172.砦の中の宝箱
壁に囲まれた中は、予想以上に広かった。建物のない広場っぽいところにも雪がつもり、地面を白く隠している。
「これが畑だとすると、収穫は終わってる感じだね」
「永遠の冬じゃなければ、たくさん収穫できそうだわ」
季節があれば作物も育つけれど、マーミンの言う通りずっと冬だったなら、食糧事情はひどいものになるだろう。
「なぜ入った瞬間に、僕らは呪われたのか」
「侵入者には死を! みたいな感じね」
理不尽さでは同じくらいだけれど、マーミンの言葉は正確ではない。この巨人の呪いは、砦の外に出ると巨人になってしまうだけで、命を落とす感じはしない。
結果的にそうなるとしても、直接命を奪うタイプの呪いではないのだ。
でも食料の確保とかができないならば、ある意味で命を奪う。
「うーん。考えの方向性が違うのかな」
「どういうこと?」
自分で考えておきながら、実のある思考をしている気がしない。もっとシンプルに解決できる予感があるから、今は答えにたどり着くための材料が揃っていない状況なのだろう。
「焦りすぎたかも」
「最悪ログアウトすればいいんだから、のんびり行けばいいわ」
砦から出られないとはいえ、ログアウトはできる。
その事実に、なんだか心が軽くなった。
「そうだね。本当にそうだ」
思わず笑いが漏れる。
「当然でしょ。変なの」
先を歩くマーミンを見ながら、一人じゃなくてよかったと、不思議と気持ちが落ち着いた。
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砦の中は探索できた気がする。
「こんなところかな。そろそろ外に出てみようか」
「待ってよ。あの真ん中にある砦の中には入ってないじゃない」
マーミンは大胆な事を言っていた。どう考えても、部外者を侵入させる砦などあるはずがない。
「この中にいる人は無気力な感じで、誰も僕らを気にしないけれど、さすがに砦の内部に侵入しようとしたら、問題になるよ」
「あらあら。ラルらしくもないセリフね。やってもいないうちから決めつけるなんて、変な話でしょ。さっさと行くわよ」
僕にそう言うと、さっさと砦へ向けて歩いていく。
おいおいと思いながらもついていくと、入り口前に立っている鎧姿の二人が、僕らの方へと視線を向けた。
マーミンは気にせず中に入っていくのに、二人はそれを止めようともしない。それどころか、中に入ったのを確認すると、視線すら向けてこなくなった。
「ほら、入れるじゃない」
「入れたけども……」
あまりにも奇妙な話だった。この砦の中にいる人たちは、あまりにも無関心すぎる。唯一僕らに反応していた門の前にいた男も、僕らが中に入ってからは、興味を失ったような感じになっていた。
「意外と広いから、さっさと行きましょうよ」
「えっ、うん。そうしよう」
なぜ無関心なのかを考えながら、砦の中を進んでいく。いくつも部屋があるけれど、特に注目すべきことはない。
兵士の詰め所の用な感じで、何人も鎧姿の人がいるけれど、相変わらずこちらを気にする様子もない。
「井戸があるとすれば、砦の中だよね」
「もしもなかったら、どうやって生活しているのかしら」
マーミンの言葉に、怖い考えが浮かんでしまう。そんな思いを振り払うように頭を振ると、僕らは二階、三階へと探索を進めていく。
そして四階の大きな部屋の真ん中で、宝箱を発見した。
「やったわ。いかにもお宝がありそうな大きな宝箱よ」
マーミンはさっと駆け寄り、箱の周囲を歩いている。危険がないかチェックしているようだけれど、もともとそんなスキルはないはずだ。
「識別でも、間違いなく宝箱だ。でも、これは普通に泥棒でしょ」
「探索中の戦利品でしょ?」
「いやいや。普通に人がいる砦の中だよ。確実に所有権は砦の人にあるよ」
僕はそう言っているのに、マーミンは不満そうに言葉を続けた。
「滅びた村で見つけた道具は、もはや誰も使う人がいない。ゆえに、見つけた人のものなのよ。これも一緒じゃない」
「滅びてないでしょ」
「滅びているのと一緒よ」
生きているのかわからない感じの住人を考えれば、マーミンの言うことに納得してしまいそうだけれど、現状では僕らが盗賊になってしまう。
この宝箱を開けて、中身を持っていこうとした途端、ボケっとした感じの住民たちが、一斉に襲ってくるかもしれない。
「砦である以上、偉い人がいるはずだよ。もう少し調査してからでも、遅くないと思わない?」
「そこが妥協点ね。帰りに全部、頂いていくわよ」
中に何が入っているかもわからないのに、マーミンの中ではお宝に決定したようだ。最悪呪いの元凶が入っているかもと怖かったけれど、ちょっと考えすぎだったかもしれない。
「了解。とりあえず先に進もう」
「オーケー」
僕らは宝箱はそのままに、部屋を出て先へと進んだ。