17.邪妖精の迷宮、ハード
『邪妖精の迷宮』の三階には、必ず宝箱の部屋があるようだ。でも魔導書が手に入ったのは最初だけで、石貨や妖精の粉、最悪空っぽの時もある。
しかも五階のボスのドロップは、コモンが布系装備のレシピらしい。最初はドロップしなかったからわからなかったけれど、被りまくって捨てたくなった。
現物が手に入る妖精シリーズはアンコモンらしく、なかなかドロップしないけれど、『妖精のスカート』を新しく手に入れた。性能は防御力が2で反応が+2だった。全部を集めないとセット効果がでないので、今はまだ我慢の時だ。
ラビィにスカートを装備させたら、ワンピースが着られなくなったので、僕の初期装備だった『灰色Tシャツ』を着せてあげた。
とりあえず限界までファームした成果は、『妖精のスカート』と石貨、精霊装備シリーズのレシピを三種類で、あいにく魔法はドロップしなかった。
「レベルは8か……。いままで上がらなかったら、少しでも上がるのは嬉しいけれど、思ったよりも伸びが悪い」
ノーマルをクリアしたことで、ハードに挑戦もできたのだが、一度行って諦めた。ハードは邪妖精だけではなく、前衛にミニタウロスという魔物が増えていた。複数の邪妖精が背後から援護し、ミニタウロスが突撃してくるスタイルだ。
「タンクのいない僕のグループでは、タンクを仲間にするか火力を上げるかしないと、確実に反撃でダメージを受けてしまう」
ノーダメージが当たり前でないことは知っている。でもいちいちコンビでダメージを受けながら、回復して進むのはきつい。それならばレベル上げを兼ねてノーマルをファームしたほうが、今はいい感じなのだ。
「時間で突入回数がリセットされるから、しばらく休憩をしよう」
僕は『小鬼の村』でログアウトした。
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ログインして突入回数のリセットを確認すると、さっそく僕は『邪妖精の迷宮』へと突入する。フロアに存在する魔物は、全てを倒すようにしていた。レアドロップがあるかもしれないし、たいして手間にもならないし、なにより急いだところで10回制限にかかるのだから、倒したほうがお得なのだ。
「ふぅ。三階の宝箱のご機嫌はどうかな」
「楽しみだナァ」
識別で罠がないことを確認すると、僕はそのまま箱を開ける。
「いきなりか……」
中身は空だ。最初の一回目からこれだと、普通の人ならば落胆するだろう。だが僕はレアハンターだ。こんな結果で一喜一憂などしていられない。僕は装備もしていないマントを妄想の中で翻しながら、さっそうと部屋を出るのだ。
「残念だったナァ。でも次があるナァ」
「そうだね。次こそ見つけるよ」
もはや何のトラブルもなくクリアができる。今回のボスドロップは、今までドロップしなかった『精霊のチュニック』のレシピだった。
「妖精の上位だと思うんだよね。でも裁縫スキルを持っていないと習得できないから、性能まではわからない」
でもこれで精霊はコンプリートのはずだ。妖精の例があるから、頭と体と手と足の四部位で終わりだろう。
「とにかく『無魔法:魔力』の魔導書を見つけないと。それがあれば、僕の鍛冶ももっと輝くんだ」
「頑張るナァ」
僕らは奥の魔法陣へと足を運ぶ。まだまだ始まったばかりだ。僕は必ず『無魔法:魔力』の魔導書を手に入れてみせる。
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あれから六日ほど『邪妖精の迷宮』ファームをしているが、そのうちにレベルが10を越えてくれた。おかげでサクラとラビィを同時に召喚して戦えるようになったけれど、その分経験値は分散する。経験値の伸びは悪くなった反面、召喚師としては成長できている気がした。
そしてファームの成果もたっぷりだ。
『邪妖精の迷宮』のノーマルでは、5レベルまでの魔導書をドロップするらしく、持っていない属性の魔導書も手に入った。そしてもちろん、付与関係の魔導書も手に入れた。でも基本になるはずの『無魔法:魔力』の魔導書が手に入っていない。
「シャープネスとかキーンとか、能力値を上げる魔法も手に入ったのに、肝心の魔力がでない……」
「大丈夫だナァ。そのうちでるナァ」
「ウガガァ」
