25.常闇の森へ
一度村へと戻り、僕らは少し休憩してから北の森に入った。だがその途端、昼だったはずなのに真っ暗になってしまう。ゾーンの表示が『常闇の森』になっているので、情報通りここはずっと暗いのだろう。
「マスター、見えないナァ」
「あ、そうだった。ラビィは僕と手を繋いで歩こう」
明かりを準備してなくてごめんなさいの気持ちを込めて、僕からラビィの手を握る。その手はじんわりと暖かく、普段は気が付かない兎の毛が僕の手をくすぐった。
「ありがとナァ」
「ウガガァ」
サクラは先頭で警戒しながら歩いてくれる。フォームAの変形で、僕らは暗い森の中を歩いた。
「ウガァ」
サクラの側に何かがチカッと見えたと思ったら、すぐに小鬼小刀が振るわれていた。
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魂の欠片×1
人エッセンス×1
妖エッセンス×3 を手に入れました
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今のがゴーストらしい。名前の確認を含めて、次はしっかりと見ておこう。っと思っているあいだにも、ゴーストが数体現れた。
「ムーンブラスト! 名前はゴーストで間違いない」
消費魔法力は8必要だった。限界が10なので、そろそろ上位の魔法が欲しくなる。さっきのお店で無魔法の攻撃魔法があればよかったのだけれど、あいにくと迷宮でもお店でも見当たらなかった。
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魂の欠片×1
人エッセンス×2
妖エッセンス×1 を手に入れました
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コモンは魂の欠片のようだ。
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人エッセンス×1
妖エッセンス×3 を手に入れました
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っと思ったらドロップしなかったけど、今までの流れからして、魂の欠片がコモンなのは間違いなさそうだ。
「それほど強くはないみたいだ。でも警戒して進んでいこう」
「ウガァ」
「よろしくナァ」
手どころか、僕の腰に抱きつくように歩くラビィが、可愛くてたまらなくなった。
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ゴーストを倒しながら進んでいるが、館らしきものは見えない。そう言えばゴーストは幽霊だけど、卵は存在するのだろうか。
「死霊術師がいるでもないし、多分ドロップすると思うけれど、ちょっと怖いかも」
ある意味で幽霊を連れて歩くわけだ。特殊能力も持っていそうで、頼りにはなりそうだけれど、ビジュアルがちょっと怖い気がする。
何しろうっすらとした白い影なのだ。人型の時もあるし、なんかでっかい牛みたいな時もある。その姿はランダムなのだろうけど、どんな姿だろうと不気味さはかわらない。
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魂の欠片×1
人エッセンス×3
妖エッセンス×2 を手に入れました
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ラビィのために、明かりくらいは準備するべきだった気がする。でも自分に夜目があるから、明かりのことは失念していた。
「ウガガァ!」
「どうしたサクラ?」
サクラが森の奥の方を指差している。その方向へ視線を向けると、森の陰に家らしき建物が見えた。
「あれがアロイ・ガライの館? 見つかりにくいって話だったけれど、こんなに簡単に見つかって良いのかな……」
ちょっと怪しい気もするが、行かないという選択はない。
「ラビィ、サクラ。あそこに行くよ」
「ウガァ」
「たのむナァ」
まだ少し距離があるので、出現するゴーストを倒しながら、僕らは家へと近づいていった。
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ある程度まで近づくと、真っ暗なゾーンが月明かりに照らされたくらいまで明るくなった。これくらい明かりがあれば、ラビィも問題なく戦えそうだ。
