19.鍛冶師の付与講座
部屋に入ると、すぐに鍛冶師は説明を始めた。
「まずは『黒鉄のインゴット』だ。今回は『小刀』を作るから二つ使用する。つまりメイン素材となる『黒鉄のインゴット』二つともに、魔力を付与しなくてはならない」
もし三つ使うならば、三つともに付与するわけだ。
「付与できる魔法力は、付与レベル×100だ。できるだけ多く魔力を込めたほうが、よりすごいスロットができるぞ。そのへんは一度やってみるとわかる」
「はい」
この前、最大魔法力が100を越えたから、なんとか最大で付与できる。
「魔力付与!」
『黒鉄のインゴット』が鈍く光る。でもこれでほぼ僕の魔法力は空になる。しばらく休憩が必要だ。
「おお、いいな。時間はかかるかもしれないが、付与していないメイン素材を混ぜた場合、効力が一気に落ちるからな。スロットはできるんだが、付与できる量が減るんだ」
今のところわかるような、わからないような説明だけど、実際にやれば理解できるだろう。しばらく休憩して魔法力が全快したので、再び僕は魔力付与をした。
「よし。完璧だ。装備作成に魔法力は使わないから、そのまま作成してしまおう」
「はい」
カンッ、ピカッ。
黒い刀身の小刀が完成した。詳細を確認すると、名無しの小刀、攻撃力17、必要筋力30、Aスロット80、Bスロット50になっていた。
「名無しの小刀?」
「魔法装備を作成すると命名できるんだ。その名前は仮の名だ。ただスロットに付与をすると『名無しの小刀』で固定されるから、今のうちに決めたほうがいい」
まだ最終装備というわけではないから、サクラの名前は入れたくない。いわゆる日本刀は名前がしっかりとついているけれど、初めての作品だから大げさなのも避けておきたい。
(どうしようかな……)
小鬼の村で作成した初めての刀。小鬼村初小刀……とかはいまいち過ぎる。単純に小鬼小刀にしよう。
「小鬼小刀にします」
「ん、では付与のルールを教えよう。スキルがあるから自動でわかるとも思うが、一応聞いておくといい」
「はい」
この手の説明が大事なことはわかっている。当然僕は鍛冶師の話に集中した。
「スロットの数値は、付与できる最大値をあらわしている。シャープネスの魔法の基本値は15だろう。つまりAスロット80にシャープネスを付与したら、ランク5シャープネスになるわけだ」
80÷15で5だからランク5というわけだ。Bスロットは50だからランク3になるんだろうな。
「シャープネスの効果は攻撃力1~9で、ランクが上がると固定値になる。固定値は最大値の70%で切り捨てだ。ランク5の場合はどうなるかというとだな」
もともと僕は計算が苦手だ。でも授業とかならもう嫌だって思うのに、ゲームだとどんどん頭に入ってくる。
(つまり9の70%で6だ。ランクが上がると固定値ということは、1~4ランクは固定値で、最後のランク5でランダムになるってことだよね)
6×4で24で、あとはランダムだからやってみないとわからないってことだ。
「最終的には固定値24+ランダムの1~9。それに武器の17を足した値が、攻撃力になるわけだ。付与はすごいだろう」
たしかにすごい。運が良ければシャープネスだけで33。合計で攻撃力50の武器になるわけだ。僕のバスタードソードの倍以上の攻撃力だ。
「しかもこいつはスロットが二つある。まあ同一の魔法は付与できないから、シャープネス、シャープネスは無理だ。だが別の攻撃力上昇なら問題ないぞ」
わくわくが止まらなくなってくる。こういう装備作成は、なんだか楽しくて仕方がない。僕は攻撃力に関係する付与ならば、シャープネス、キーン、ストレングスの三種類を持っている。今回はストレングスで上昇できる筋力は僅かなので、シャープネスとキーンで強化しよう。
ただキーンの基礎値は20で攻撃力は4~12上昇する。どっちにどっちを入れれば、強くなるのかわかりにくい。
(Aスロットを最大値で比較したら、シャープネスが33でキーンは36だ。Bスロットはシャープネスが27でキーンは20になる。と考えれば、Aスロットにキーン、Bスロットはシャープネスが良さそうだ)
でも最大値はこうだけど、最小値なら25と28、19と12だ。ということはAスロットにキーンで47~63上昇する可能性がある。期待値は55ってところだ。これが逆なら37~53で期待値は45になる。
(どう考えても前者がいいよね。Aスロットをキーン、Bスロットをシャープネスにしよう)
「さあ付与してみるんだ」
「はい」
Aスロット80にキーンランク4を付与した。合計値は29でいわゆる残念パターンだった。
「まだまだ。シャープネス」
Bスロット50にはシャープネスランク3、こっちは25と、なかなかの値だった。僕は小鬼小刀の詳細を確認する。キーン小鬼小刀、攻撃力17+54、必要筋力30、シャープネスランク3、キーンランク4となっていた。
(名前がこうなるのか。漢字で名前をつけると、ちょっと違和感だな)
「見事だ。さすが我が友よ。ただ今回のスロットのできは、平均よりもかなり高いことを忘れてはならない。次に作成した時にくじけないようにな」
「ありがとうございました」
目的の付与も手に入れた。『邪妖精の迷宮』でやり残したことがあるとすれば、妖精装備のコンプリートだろう。僕のTシャツのお下がりでは忍びないし、ここは粘ってコンプリートを目指すべきだ。
「レアハンターのこの僕が、引き下がるなんてあり得ない!」
「ん、よくわからんが、我が友には頑張って欲しい」
「頑張るナァ」
「ウッガガァ」
鍛冶師の小鬼の存在を忘れていたが、グループの意思統一はバッチリだ。この後は休憩して、再び『邪妖精の迷宮』だ。一気に妖精装備をコンプリートしてみせる。