26.館にいた男
館の中に入ると、なんだか奇妙な感じがする。玄関ホールの左壁に、二階へあがる階段があり、正面と右には扉がある。
「とりあえず一階を探索しようか」
「はいナァ」
「ウガガァ」
右の扉を開けて入ると、そこは大きな部屋だった。壁には暖炉があり、その上には天秤のオブジェクトが飾られている。暖炉の正面には大きめの食器棚が二つあり、部屋の角には甲冑が飾られていた。
「これってどういう部屋なんだろう」
中央にテーブルと椅子があるので、食堂にも思えるけれど、この部屋から繋がる扉が見当たらない。もしも食堂だとするならば、キッチンへ続く廊下なり扉があるはずだ。
「しかも魔物もいない。他の部屋を見てみようかな」
僕らはその部屋を後にし、館に入って正面にあった扉に入る。小さな部屋の中心に、白い影が浮かんでいた。
「ゴーストだ! ムーンブラスト!」
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魂の欠片×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×2 を手に入れました
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取り立てておかしなところはない。書斎のように重厚な机に豪華な椅子。壁には本が入っていないけれど、おそらくは本棚であったであろう棚がある。
でもこの部屋は狭く、特に何もありそうにない。
「もう終わっちゃった」
一階はこの扉二つだけだった。つまり一階の探索は、これで終わってしまったのだ。
「仕方ない。二階へ行こう」
「わかったナァ」
「ウガァ」
僕らはそのまま部屋を出た。
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二階への階段を上がると、まっすぐに廊下が続いていた。廊下の途中に扉があるが、それよりも気になることがある。
廊下の突き当りに、見慣れた鎧を着た人間が立っているのだ。
(あれって『小鬼の村長』の鎧だよね。『小鬼の村』ファームを頑張ったプレイヤーなのかな?)
僕はそんなことを考えながら、鎧を着た人間に近づいた。
「くそっ、今回も失敗だ」
ガンっと男が扉を叩いた。
「なにしてるんですか?」
「うぉっ、め、珍しいな。館の秘密を解いたのか」
男は僕にびっくりしたのか、少し慌てた感じになっていた。でもそれよりも、『館の秘密』という言葉が気になってしまう。
「館の秘密?」
「解いたから来られたんだろ。そうだ。お前ここの鍵を開けてくれないか?」
普通に歩いたら来れたけれど、何やら秘密があるらしい。でも話してくれる雰囲気もないので、話の流れにのっていこう。
「この扉、鍵がかかってるんですか。でも解錠できるのは斥候の人でしょう」
「斥候でなくても、スキルが無くても挑戦はできる。以前仲間とここに来た時から、一度も成功したことがないんだ」
男の話に疑問が浮かぶ。そんなことをしなくても、斥候の人を呼んで開けてもらえばいいだろう。
「斥候の人を呼んで、開けてもらえばいいじゃないですか」
「おいおい。そんなことをしたら秘密が広がるだろう。最近噂になりはじめているんだ。余計な連中を呼び込みたくはない」
今のところこの館には、それほど大層な秘密があるとも思えない。でも村人の話もあるし、何かしらあるのだとは予想している。それがこの鍵の掛かった先にあるとするなら、レアハンターとして調査しなければならないだろう。
「そんなに難しい秘密ですか?」
「常闇の森という真っ暗なフィールドを、灯もつけずに歩かなければ、この館の姿を見ることもできない。普通なら絶対見つからないだろう。だからこそメイドシリーズが……あっと、これ以上は秘密だ」
僕は夜目があるから、そもそも灯をつけていなかった。普通に来られたと思ったけれど、偶然にもそこに秘密があったらしい。
なんか装備っぽいのも手に入るという噂もあるみたいだし、開けられるかどうか、僕も試してみよう。
「それじゃ、試してみます」
「おう。頼んだぜ」
僕は鍵を開けようと、扉の前に移動した。
『解錠難度3を開始します』
難度3がどれだけ難しいのかはわからない。でも斥候だったなら、もっと簡単な難度なのだろう。
僕の目の前に骸骨の絵が浮かんだ。背景は真っ黒で、どこに立っているのかわからない骸骨だった。それが9つのパーツに分けられて、右下の一枚が抜き取られる。
カシャカシャ……。
分かたれたパーツが、縦横無尽に移動していく。それでなんとなく予想ができたけど、このパーツ、つまりパネルを移動して元の絵に戻すパズル系のミニゲームなんだ。
『制限時間20秒。ピッピッピッ、スタート!』
唐突にミニゲームが開始される。背景の角は全部真っ黒だったので、どこがどの角なのかわかりにくい。でも悩んでいる暇はない。それならとにかく手を動かすんだ。
カシャ、カシャカシャ、カシャ。
パネルを動かすたびに音が鳴る。角の黒い背景とは言え、グラデーションが無いわけではない。それを骸骨の書かれた黒部分と合わせれば、なんとかつながりが理解できる。
『残り10秒です』
制限時間が僕を焦らせる。でもこんな時こそ慌ててはダメなのだ。緊張して失敗するなど最悪だ。
カシャカシャ、カシャ、カシャカシャカシャ……。
それが意味あるのかと思われるくらい、とにかくパネルを動かしていく。そして僕はなんとなくその道筋が見えた気がした。
「これをこう、そしてこう、ここをこうして、こうするんだ!」
カシャカシャカシャカシャカシャ!
絵が完成したと思った途端、ボカーンとパネルが爆発した。
『解錠に成功しました』
そんなアナウンスとともに、扉がギィっと開いた。
「よし。やったぞ!」
「ナイスだ! お前やるじゃないか」
正直に言えばもう一度できる自信はない。まさしくビギナーズラックというやつだろう。でも別に爆発しなくてもいいのに。
「よし、行くぞ。メイド装備は俺のものだ」
男が口を滑らしながら、扉の奥に入っていくので、僕らもそれに続いていった。