「やっぱり『アロイ・ガライの館』だ」
ゾーンの名前が『常闇の森』から『アロイ・ガライの館』に変わっていた。どうやら間違いなく、僕らは館を見つけたらしい。
「古臭い洋館の2階建てか。玄関までは土の地面が、道っぽく続いている」
僕らが玄関に近づいていくと、突然体が動かなくなる。すると玄関側の地面から、ずぶりと何かが出てきた。
「骨の手? 骸骨だ!」
人型の骨の魔物が三体這い上がってくると、体に自由がとりもどされた。どうやら出現するまでは、イベント扱いになっていたらしい。
「ウェーブかも。注意して。ムーンブラスト」
「わかったナァ」
「ウガガァ」
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頭蓋骨×1
人エッセンス×3
妖エッセンス×1 を手に入れました
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ドロップが頭蓋骨ってどうなんだろう。あまりインベントリに入れたくないけれど、基本的にコモンドロップは、進化の時にも必要になるはずだ。
それを見越して、ラビィのために『うさぎのしっぽ』も手に入れている。頭蓋骨という名前が強烈だけど、深く考えずに集めておこう。
「アクアランスナァ」
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頭蓋骨×1
人エッセンス×2
妖エッセンス×3 を手に入れました
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ラビィはアクアショットでは一撃で倒しきれないのか、上位の魔法を使っていた。手加減して反撃を喰らいたくはないし、ナイス判断と言いたい。
残りが一体となったところで、サクラも近接に成功した。その小鬼小刀を横に振るうと、骸骨は腰から上下にバラバラになった。
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頭蓋骨×1
人エッセンス×4
妖エッセンス×1 を手に入れました
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強さ的には問題はない。でもこれがウェーブなら、油断してはならない。
「サクラ。一度戻って。まだ出てくるかもしれない」
「ウガガァ」
サクラが玄関から離れると、再び地面から骸骨が沸いてくる。
「守護者なのか」
這い上がってきた数は二体と減っているけれど、今度はボロボロの鎧を着ていた。
「ラビィ、左に集中だ。ムーンブラスト!」
「アクアランスナァ」
先に着弾したムーンブラストだけでは、思った通り倒せなかった。でもアクアランスの追撃で、骸骨はバラバラになって消えた。
でもドロップがない。つまりは卵も出ない、いわゆるイベント専用の魔物ってことみたいだ。
「何かはドロップしなさいよ。ムーンボム!」
「ウガガァ」
僕のムーンボムでダメージを受けたところを、サクラの小鬼小刀で一刀両断にした。まさしく言葉通りに、頭から股間までバラバラにしていた。
今度は離れてという前に、サクラが僕らの方へ走ってくる。
「このパターンが続くなら、次は武器を持った骸骨が一体ってところかな……」
再び体が動かなくなると、今度は空から白い塊が降ってきた。
「あれは、骨だけどどこの部位だ?」
細長い白い骨。体の一部のようだけれど、その部分だけで、さっきまでの骸骨とはサイズが違うのがわかる。
「うわっ」
カシーン、カシャン、カシャシャシャシャ……。
その骨に集まるように、森から骨が飛んでくる。それはどんどんと組み上がり、見上げるほどの大きさになった。
カッシャーン。
最後に頭蓋骨が落ちてきた。いつの間にか武器を持った三メートルくらいの骸骨が、僕らを見下ろしていた。
「巨大骸骨? そのまんまの名前だね! ムーンブラスト!」
動けるのを確認した瞬間、僕は魔法で先制する。
「アクアランスナァ!」
「ウガガァ」
サクラは近づき、ラビィはいつもどおりの戦闘だ。バシンバシンと多角形の板が飛んでいるから、いい感じのダメージになっているはずだ。
巨大骸骨は顎を落として口を開くと、走り込むサクラへ向けて剣を振り下ろす。
ズドン!
