24.新たなレシピ
結局僕は南の森を選んだ。『常闇の森』の館の方は探すのが難しいけれど、『鬼の村』は存在が確認されているからだ。
南の森はまるで整備されているようで、歩きやすく日も照っていた。木々の間から森狼が姿を見せるけれど、僕らの魔法の一撃であっさりと倒すことができる。
「森狼もそれほど強くないみたいだ。僕らが適正レベルを越えているというのもあるのかな」
ドロップ品も森狼の牙、森狼の皮、獣エッセンスとある意味予想通りだった。時折集団で襲ってくるので、そこに気をつけさえすれば、無傷で倒せる感じだった。
「おっ、あれが鬼の村かな」
遠くに門のような柵があり、二人の鬼が立っている。遠くから見える感じでも、小鬼よりも間違いなく背が高い。
「我が友。鬼の村へようこそ」
「あ、こんにちは」
「こんにちはナァ」
「ウガウガウ」
二人に近づいていくと、にこやかに挨拶された。どうやら小鬼の村で得た友好度のようなものは、この村でも通用するようだ。
「小鬼の村での話は聞いている。ここでも仲良くして欲しい」
「ありがとう」
入り口の鬼はある意味で、村の名前を教えてくれるだけの存在だと言える。
「ラビィ、サクラ。行くよ」
「はいナァ」
「ウガァ」
僕らは鬼の村の門をくぐった。
小鬼の村に比べると、建物が大きめになっている。でもそれ以外で、特に変わった様子はない。僕は一番目立つ建物へ向けて歩いた。
「やっぱりだ」
鬼の種族は似たような感性なのか、大きめの建物に扉はなく、壁一面が解放されて中が見える。そこに椅子に座った『鬼の村長』がいた。
「我が友。ようこそ。小鬼たちが世話になった」
『鬼の村長』は、立派な革鎧を着ていた。おそらくは小鬼が金属系で、鬼は革系の装備が手に入るのだろう。
「いえ。こちらこそ」
「村ではゆっくりとするが良い。石貨を持っているなら、買い物もできるぞ」
買い物という言葉に、ちょっとどきりとする。鬼のお店で売っているというイメージから、なんかグロテスクな食料を考えてしまった。
「買い物できるのですか?」
「そうだ。『邪妖精の迷宮』で見つかった小鬼が使わない魔導書や、鬼の村に伝わるレシピなど、役に立つものがあるだろう。だが石貨を稼ぐのは大変だ。よく考えて買うのだ」
事前の情報通りだ。まだ手に入れていな魔導書も、石貨で手に入れることができそうだ。
「ありがとうございます」
僕らは村長の家をでると、村の中を散策する。するとお店っぽい感じの家があったので、そこの鬼に話しかけてみた。
「すいません。何か売っていますか?」
「我が友。うちは品揃え豊富だよう」
パッとメニューが開いた。石貨で買えるアイテムが並んでいる。しかしこのお店の鬼はエプロンを装備しているし、人っぽさがあるようだ。鬼と一言に言っても、いろいろなタイプが存在するのかもしれない。
「お、魔力も売ってるんだ」
1000石貨で『無魔法:魔力』も売っている。他にも魔法は売っているが、魔法は結構手に入れているし、僕らが使えそうな魔法もないので、それに石貨を費やすのはもったいない気がした。
「あ、レシピだ!」
「ナァ?」
僕の叫びにラビィがちょっと首を傾げていた。でもこれを見たら、叫びたくなるのも仕方がない。そこには『鍛冶レシピ:刀2』が売っていたのだ。
「鬼シリーズの装備のレシピもある。でも鍛冶だから、金属系になるのか……」
サクラは固有技能の中に、金属防具不可を持っている。仮に鬼シリーズを揃えても、装備させたい仲間がいない。
鬼シリーズで4000石貨、刀レシピで1000石貨。迷宮で多少は拾っているので、まだまだ余裕はあるけれど、どうするべきか悩んでしまう。刀レシピを買うのは確定としても、鬼シリーズはどうしよう。
「言い忘れていたけれど、お店の商品の入れ替わりは激しいよ。人気の店だからねぇ」
お店の人がそんなことを言ってくる。これを言われたら、買わないという選択肢はなくなった。
僕はメニューを操作して、『鍛冶レシピ:刀2』と鬼シリーズを買った。
「買っちゃった。でもきっとプラスになるはずさ」
「マスターおめでとナァ」
「ガァ」
サクラが僕のTシャツを引っ張りながら、すっと大きな目で見つめてくる。言いたいことはわかっていた。きっと新しいレシピで、刀を作ってくれってことだろう。
でも素材となる鉱石は、遥か西の『鉱山迷宮』で手に入るアイテムだ。現状レシピは手に入れたけど、すぐに作成できるわけでもない。まあ『小鬼の村』に戻れば、石貨で解決できるかもしれないけれど、いつまでもそうしているわけにもいかないだろう。
『鍛冶レシピ:刀2』を使おうとしたら、レベルが足りないと表示された。よく見ると鍛冶レベル6が必要となっている。鬼シリーズもよく見てみると、全部鍛冶レベル6が必要だった。
「ごめんサクラ。しばらく待ってくれ。必ず素晴らしい刀を作るから」
「ウガァ」
サクラはコクリと頷いた。戦力を増強する種は手に入れたけれど、それが花咲くのはまだ先になるだろう。慌てて奥の自分の適性を越えたゾーンへ向かうより、一歩一歩を確実に歩くのだ。
「なによりレアドロップは諦めない限り、待っていてくれるから」
僕らが北へ向かおうとマントを翻した時、お店の人が思わぬことを言ってきた。
「我が友。石貨を稼ぐなら、村人のお願いを聞いてあげてね。お礼に石貨をくれるはずだよ」
「ありがとう。できる限りそうするね」
石貨は残りが1000ちょっとしかないけれど、なくなったわけでもない。村のお願いは後にして、先に『常闇の森』を攻略しよう。
僕らはあらためて、北へと向かった。




