魂とか書いてあるし、ただのドロップなんだろうけれど、ちょっと気になってしまう。
「曲道の一本道。不思議と多いゴースト、ってまたいた!」
「ウガァ」
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魂の欠片×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×2 を手に入れました
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ゴーストは通路に立っているだけでなく、壁からすぅっと出てくることもある。姿も人型固定じゃないので、いい感じにドッキリしてしまう。
「そして太い道に戻ると……」
なんとなく太い道が主流で、それ以外は全部主流に戻ってくるような気がする。でも気がするだけなので、調査はしなくてはならない。
「今度はこっちだ。って骸骨!」
「ウガァ」
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頭蓋骨×1
人エッセンス×2
妖エッセンス×1 を手に入れました
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素早くサクラが小鬼小刀を振るうと、それだけで骸骨はばらばらになる。この威力を見ていると、早い内に上位の武器が欲しくなってくる。
レアハンターの僕は、きっと物欲が強いほうだろう。でもそれと同時に、忍耐力には自信がある。何しろレアは、レアと言うだけあって、そんなに簡単には手にはいらないのだ。
そうやってマップを埋めて気がついたけれど、やっぱり通路に本筋があって、そこから無関係な小道が縦横無尽にあるだけで、進むべき道はそれほど複雑でもないようだ。一度行けば、余計な寄り道をしないで済むだろう。
「なにしろ脇道には魔物がいるだけだからね」
とか誰に言うともなしにつぶやいていると、突き当りに扉を見つけた。マップを見ると、中は小部屋っぽい感じがする。
「鍵はなし、罠もなし。識別万歳だ」
ギィィィィィ。
ホラーハウスで聞くような、ちょっと怖い感じに蝶番が音を立てる。僕らが部屋の中に入ると、小部屋の中央に青白く光る円筒形のガラスのようなものがあった。
「これが魂の器か……。早速破壊しておこう」
僕はバスタードソードを振りかぶる。でもその瞬間、何かが僕に警告を発した。
(なんだ? なにかがおかしい。考えろ。もう一度考えるんだ)
僕はさっき読んだ手記を、もう一度読み返してみた。
魂の器の話をきっかけに、突然文章がひらがなになっている。魂の移動を開始した途端に、思考力が消えている気がした。
「アロイ・ガライが魂を移動したら、思考力が薄れた感じなのか。なら二つ三つと器へ魂が移動していった時、残った肉体はどうなったんだ?」
ツゥっと背中に汗が流れた。もしもこの方法で永遠の命を手に入れたなら、魂の器を破壊したら、アロイ・ガライの肉体に思考力が戻るとかいうパターンかもしれない。
でも破壊した場合でも、もはや魂は定着せずに、アロイ・ガライが弱体化って言う可能性だってある。
「僕が違和感を覚えた原因はなんなんだ?」
「この変なのから、すごいエネルギーを感じるナァ。でも誰もいないナァ」
ラビィがふっとつぶやいた。その言葉にそれだと僕は確信する。もしも大事なものならば、守護者がいないわけはない。いかにも破壊してくれと言わんばかりに、メインの通路の絶対に通らなければならない場所に魂の器がある。
そんな大事なものを、こんなところに置くはずがないのだ。
「クエストは罠だ。レアハンターの第六感が、これを破壊してはならないと告げている!」
せっかく格好良く決めているのに、サクラは角を爪でカリカリとしていた。どうやら興味がないらしい。
「破壊しないで進んでみよう」
「はいナァ」
「ウガァ」
僕は奥の扉から、魂の器を破壊しないで部屋を出た。
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シークレットクエスト:アロイ・ゼロを討伐せよ
アロイ・ゼロ×1
報酬:選択報酬 武器、防具、卵
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部屋を出た途端に、さっきまでのクエストが消えて、新たなクエストが発生した。
「シークレットクエスト? やばい。報酬に卵がある!」
「マスター、すごいナァ」
細かいことはいいとして、気になるのは報酬だ。卵とだけ書いてあるので、それが何の卵なのかもわからない。最悪ゆで卵で食べるだけとか頭に浮かんだが、シークレットクエストでそれをやったら、僕は運営に千件でもメールするだろう。
