162.突然の終わり
大きな扉に入ると、そこは広間になっていた。床には魔法陣のようなものが描かれ、そこへ魔力を注ぎ込むようにして、真っ黒なローブを着た何者かが側に立っている。
「やっとでたか。紫闇の召喚師だぜ」
名前を確認すると、真っ黒ローブが紫闇の召喚師だった。よくわからない状況だけど、何かを召喚しようとしているのはわかる。
「光の連中だな! 我の邪魔をするな!」
部屋の壁に並んで立っていた甲冑たちが、一斉に動き出した。
「気をつけろ! 紫闇の召喚師はターゲットにならない。多分イベント系だ」
「先に甲冑の方からやれってことよね」
甲冑の名前を確認すると、紫闇の戦士になっていた。どうやらこの辺りから本格的に、闇との戦いが始まるらしい。
「ラビィ、サクラ、エリー。僕らもやるよ」
「我が名はパーフェクトタンク!」
12体の紫闇の戦士が、パンクへと向かっていく。
「一撃に長けし戦士たちよ。光の連中を葬り去るのだ!」
紫闇の召喚師のセリフで、僕の中の何かが警告をはじめた。やばい時にしか感じない、あの特殊な感覚だった。
「パンク。攻撃を受けちゃ駄目だ。カイトするんだ」
「あん? 任せろ!」
パンクは魔法陣の周囲を回るようにして、紫闇の戦士をカイトしはじめた。注目を受けているので、紫闇の戦士たちはパンクを追いかけていく。
「ラル。どういうことよ? ファイアショット」
「一撃に長けしとか言われて、12体から攻撃を受けようとは思わないよ。ムーンボール」
紫闇の召喚師はボス系の魔物だ。その魔物が言うくらいだから、警戒しても損はない。
「12体もいるし、それもそうね。ファイアランス」
「無駄な危険は裂けるべきだよ。ムーンスピア」
そんな会話をしながらも、僕らは魔法を撃ち込んでいく。
「あっ、サクラはまだ待機してね。念のためだよ。遠距離系でよろしく」
近接されたら心配だけど、遠距離ならば安心できる。紫闇の戦士は馬鹿みたいにパンクを追いかけているし、こっちに向かってきそうになる頃には、僕らの魔法で倒していた。
1体づつ削っていけば、そのうち全部倒せるだろう。
「我が名はパーフェクトタンク」
パンクも僕の無茶な要求にもかかわらず、名乗りだけで注目を維持している。懐かしい感じもするけれど、お盆が紫闇の戦士に飛んでいた。
そう言えばサクラは最近戦っていない。早く進化させたいけれど、ずっと召喚しているラビィでさえも進化レベルに達していないのだ。
種族によって進化レベルは違うらしいけれど、根拠のない予想からすれば、それほど違いもないはずだ。
エリーは火と水の魔法で着実にダメージを与え、ラビィも今回は水魔法で貢献している。
ラビィの攻撃魔法を見るのは、なんだか久しぶりな気がした。
「あと3だ!」
「任せてよ。ムーンボール」
カイトすることで誰もダメージを受けていない。ちょっとだけどれくらい攻撃力があるのか、興味が出てきたけれど、やはり避けられる危険は、避けたほうがいい。
僕らは着実に、紫闇の戦士の数を減らしていった。
「ええい、しっかりと我を守らんか!」
紫闇の召喚師が叱咤するが、ここまでくれば状況は変わらないだろう。残り1体となった紫闇の戦士も、ラビィのアクアランスで消滅した。
「紫闇の召喚師に行くぜ!」
パンクがいい感じのタイミングで、紫闇の召喚師にメイスを叩きつけた。
「ぐうぉぉぉぉぉ!」
驚いたことに、紫闇の召喚師は膝から崩れ落ちていく。しかも足元から、少しづつ体がチリに変化していった。
「パンク! なにしたの?」
「何もしてねぇ。メイスで殴っただけだ」
紫闇の召喚師が足元から消えていくが、逆に魔法陣は黒い輝きを増していた。
「待って! 魔法陣がまだ機能しているわ」
「ふははははっ。これだけは……紫闇の騎士が来れば、お前らなど終わりだ!」
どうやら紫闇の召喚師は、悪あがきにも騎士を召喚するらしい。紫闇の騎士を倒せば、クエストにある魔物は完了になるだろ。
「ちっ、さっさと消えやがれ!」
パンクがメイスで追い打ちをかける。
「もう遅い。我が消滅しても、召喚は止まらぬ。我こそは紫闇の召喚師。最高の召喚師なのだ!」
黒い霞は渦を巻き、魔法陣へと集まっていく。
「あらさっ、ほいさっ」
それでもパンクは諦めない。紫闇の召喚師へと何度もメイスを振り下ろす。なのに無常にも、魔法陣の黒が、どんどんと濃くなっていった。
「紫闇の騎士はクエスト対象モブだし、どうでもいいからさっさと召喚しなさいよ」
マーミンがドライなセリフを言ってしまう。いつもならノリがいいのだけど、どうやら飽きているようだ。
まだ謎は全て解いていないけれど、召喚される魔物を倒せば、クエストはクリアになる。ポイントも溜まりそうだし、しばらくは来なくても良さそうだ。
っと思ったけれど、光と闇の上位魔法の件もあった。
何にせよいろいろあったから、一度ゆっくりと落ち着いて考えたい。
「って、何よこれ?」
気がついたら、僕らにあった光の加護が、魔法陣へと吸い込まれていた。さっきまでは黒い霞だったはずなのに、いつの間にか光で上書きされている。
「なんだと! 我が最高の召喚が!」
紫闇の召喚師もまだ消えてなかったようだ。驚愕の表情になりながら、よくありそうなセリフを叫んでいる。
どういう展開だろうと眺めていたら、魔法陣から見覚えのある鎧が現れた。
「我こそは光の戦士。闇を払うものなり!」
「なんだとぉ! お前は滅びたはず」
「光は滅びぬ!」
光の戦士が輝くと、ついに紫闇の召喚師は霞となって消え去った。出現した光の戦士が、ニコニコとしながら立っている。
「ありがとう。我が友たちよ。おかげで力を取り戻すことができた」
「無事で良かったな」
パンクは素直に喜んでいた。僕はちょっと思うところもあるけれど、概ね悪い感じではない。
「それでは後は我に任せてほしい。必ず城を取り戻す!」
そう言うと光の戦士は、驚くほどの速さで広間を出ていった。それと同時に、ダークワールドをクリアしてしまう。
「どういうことだ?」
「光の戦士が復活して、城を取り戻したってことでしょ。紫闇の騎士を倒していないからクエスト失敗だし、結局ダメダメじゃない」
「でも光の戦士は助かったし、よかったほうかもよ」
マーミンを落ち着かせようとこう言ったけれど、実は僕も苛ついていた。多少のことは気にしないほうだけれど、ここまで頑張って、ある意味結果は失敗だ。
光の加護を受けたところから失敗なのかもしれないし、クエストを無視して玉座を目指せばよかったのかもしれない。
でもこのクエストは光の戦士から受けるのだし、そうなると加護は持っているはずだ。加護があると紫闇の騎士の召喚に失敗するのなら、このクエストはクリア不能になってしまう。
そう考えると、光の戦士が消滅しないルートもある気がしてきた。
まあどれだけ考えたところで、全ては今更の話だろう。
「とりあえずポイントになるアイテムも手に入れたし、一度出ようぜ」
「しょうがないわね。初めてだったし、次があるならもっとうまくやるわ」
「戻ろうか」
ちょっと落胆しながら、僕らはダークワールドから脱出した。