169.再び探索開始
14時の5分前くらいにラズベリーから転移魔法陣の前に着いたと連絡が来た。予想通りに作動はせず、Bランクが必要とメッセージが流れたそうだ。
すでに手順は説明しているので、建物の側でラズベリーたちが来るのを待つ。
やがて14時になると、転移魔法陣の近くへふわっとラズベリーが現れた。そして次々とメンバーが転送されてくる。
「うぉっ、すげーな。初の雪だぜ」
「キラキラでゴンス」
転送してきたのは、ラズベリーにパンク、ゴリとマーミンにモルギットだった。特にモルギットは久しぶりにログインしている気がする。
「こんにちは。ラルさん。お久しぶりですね」
「こんにちは。そうだね。なんだか何年も会っていない気がするよ」
「それは言いすぎです」
フフッとモルギットが笑った。なんだか懐かしくなってきて、気持ちがホカホカとしてくる。
「ラルさん。パーティを組みましょう」
ラズベリーに誘われ、パーティに参加した。そういえばプレイヤーだけで6人だ。召喚獣を喚ぶ隙間はない。
「ラル。探索は進んでいるの?」
「来たばかりだから、それほどでもないよ。ラビィが寒さに弱くて、奥に進めないトラブルもあったし」
「ヒーラーがいないんじゃ、きついだろうな」
パンクの言う通りで、僕のパーティの要のラビィがいなければ、まともに探索なんてできそうもない。
「あっ、でも面白そうなものは見つけたんだ。よかったら見に行かない?」
「いいじゃない。案内よろしくね」
「おう。このメンバーならよほどのことがない限り、全滅はないだろう。ダブルヒーラーだからな」
そういえばモルギットもゴリも、ヒーラーよりの魔法使いだ。パンクの硬さも知っているし、予想通りに巨人がいても、なんとかなりそうな気がする。
「召喚師としては役に立てそうにないけど、僕も頑張るよ」
「それもそのうち解消されるでしょ。いまテスト中らしいわよ」
マーミンの言葉に、いろいろと疑問が浮かぶ。
「最初の召喚師の仕様では、6人全員が召喚師だと、それぞれ3体召喚したとして、24人で1パーティとか訳のわからないことになるでしょ。それを防ぐために、大型アップデートで変更されたの」
もちろん召喚獣をパーティメンバーとして数えるという変更があったのは知っている。でも経験値問題だけだと思っていたけど、そういう事情もあったらしい。
「それで今度はプレイヤーでパーティを組むと、召喚師が力を発揮できないとか文句が出て、1体までなら召喚できるように修正予定でテストしてるみたい」
悪くない気がする。召喚師6人でパーティを組んでも、最大で12名だし、これなら運営的にもバランスの範囲内でおさめられそうだ。
「その場合の経験値とかも考えなきゃならないけど、大型アップデートってほどでもないし、そのうち適用されるんじゃない?」
「そうなるといいね」
どちらにせよ、今すぐ召喚できるわけではないし、今回はこのままだろう。
「それじゃ、私は別パーティで行きますね」
そう言うとラズベリーがパーティを抜け、キンちゃんやらポンちゃんを召喚しはじめた。
「ラルさんも1体召喚して、2パーティで行きましょう」
「良いんじゃないですか」
「ナイスアイディアでゴンス」
みんなも雪原の探索がメインみたいだし、いつかのようにレイドでも良さそうだ。
「ありがとう。それならサクラ召喚!」
最近は構成上、喚びにくいサクラを召喚した。
相変わらずのメイド装備に、攻撃力の上がるピアス。すっかりこの姿が僕には馴染んでいるけれど、いつか必ず和風の剣士に育て上げたい。
「そろそろ行こうぜ」
「面白いものの方角はあっちだよ。少しづつ吹雪いていくけれど、周りに注意して進んでね」
「ワクワクでゴンス」
パンクを先頭に、僕らは足跡へ向けて歩き出した。
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歩きだしてから気がついたけれど、例の足跡は雪で埋まっているかもしれない。でもすぐに気にしても仕方がないことだと、僕は気持ちを切り替えた。
「我が名はパーフェクトタンク!」
ホワイトラビットの突進を、パンクが盾で受け止めていた。僕は油断して奇襲されたけれど、パンクはしっかりと受け止めていた。
「あらよっ、ほらさ」
「ファイアショット」
マーミンの放つ5つの炎が、きらびやかに空中を舞って着弾する。
全てが命中した時に、ホワイトラビットは光を残して消えていった。
「えっ?」
僕が戦った時には、もっと魔法を撃ち込まなければ倒せなかった。エリーの魔法とマーミンの魔法では、そこまで差があるのかと寂しくなる。
「どうかしたの?」
「威力が凄いなって思ったんだ」
そんなことかって言う感じで、マーミンがニコリと微笑んだ。
「火魔法だけだけど、この杖で威力をブーストできるのよ。プレイヤーメイドの装備だけど、こういうので地力を上げているの」
そう言えばその手の装備は、エリーには渡していない。もともと持っていないというのもあるけれど、魔法系の装備はあまり重要視していなかった。
でもここまで差を見せつけられたら、この先は考えたほうが良さそうだ。
「しかし雪原のせいでうさぎが見えにくいな」
「足跡でなんとかなりそうです」
「細かいことは良いでしょ。どーんと魔法でぶっ飛ばせばいいのよ」
モルギットの感の良さは相変わらずのようだ。パンクも見えにくいとかいいながら、しっかりと対処しているし、何かと安心できるパーティだ。
「雪が激しくなると、もっと見えにくくなるから注意していこう」
「了解」
ふとラズベリーを見ると、キンちゃんに潜り込みながら、楽しそうにしていた。5体召喚をしているから、それぞれ能力値は落ちているはずだから、無理しないようにと心配になってくる。
でも今のラズベリーは僕よりもレベルが高いし、フル召喚での戦闘も経験がありそうだ。
いざとなればモルギットとゴリのヒーラーコンビもいるし、きっと大丈夫だろう。
少しづつ強くなる風の中を、僕らは足跡を探して進んでいった。