「魂の器を破壊しなくて正解だ。この調子で先へ進むぞ!」
「がんばるナァ」
「ウガァ」
ここまででわかったことは、出現する魔物は骸骨とゴーストだけで、一本道でありながら、脇道が多いので迷いやすいということだ。
途中で魔物を倒していくが、経験値が美味しいようで、ついに僕とラビィが12レベルになった。最初の進化は15レベルで可能なので、その時を考えるとワクワクしてくる。
「っと、また部屋だ」
部屋の中には魂の器がある。もはや僕らがこれを破壊することはない。そのまま無視して先へと進んだ。
通路の途中で、またもゴーストが現れる。
「アクアランスナァ」
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魂の欠片×1
人エッセンス×3
妖エッセンス×1 を手に入れました
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特にレアドロップもないようだ。マントのおかげかコモンがドロップしないというのがなくなった気もするけれど、それが気のせいでなければ、マント効果でいつかレアも手に入るだろう。
彷徨っているのか、ゴーストの出現率が高いようだ。
「ウガァ」
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魂の欠片×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×2 を手に入れました
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でもすぐに討伐することができる。
それにしてもサクラの一撃は相変わらず凄い。レベル差があるはずなのに、確実に一撃で葬っていた。
「よし、部屋だ。ここも魂の器だろう」
中に入ると、やっぱり魂の器だった。口に出したら『げぇ、フォルクシー』ってパターンもあるかなって思ったけれど、どうやら素直な迷宮らしい。
ある意味ドロップがしょぼいので、あまりドキドキもしないまま、僕らは迷宮を進んでいった。
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「やっと到着かな」
マップを見ると、扉の向こうは大きな部屋だ。結局一本道のマップだから、間違いなくフォルクシーがいるだろう。そしてこの部屋の近くには、アロイ・ゼロがいるはずだ。
「準備はいいかい?」
「もちろんナァ」
「ウガガァ」
二人に確認をすると、僕は扉に触れた。するといきなり部屋の中にワープする。
「体が動かない。イベントか……」
五メートルくらい先に、メイド服の女がいた。とは言え本当に女なのかはわからない。あいにく肉が存在せず、見えている部位は全部黒っぽい骨だった。
「キャシャシャ、キャーシャシャシャシャア」
喜んでいるかのような声が響く。その途端、体が動き出した。
「って、今の何だよ」
なんかここは通さないとか、アロイは私が守るとか、そんな会話イベントかと思ったのに、意味不明の叫びを上げただけだった。
「アクアランスナァ」
ラビィの魔法が命中した。多角形の板が飛んでいるので、ダメージを与えているのは間違いはない。サクラは近接に向けて、勢い良く走り込んでいく。
「キャッシャー!」
フォルクシーが何かを僕に向けて投げてきた。
「ムーンシールド!」
速すぎて見えにくかったそれが、僕の魔法に当たって砕け散った。
「ってお盆なのか。メイドっぽい攻撃だね!」
「キャッシャッシャー!」
フォルクシーが天井へ向かってお盆を投げた。その瞬間、近接したサクラの一撃がフォルクシーの胴を攻撃する。
派手に多角形の板が飛ぶが、フォルクシーが怯んだ様子はない。
「キャッシャー!」
「アクアショットナァ」
あるいはラビィはお盆を狙ったのかもしれない。でもその魔法はフォルクシーに直撃した。ダメージを与えているが、お盆が僕へ向かって飛んでくる。
「僕狙い? 意外に知能があるのかも。ムーンシールド!」
正面から飛んできたお盆を、僕は魔法で受け止めた。
「ぐへぇ!」
正面のお盆は受け止められた。だけどさっき天井へ向けて投げていたお盆が、今頃になって上から僕に落ちてきた。それは僕の左肩を痛打する。
その一撃だけで、左腕全体が動かなくなった。
「キャッシャー!」
「ウガガガァ」
サクラが何度も攻撃しているのに、フォルクシーが狙っているのは僕だった。またもお盆が飛んでくる。
「リキャストが!」
