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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
164/176

164.北の滅びた街

 異界迷宮の入り口から、今度は北へと向かっていく。南の時は水が冷たくなっていったけれど、特に水温は変わった感じはしない。


 ゴツゴツとした岩の湖底を蹴り進んでいくと、上の方に魔魚が泳いでいるのが見える。もしも湖底を進んでいなければ、それなりに戦闘が必要になるだろう。


 魔魚が泳いでいる場所よりも深く、見つからないように進んでいく。

 

 そのまま北へと泳いでいくと、湖底が砂利混じりの土に変化していった。そんな湖底に足をついてみたけれど、泥の時ほど濁ったりはしなかった。

 

 これならば歩いていく感じで進んでも、特に問題はなさそうだ。

 

 魔魚に注意しながら進んでいくと、澄んだ水の向こうに建物が見えてきた。近づいていくとわかったけれど、どうやら北にあったという街みたいだ。

 

 少し埋まっている気がするけれど、石で建てられた家屋がたくさん見える。時折、ビルのように高い建物があるのは、北の街には高い技術力があった証明になる。

 

 ビルのような建物につられて上を見ると、大きな魚が泳いでいた。

 

 詳細を調べると巨大魔魚になっていて、特にドロップは存在しない。湖面から直接来たり、街の中で不用意に上昇しすぎると、あの巨大魔魚に襲われるという罠だろう。

 

 北の街は中央に大通りがあり、その脇に建物が整然と並んでいる。ここから見ているだけでも、大通りには魔魚がうようよと泳いでいる。

 

 それを上昇して回避できないように、巨大魔魚を泳がせているのだろう。

 

 そう考えると、あの巨大魔物魚は強い。ズルをしようとしたプレイヤーに、鉄槌を下す存在と言える。

 

 かと言って、大通りをバカ正直に進むのも大変だ。たくさんの魔魚に襲われるとわかっていて、正面突破を挑むほど血気盛んでもない。

 

 泥に埋まっていなければ、城壁はしっかりと機能していただろう。でも今はほとんど埋まっているので、簡単に乗り越えることができそうだ。

 

 大通りに行かないようにして、家屋の間の隙間を歩いてみる。入り組んでいて先が見通せないけれど、魔魚の姿は見当たらない。

 

 ただここは湖の中だから、正面とかだけでなく、上にも注意を向ける必要がある。

 

 それを忘れずに進んでいけば、比較的安全に歩けるだろう。

 

「ピピッ」

 

 エリーの声に顔を向けると、家屋の窓から中が見えた。その部屋の片隅に、木製の箱がある。

 

 窓はなんとか通れそうだったので、そのまま部屋の中へと侵入した。特に装飾もされていないけれど、この滅びた街の中で、形を保っている木箱には、なんとなくワクワクしてしまう気持ちがある。

 

 どこかしら宝箱に思えて、中身はなんだろうと思ってしまうのだ。

 

 念の為識別しても、特に罠もなければ、鍵もかかっていない。僕は上蓋に手をかけると、パカっと上に蓋を持ち上げた。

 

「ぐぼっ」

 

 箱から飛び出してきたのは、宝石でも金貨でもなく、ボクシングのグローブだった。なんともレトロなびっくり箱に、なすすべなく拳を受けた。

 

 飛び出したボクシンググローブは、僕の周りで水中を漂っている。バネがついているわけでもないのに、なんで勢いよく飛び出してきたのだろう。

 

 理不尽ではあるけれど、明確な理由も仕掛けも必要はない。ゲームなのだから、あまり深く考える必要はないというのはわかる。

 

 でも僕はこういう時、なぜだろうと言う思いが浮かんでくる。なにかしら意味があるはずだと、なんだか気になって仕方なくなるのだ。

 

 ふと消えないボクシンググローブが気になった。僕はそれを手に取ると、それ自体がお宝だったことに気がついた。

 

 パンチを浴びせるための、びっくり箱のギミックだと思っていたのに、栄光のグローブという、武器扱いの手袋だったのだ。

 

 攻撃力は78と高く、特殊技能として連続攻撃がついていた。しかも4連続でパンチを繰り出すというスキルだ。

 

 リキャストタイムによっては、剣士の連撃に迫る強さだろう。

 

 でも僕は格闘系のスキルは持っていない。

 

 使えないのは残念だったけれど、僕はそれをインベントリにしまいながら、思わぬお宝にニヤニヤしてしまった。

 

 そういえば路地を通るよりも、家の中を進んだ方が安全な気がした。壁に遮られているおかげで、路地や大通りの魔魚からも、姿を隠すことができる。

 

 僕はそう考えて、窓から窓へと、路地に体を晒す時間を少なくしながら、大通りに並行して街の中を進んでいった。

 

 窓が狭いところは、ルードやパンクだったら通れなさそうだけれど、幸いにも僕やエリーにはスイスイだ。

 

「ぼふぇぇ」

 

 ある家に侵入した途端、タンスのような引き出しがたくさんある家具から、小さな魚が数匹飛び出してきた。

 

 突進をまともに受けてしまい、思わず僕も声が出る。

 

「ウッピィ」

 

 エリーのファイアショットが正確に小魚たちに命中する。狭い部屋が炎で赤く染まるけれど、なんとか僕らにはダメージはない。

 

 小魚が消える前に、ぎりぎり名前を確認できた。小魔魚という名前で、とくにひねりもなかった。でも体が小さいから、このタンスの引き出しにも隠れられたのだろう。

 

 戦闘は終わったと思っていたら、追加で引き出しから小魔魚が飛び出した。どうやらここを住処にしていたようだ。

 

「ムーンシールド」


 たいして痛くないとはいえ、小魔魚の突進を受けたくはない。

 

「ウピィ」

 

 そんな僕の気持ちを察したのか、エリーはファイアボールをタンスへと放つ。うまく効果範囲から僕らを離しながら、小魔魚たちを一気に殲滅する作戦だ。

 

 エリーの柔軟な作戦により、小魔魚たちはきらびやかに多角形の板を撒き散らした。

 

 合計11匹倒したけれど、インベントリには変化はない。

 

 どうやら何もドロップしてくれない、この世で最悪の魔物だったらしい。

 

 でもイベントという感じはしないから、家の中を安全に進んでいこうというプレイヤーへの牽制だろう。

 

 もしかすると、このまま家屋の中を進んでいけば、もっとやばい魔物がいるかもしれない。

 

 でもちょっとそれを見てみたい気もする。何より魔魚の中を突っ切るよりは、潜入ミッションをしている気分で楽しい。

 

 僕は危険があるかもと予想しつつも、家屋の中を進んでいった。

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