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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
170/176

170.足跡の先

 不意にパンクの足が止まる。

 

「おい。なんだこの足跡は?」


 この大きな足跡まで移動すると、やはり雪が激しくなり、風も強くなっていた。

 

「裸足で歩く人間かしら。サイズはビッグだけど」

「雪男でしょうか?」


 そういえばそういう存在もいた。雪男が大きかったかは覚えていないけれど、どちらにせよ巨人ではある気がした。

 

「面白そうでしょ」

「一体なにがいるのか、ワクワクでゴンス」

「これだけ雪が降っているのに、ついさっきの足跡みたいですね」


 妙にリアルで声が聞き取りにくいけれど、なんとかまだ聞こえていた。モルギットの指摘はもっともだ。さっき確認した足跡かはわからないけれど、ギュッとした足跡は、不思議と雪に埋もれていない。

 

「罠……か?」

「どうかな」

 

 僕は足跡を壊すようにして、飛び乗ってから足裏でこすってみた。

 

「ちゃんと消えるね。壊そうと思えば簡単だよ」

「なら本当に、今さっきここを通ったってことか」

「微妙なところですね。確かに少しづつ、雪が積もっているようですけど」

 

 それでもモルギットには疑問が残るようだ。こうしている間にも、足跡は降る雪で少しづつ姿が消えている。

 

 その事実だけを考えれば、できたてほやほやの足跡だったと言えるだろう。

 

「まっ、追いかければわかるだろ。行こうぜ」

「それがいいわね」

 

 パンクは足跡をたどるようにして、進行方向を変えた。

 

--------------------------


 それからほどなくして、パンクが再び足をとめる。

 

「おい、見えるか?」


 目を凝らしてみると、吹雪の向こうに人影が見えた。うっすらとしか見えないけれど、かなり大きな影だった。

 

「あれが巨人?」

「かなり大きいわ。名前は雪の巨人ね」


 一応視認できるからか、名前を確認することができた。ドロップリストを見てみると、コモンに巨人の骨、アンコモンはなく、レアに巨人の斧がある。ただいつもなら必ずあるはずの、卵のドロップが存在しなかった。

 

「えー、巨人の卵はないみたい」

 

 ラズベリーが不満げに声を出していた。ゴーゴーとうるさい風の中で、不思議とラズベリーの声は聞きやすい。

 

「よしっ、魔物なら倒してみようぜ」

「オーケー」


 パンクが一気に走り出した。その姿が吹雪の中へと消える前に、僕らも距離を詰めていく。

 

 他のゾーンではいい感じのリアル感だったけれど、このゾーンは妙にリアルな気がした。降る雪が口に入ってくるし、なんとなく呼吸が苦しく感じる。

 

 見た目からの気のせいかもしれないけれど、ちょっとダッシュが息苦しい。

 

「我が名はパーフェクトタンク!」


 その声が聞こえたのか、雪の巨人がくるりと振り返った。

 

 やはり驚くほどにでかい。三メートルはありそうな身長に、吹雪の中でもわかるほどに、目が真っ赤に光っている。

 

 ただドロップリストにはあったはずの、斧などは装備していない。

 

 思わず見とれている間に、雪の巨人がパンクへ走り込んでくる。ずんずんと地面から振動が伝わり、それが僕の中で恐怖へと変わっていく。

 

 大きく振りかぶる雪の巨人が、拳をパンクへとつきおろした。

 

 ガァイィンと激しい音を立てながら、パンクは左手の盾で受け止める。そのまま地面にめり込んでしまいそうな勢いだったのに、完璧にパンチを防いでいた。

 

「カウンターシールド!」

 

 完璧なタイミングで撃ち込まれた技は、雪の巨人から激しく多角形の板を飛ばした。やっぱりパンクは頼りになる。それを見て僕の恐怖が、少しづつ和らいでいった。

 

「ファイアランス!」

「うぉぉぉぉ、我が神よ! パンクへ継続する癒やしの力を! ゴッデスヒールでゴンス」


 ゴリのどうでもいい詠唱を聞いたら、完全に恐怖が消えていた。


「ムーンボール」


 マーミンのファイアランスに続いて、僕の魔法もそれなりにダメージを与えたようだ。さらにサクラが近づいて、右のふくらはぎあたりを、刀で斬りつけた。

 

 しかしあまりにも巨人は大きかった。サクラの頭あたりに、巨人の腰があるようなかんじだ。とは言えふくらはぎへの攻撃は有効だろう。足を潰せば、倒れてくるかもしれない。

 

 モルギットは戦況を見つめている。パンクはダメージがないようで、ヒールをする必要もない。

 

「ポッポゥ」

 

 ポンちゃんがウニのようになって飛び込んだ。メインヒーラーな気もするけれど、アタッカーとしても強そうだ。

 

 その証拠に、それなりにダメージエフェクトが飛んでいた。

 

「グガァ」

 

 雪の巨人は痛いはずの右足で、パンクを思い切り蹴り飛ばした。しっかりと盾で防御しているが、体重差のせいかパンクが後ろに吹き飛ばされる。

 

「ちっ」

 

 小さく舌打ちをしながらも、パンクはしっかりと着地する。追い打ちをかけようと間合いを詰めてくる雪の巨人へ、マーミンのファイアショットが飛んでいった。

 

 きらびやかに光を撒き散らしながら、5つの炎は外れることなく命中する。やはり火が弱点属性なのか、激しく多角形の板を飛ばしながら、雪の巨人はのけぞった。

 

 斜めになった巨人を足場にして、サクラが体を駆け上がっていく。

 

「サクラ!」

 

 一気に胸元まで上ったサクラは、雪の巨人へと刀を突き立てた。

 

 リアルだったら喉に突き刺さるような一撃で、迸ったダメージエフェクトの中へと、サクラ自身が埋もれていく。

 

 サァっとダメージエフェクトが消えると、サクラもいなくなっていた。

 

「短距離転移か……完璧に使いこなしているな」

 

 雪の巨人はそのまま地面へと倒れ、激しく大地が振動する。

 

「うおぉぉぉぉ! シールドバッシュ!」

 

 そんな揺れに負けることなく、大の字に倒れた巨人へと、盾を構えてパンクが走り出した。

 

「あっ」

 

 思わず体がすくんでしまう。パンクは両足を開いて倒れた間を抜け、薄い腰布一枚で隠れたそこへと、盾を構えて飛び込んでいったのだ。

 

「ギィヤァァァァァァァァァァ」

 

 聞いたこともないような叫び声が響き渡ると同時に、雪の巨人全体から、ダメージエフェクトが迸った。弱点で輝いていたりはしなかったけれど、想像しただけで体が震えてくる。

 

 やがて薄れていったダメージエフェクトと共に、雪の巨人も姿を消していた。

 

「討伐完了!」

「えげつないわね」

 

 マーミンまでもが呆れた感じになっている。毎回こんな方法が通用するわけでもないけれど、深く考えるのはよそう。

 

「うーん。巨人の骨がドロップしました。何に使うんでしょうか?」

「さぁ? でもレイドで倒した割に、経験値が増えたわね」

「ボーナスモンスターなのか?」

「神の恵みでゴンス」

 

 何にせよ、サクラの成長に役に立つ。ちょっと探索はしにくいけれど、雪の巨人を倒しながら進むのも悪くない。

 

「ちょっと大変だけど、雪の巨人を倒しながら探索をつづけよう」

「わかった」

「オーケー」


 軽くうなずくだけで思案顔のモルギットが気になるけれど、考えがまとまったらきっと話してくれるだろう。


 それを待つことにして、僕らは探索を再開した。

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