ラビィとサクラが慰めてくれる。僕ももちろん諦めるつもりはない。ただ一日の入場制限があるから、際限なくアタックはできない。卵を探しているときより救いなのは、それ以外でも役に立つアイテムがドロップすることだ。
「よし、気分転換も兼ねて、ハードに挑戦してみよう」
「頑張るナァ」
「ウガガァ」
幸いにもラビィが使う水魔法の魔導書を手に入れたので、R5.アクアランスを覚えている。サクラもいるので、なんとかなるかもしれない。
「いくよ」
僕がハードを選ぶと、階段下のドアが開いた。
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ハードとノーマルの違いは、魔物の強さとその種別だ。迷宮を進んで魔物を見つけると、僕は二人に作戦を説明する。
「攻撃すると、前衛のミニタウロスが突撃してくる。範囲魔法では後ろの邪妖精は巻き込みきれないから、単体魔法で確実にしとめよう」
「わかったナァ」
「ウガウガ」
小さな両刃の斧を構えた、名前の通りミニな人型の牛頭を持つミニタウロスが一体と、後衛に三体の邪妖精がいる。ミニタウロスは精悍でちょっと格好良くも思えるけれど、余計な事を考えながら戦えるほど余裕ではなかった。
以前はミニタウロスを処理している間に、魔法を受けるのが厳しかったけれど、今のラビィならば一撃で倒せるはずだ。
「僕が後ろの一体を全力で倒す。ラビィはミニタウロスをアクアランスで倒す。サクラはその間に後衛の邪妖精に突撃だ。では作戦開始! ムーンブラスト!」
「アクアランスナァ!」
「ウガガァ」
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妖精の粉×2
幻エッセンス×1
妖エッセンス×4 を手に入れました
ミニタウロスの角×1
幻エッセンス×3
獣エッセンス×3 を手に入れました
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僕の魔法をかわきりに、ラビィが魔法を撃ち込み、サクラがダッシュする。ラビィのアクアランスで目論見どおりにミニタウロスは沈んだが、サクラのダッシュが届かない。
「ウキャニャニャ」
「ウキャ」
「ムーンシールド!」
飛んでくる風の魔法をムーンシールドで受け止めたが、一体目の邪妖精の魔法を受けるので限界だった。
「ウグゥ」
サクラの足が止まる。やはり風の魔法を浴びてしまったらしい。
「アクアショットナァ!」
「ムーンボム!」
リキャストタイムがあるので、ムーンブラストではなくムーンボムを使う。その一撃で倒せはするが、ラビィのアクアショットでは倒しきれない。
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妖精の粉×1
幻エッセンス×3
妖エッセンス×5 を手に入れました
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「ウキャニャ……」
「ウッガァ!」
そこへ再びダッシュしたサクラが脇差を振るう。ラビィの与えたダメージと合わさって、その一撃で邪妖精は多角形の板になって消えた。
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妖精の粉×3
幻エッセンス×1
妖エッセンス×4 を手に入れました
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「倒せるけど、やっぱりダメージを受けてしまうね」
「ヒールナァ!」
サクラのダメージをラビィが癒やしていく。タンク職が攻撃を受け止めるのは格好いいけれど、アタッカーや後衛がダメージを受けるのはいただけない。
もしもタンクがいれば最初に突撃してもらって、初手の魔法を受けながら、こっちも魔法で応戦する。近接してタンクが注意を引いている間に、アタッカーも参戦して華麗に魔物を退治する。
それが僕の理想だった。そう考えると、やっぱりまだハードは早い気がする。
「一度戻って出直そう。レアドロップは諦めない限り、待っていてくれるから」
「わかったナァ」
「ウガァ」
僕らは迷宮からでると、そのままログアウトをした。