僕は動く右腕でバスタードソードを振るう。ぎりぎりで弾いたお盆が、僕の頬をかすめていった。
「ヒールナァ!」
左腕の痛みが消えていく。でも完全には消えなかった。いつもならヒールで全快するのに、かなりのダメージを受けていたらしい。
「ヒールサークルナァ!」
僕の足元に魔法陣が浮かぶ。それは白い光を伴い、僕の全身を包み込んだ。
「お、痛みが消えていく」
「ウガガァ」
サクラの連続攻撃に、さすがにフォルクシーも苦しくなったのか、バックステップで距離を取った。
するとフォルクシーの両手に、どこからか武器が現れる。
「あれはデッキブラシ! メイド設定に忠実だなぁ、ちきしょう!」
フォルクシーはぐっと腰を低くして構え、装備したデッキブラシを真横に振った。
「アクアランスナァ!」
フォルクシーの目の前に、目で見える程の竜巻が生まれた。アクアランスは方向を変え、竜巻の中へ消えていく。近くにいたサクラも吸い込まれそうになっていたが、なんとかダッシュで竜巻から離れた。
「こっちに向かってくる。デッキブラシトルネードかよ!」
僕も竜巻から離れようとしたら、目の前にフォルクシーがいた。
「なん、でっ!」
逃げようとした僕のお腹に、デッキブラシがゴンッと当たる。
「ぐほっ、やばい!」
痛みはそれほどでもなかった。でもフォルクシーの狙いは直接的なダメージではない。デッキブラシに押し出された僕は、竜巻の方へと飛ばされた。そんな僕を竜巻が吸い込み、天地が逆転しているかに感じるくらいにぐるぐると目が回ってくる。
もちろん回っているのは目だけではなく、そのまま天井へ向けて、僕の体は上昇した。
「マスター!」
「ウガァ」
僕が天井近くまで飛ばされたら、竜巻はすぅっと消えていた。みんなが少し小さく見えるほど上昇した僕は、頂点で僅かに動きが止まる。
「落下地点で待ち伏せしてる。僕に追撃するつもりか!」
そのまま重力にひかれ、僕の体は落下する。飛行の魔法もありはしないし、せいぜい受け身を、とれるのかわからないけれど、それを頑張るしかない。
とはいえこの高さからの落下なのだ。どうなってしまうのかを、少しだけ予想してしまう。
「させないナァ! アクアランスナァ!」
「ウガガガガァ」
フォルクシーへのサクラの攻撃。ダメージは当たっているはずなのに、フォルクシーは僕の落下予想地点から動こうとしない。確実に僕にとどめを刺すつもりなのだろう。
アクアランスも問題なく命中する。でもその場を動かすほどじゃなかった。
「ラビィ、足だ! 得意の足狙いだ!」
「まかせるナァ! 突進!」
落ちてゆく僕の眼に、フォルクシーの膝へ向けて突進するラビィが見えた。
「アクアショットナァ!」
さらに追い打ちでラビィは魔法を放つ。でも僕にはわかってしまった。フォルクシーの膝を折るには、威力が足りない。
落ちていく中で、僕の心に諦めが浮かんだ。でもそれと同時に希望も浮かんだ。僕の仲間はラビィだけではないんだ。
「サクラ!」
「ウガァ!」
僕が叫ぶのと同時だった。サクラは小鬼小刀を膝へと向けて振り抜いた。その一撃は膝を折り、フォルクシーは仰向けで床に横たわる。
「これで決める!」
サクラが作ってくれたチャンス。これを無駄にししてはならない。
僕は持っていたバスタードソードの先端を、倒れ込んだフォルクシーへと向けた。
「うおぉぉぉぉお!」
僕は全体重をかけるようにして、フォルクシーへ向けて落ちていく。
「マスター!」
「ウガァ!」
ボガイィン! ヴォヴォキヴォキ……。
僕のバスタードソードが、フォルクシーの胸に突き刺さる。僕の体はフォルクシーがクッションとなり、その勢いでゴロゴロと床を転がった。
「ヒールサークルナァ」
フォルクシーの骨の体のおかげで、落下は致命傷にはならなかったようだけれど、その衝撃で全身に走った痛みが、ラビィの魔法で癒やされていく。
「キャシャァァァァァ!」
多角形の板を撒き散らしながら、フォルクシーが消滅していく。やがてフォルクシーが消えた後には、バスタードソードだけが床に突き刺さっていた。
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メイドのカチューシャ×1
人エッセンス×6
妖エッセンス×8 を手に入れました
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「あぶねぇ。みんな、倒したぞ!」
「おめでとナァ。無事でよかったナァ」
「ウガウガ」
久しぶりにみんなで輪になって踊りだす。正直ドロップがしょぼく見えるが、あれだけの強敵に無事でいられたのだから、それが一番嬉しかった。




