171.雪原の砦
吹雪の中、僕らは雪の巨人を倒しながら探索を続けていた。遭遇頻度は少ない気もするけれど、油断した頃に現れる感じだ。
「吹雪が激しくなってきたな。みんな、油断するなよ」
「オーケー」
10体くらい討伐したけれど、巨人の斧はドロップしていない。使い道のわからない骨ばかりドロップするけれど、どうしたものかと悩んでしまう。
「うぉっ、晴れたぞ」
「えっ」
先頭を進んでいたパンクの声に、僕らもつられて移動する。すると本当に吹雪がやみ、空は晴れ渡っていた。
「おい。後ろ……」
振り返ったら、吹雪の壁ができていた。
「不思議な光景ね」
「そうだね」
吹雪の壁に頭を突っ込んだら、確かにそこは吹雪いている。頭を抜けば目の前に、境界線のように壁があった。
「まるで雨の日の境界線みたいだね」
「どこまで続いて……って、あれは街かしら?」
マーミンの視線を追っていくと、遠くに城壁のような物が見えた。はっきりとはわからないけれど、あの街のようなものは、吹雪の壁で覆われているようだ。
「もしかして吹雪の壁に隠れた街かも?」
「すごいでゴンス」
「あの街へ行きましょう!」
キンちゃんに潜り込んだラズベリーが、召喚獣たちと駆け出した。積もった雪を巻き上げ、気持ちよさそうに走っている。
「行くわよ!」
マーミンもラズベリーを追いかけて走り出した。
「待ってよ。パンク、みんな行くよ」
「おう」
走らなくていいはずなのに、僕らは全員で駆け出した。
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街らしき場所へ近づくと、吹雪の壁に見えたあれは、どうやら石の壁に雪がまとわりついただけのようだ。
雪原にある街というか、意外とごつく見える壁が、どこまでも遠くへ広がっている。雪原という場所のせいか、壁の終端は見えなかった。
光の反射とかが邪魔をして、遠くを確認しにくいのだ。
僕らは端を目指したりはせず、壁の真ん中あたりであろう場所にある門を目指した。
門の内側に立っている鎧姿の男性は、巨人だとか言うこともなく、普通の人に見える。
「こんにちは」
「お、お前らどっから来た? いいか、この砦には絶対に入るなよ」
どうやら街ではなく、砦だったらしい。
それよりも、男の態度が気にかかる。
「えっと、どういうことですか?」
全員を代表して、僕は男に問いかける。
「どこから来たのか知らないが、ここに来るまでに巨人に会わなかったか? あいつらは巨人の呪いで変化してしまったんだ。お前らもこの砦には入るなよ。巨人の呪いを受ける」
「巨人の呪い?」
不穏な言葉に不安を覚えながら、思わずオウム返しをしてしまう。
「そうだ。この砦に入ったものは、全て巨人の呪いを受ける。もちろん俺もだ。巨人の呪いを受けたものは、この砦からは出られない。でれば巨人に成り果てる」
「おい。なら俺らが倒したのは、もとは人間だったってことか?」
パンクの言葉に、男は横に首を振った。
「そうとは限らない。呪いの対象は砦に侵入した生き物全てだ。俺はネズミが巨人に変化するのを見たことがある。砦の人間は外に出ていない。人間の巨人に出会う確率は、そう高いものでもないだろう」
卵がドロップしなかった理由は、そんなところにありそうだ。でも重要なのは、なぜ砦に入ると呪いにかかるかの理由だ。
僕は門の内側へと、すっと体を侵入させた。
「おっ、巨人の呪いだって。バッドステータス扱いだね」
「おいラル! お前……」
「男女問わず。プレイヤーにも影響するようだわ」
気がつけば、マーミンまで砦の中に侵入していた。
「馬鹿な奴らだ。もう砦の外にでられないぞ」
鎧の男が驚いているが、本当に中に入るだけで、僕に巨人の呪いはかかっていた。
「マーミンまで来なくてもいいのに」
「こんな面白そうなこと、ラルだけにやらせるわけないでしょ」
マーミンは満面の笑みで答えた。
「お前ら、いいのか……」
「いいよ。モルギット、外の方はよろしくね」
「はい。ラルさんなら、なにか考えがあるのでしょう。私はむしろ、外のほうが気になります」
モルギットはここに来る前から、なんだか気になることがあるようだった。謎解きも得意なほうだし、そっちはモルギットに任せておけば、特に問題はないはずだ。
「砦の探索は任せて。なにかあったら連絡するよ」
「ああ。気をつけろよ」
パンクたちが立ち去るのを見届けると、僕らは砦の方へと向き直る。
奥にある建物が砦の本体らしく、その周りはたくさんの小屋があった。砦と言っても、普通に住んでいる人がいるみたいだ。
「出られないなら、まず食事ができなくて全滅だよね」
「自給自足できそうな畑は見えないわね。秘密は砦の向こう、もしくは地下……かしらね?」
ここに来るまでに、川が見当たらなかったし、パッと見て井戸もない。とすれば水すら補給できないし、とっくに砦は全滅しているはずだ。
しかも無差別に有効になる巨人の呪い。
マーミンの言う通り、見えないところに秘密があるのだろう。
「勝手に家には入れなさそうだし、水を探そうか」
「そうしましょう」
僕らが砦の中を歩いても、さっきの男も近くにいる住民も、咎めてくるようなこともない。
面倒がなさそうなことに安心しながら、僕らは探索を開始した。