そんな音を響かせながら、大きな剣が地面に突き刺さる。サクラは横へと移動しており、その攻撃を受けることはなかった。
「あの威力なら一撃でやられるかも。ムーンボム!」
リキャストタイムがあるので、魔法を切り替えて使っていく。とは言え僕の攻撃魔法は、まだ二種類しかない。
「アクアショットナァ」
ランクの高いアクアランスは、リキャストも少し長めだ。連続攻撃のために、ラビィもアクアショットを使っていた。
ランク以下無効のスキルはないようなので、気持ちよく多角形の板が飛ぶ。
その間に接近したサクラが攻撃する。ガイーンと骨と小鬼小刀が激しくぶつかりあった。ダメージを与えているようだけれど、いつものように景気良く真っ二つにはできないようだ。
巨大骸骨は表情を変えないまま、近づいたサクラに蹴りを出す。攻撃した瞬間を狙われたので、これを避けることはできなかった。
「サクラ!」
「ヒールナァ」
蹴りの一撃でサクラが地面を転がっていく。蹴りであの威力ならば、あの大きな剣の一撃は、やっぱりかなりやばそうだ。
「ムーンブラスト!」
だけどダメージは通っているようなので、このまま攻撃し続ければ、問題なく倒せるはずだ。もしサクラが鎧を着ていなければ、あの蹴りでもやばかったかもしれない。でも運は僕らに向いている。
しっかり準備してきたことが、功を奏しているのだ。
「アクアショットナァ」
「ウガガァ」
戦列に復帰したサクラは巨大骸骨を牽制するように動きながら、積極的には攻撃していない。巨大骸骨は表情を変えないが、なんとなく鬱陶しそうにしている気がした。
「サクラ。その調子で撹乱してくれ」
「ウガァ」
「アクアランスナァ」
ラビィの魔法が巨大骸骨にダメージを与えると、両膝に弱点のマークが灯った。
「膝を破壊するのか。みんな、膝を狙うんだ」
「まかせるナァ」
「ウガガァ」
サクラが軽く膝を攻撃した。全力で振れば反撃を受ける可能性があるので、しっかりと防御を気にしながら戦っている。そこへラビィが不用意に近づいた。
「ダメだラビィ! 剣が来るぞ」
フラフラっと近づいたラビィへ、巨大骸骨は剣を振り下ろした。逃げる様子もないラビィの頭上へ、無情に剣が落ちてくる。
「ラビィ!」
「突進ナァ!」
ラビィは一瞬で姿を消した。そして左膝への一撃。
「アクアショットナァ!」
いつか見たあの連続攻撃。巨大骸骨の膝から多角形の板がはじけ飛び、ぐらりと巨大骸骨は倒れ込んでくる。
「離脱ナァ」
その瞬間、弱点が膝から頭へと切り替わる。倒れ込んだ巨大骸骨の弱点は、頭に変更されたのだ。だけどこの状況は危険だ。剣を持つ右手が無事な以上、正面から近づくのは得策ではない。
「サクラは後ろへ回り込んで頭に攻撃だ。ラビィと僕は遠距離で魔法を打ち込むぞ」
「任せるナァ。アクアランスナァ!」
「ウッガァ」
サクラが剣の範囲に入らないように気をつけながら、後ろへと回り込む。
「ムーンボム! ムーンブラストぉ!」
連続の魔法攻撃。この戦闘の主導権は、すでに僕らが握っている。
「突進! アクアショットナァ」
ラビィ得意の連続攻撃で、巨大骸骨がうなり始めた。巨大骸骨が何かやりそうな予感に、僕の背筋は寒くなる。
「ウガァ!」
でもそれを安心させてくれたのはサクラだった。背後からの頭蓋骨への一撃は、パカっと骨を切り開いた。空洞の頭の中が丸見えになる。
「カカカカカ」
骨が痙攣しているのか、それが断末魔なのか、巨大骸骨は多角形の板を撒き散らしながら消えていった。
レベルは上昇したが、ドロップがない状況に、なんだか少し寂しさを感じてしまう。
「マスター、やったナァ!」
「ウガガァ」
ラビィとサクラが僕の手をそれぞれ掴む。輪になって回るいつものダンスだ。それを踊っている内に、ドロップがないなんて小さなことだと思えてきた。
でもひとしきり踊って落ち着くと、やっぱりドロップが欲しいと思ってしまった。




