157.異界クエスト
迷宮へ転送されると、ダークワールドの名前の通り、完全な闇だった。夜目のスキルがある僕にも、見通せないようになっている闇だった。
この状況では戦いにくいけれど、水の中というわけではない。僕はラビィとサクラを召喚する。
「召喚した時の光で少し明るくなったけど、完全に闇よね」
「おいおい。ランプも効果がないみたいだぜ」
どうやらパンクはランプを使ってみたらしい。
ランプの明かりも駄目で、夜目も効果がない。いきなりの高難易度に、僕は背筋がゾクゾクしてきた。
「あっ」
不意に僕らの側が明るくなった。いつの間にか2メートルほどの全身鎧を着た人が、輝きながら立っている。
「この人のそばにいれば、暗さは問題なさそうね」
マーミンがそう言った瞬間、鎧の頭がグリンとこちらを向いた。
「勇者よ。我らが城を取り戻すために、お力をお貸しください!」
「勇者ぁ? うさんくせぇな」
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異界クエスト:光の城を取り戻せ
闇の門番×2
紫闇の騎士×1
紫闇の召喚師×1
報酬:紫闇の塊
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パンクの言葉と同時に、クエスト内容が表示された。
「あっ、クエストなのね」
「ならいいか」
討伐リストを見ただけでも、ちょっと難しそうだなと言うのはわかる。ただ報酬の『紫闇の塊』は、ガメールのところで100ポイントと交換できる。
このクエストが何回でも受領できるタイプなら、サクサクとポイントが貯まるかもしれない。
「受けるよ」
「オーケー」
「ああ。さっさとクリアしてやるぜ」
僕はクエストを受諾した。
「ありがとうございます。我が城は闇に支配されております。我は光の戦士ゆえ、闇を払う力があります。光の加護を!」
光の戦士がそう言うと、僕ら全員の体が光りだす。これなら光の戦士がいなくても、闇に困ることはなさそうだ。
「我についてきてください」
そう言うと光の戦士は、草原の中を駆け出した。明かりに照らされた空間は、おそらくだけど異界迷宮のノーマルで見た草原と同じだろう。
光の戦士を先頭にして、パンク、サクラと続いていく。マーミンを中心にして、僕が一番うしろからついていった。
途中で出会う魔物は人食草だったけれど、闇の人食草と名前が変わっていた。コモンドロップに種があったので、このゾーンではポイントのアイテムをたくさん手に入れられそうだ。
「もうすぐ城が見えてきます」
光の戦士の声に前を見ると、遠くにぼんやりと城が見えた。城を囲うように壁があり、豪華な門も存在している。
距離感がよくわからないけれど、遠いようで近いような、不思議な感じにぼやけて見えた。
「闇の門番です。みなさん協力をお願いします」
光の戦士の言葉で、門が近かったのだと理解する。
「愚かな光の戦士たちよ。ここで闇に堕ちるのだ」
それっぽい声が響くと、黒い影に見える門番たちが、光の戦士へ向かっていった。
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黒い影の門番は、腰布だけを身につけた裸に見え、やけに長い手をしていた。身長は2メートルほどもあり、大きく手を上げたその姿は、かなり大きく見える。
「光の束縛!」
光の戦士がそう叫ぶと、門番の体に光の輪がいくつもまとわりつく。どうやらそれで動けなくなったようで、門番は2人ともにピクピクとしていた。
「いまです!」
「行くぜ」
「ファイアショット!」
パンクが左の門番へと走り出し、メイスを勢いよく振り下ろした。そこへマーミンがファイアショットを放ち、5つ全てを左の門番へと命中させた。
激しく飛び散るダメージエフェクトに、僕は目をつぶってしまう。
「右はおまかせを」
サクラの声に目を開くと、すでに右の門番へと近接していた。踊るように右、左と刀で斬りつけるサクラの耳に、赤い宝石が光っている。
あのアイテムのおかげで、攻撃力も上昇しているはずだ。
「ウッピィ」
そこへエリーがマーミンと同じくファイアショットを放った。
闇には火も効果が高いようで、いい感じにダメージエフェクトが飛んでいる。
気がつけば門番は僕とラビィの出番のないうちに、あっさりと葬り去ることができた。
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闇魔法:ダークランスの魔導書×1 を手に入れました
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ドロップリストを確認していなかったけれど、門番には闇魔法の魔導書が存在したようだ。
闇魔法の上位を手に入れても、下位の闇の魔法も覚えられるので、きっと無駄にはならないはずだ。
「へー、闇魔法の魔導書がドロップするのね」
「俺は闇の欠片だったぞ」
マーミンは魔法書、パンクは交換アイテムだったようだ。
「行きますぞ」
そんな話をしていたら、光の戦士が大きな門の前で構えていた。そう言えば門は閉じられており、どうやって開けたらいいのだろう。
「普通なら内側から開くんだろうな」
「闇に染まる城よ。だが心は闇にあらず。光あれ!」
なんだかそれっぽい言葉を光の戦士が叫ぶと、門がギギィっと外側に開いてくる。前庭は広く、中央に噴水のようなオブジェがある池があった。
ただ今は水も噴射しておらず、周りにある木も真っ黒で不気味だった。
「玉座に闇の女王がいるでしょう。討伐すれば、城は我らに戻ります」
「任せとけ。真っ直ぐだな」
光の戦士は前庭を駆けていく。すると真っ黒な木の陰から、これも真っ黒な全身鎧を着た人型の魔物が、すっと僕らの行く手を阻む。
「むむっ、闇の戦士か」
「光の戦士よ。ここで終わりだ!」
闇の戦士は漆黒の斧を装備している。背も2メートルと高く、斧を振り上げた姿はなかなかの迫力があった。
「光の束縛!」
「ちぃ!」
大激闘になると思ったら、光の束縛が決まってしまった。ちょうどいいので、僕はドロップリストを確認する。
闇の欠片、闇魔法:ダークコートの魔導書、闇の戦斧の3種類が存在した。コモン、アンコモン、レアの順に並んでいるので、魔導書は比較的手に入りやすそうだ。
「ファイアランス」
「ウッピィ」
パンク、サクラ、マーミンとエリーの魔法を受けて、闇の戦士をあっさりと倒すことができた。
おそらく光の束縛は、弱体化の効果もあるのだろう。
ただドロップは闇の欠片だった。ポイントと交換できるので、それほど悪いアイテムではない。
「光の戦士がいれば余裕だな」
「これからも頼むわね」
「ともに城の奪還を!」
シャキーンと言う感じでポーズをとると、光の戦士は再び駆けていく。
「玉座には5つの光の台座が存在します。光の加護をもつものが、それらに触れれば玉座は光で満たされるでしょう」
「それで?」
前庭を駆け抜けながら、僕らは光の戦士の話を聞いていく。
「闇の女王は闇の中では無敵。5つの光を……ぐうぇ」
いきなり光の戦士が膝をついた。走っていた勢いで、そのまま地面へ倒れ込んでしまう。
「だまれ臆病者の光の戦士よ。お前が城にいれば、この城が闇に堕ちることはなかったであろう」
気がつけば城への入口の前に、黒いローブの魔物がいた。
「闇魔道師か……全てはお前の計略だな」
「ふふふっ、お前の部下に話を持ちかけ、この城を攻撃する日を決めた。最強たるお前がいない城など、赤子の手を捻るようなものよ」
光の戦士は倒れたまま苦しんでいる。助けようとしたのだけれど、イベントなのか体が動かない。
「お前がしっかりと監督していれば、城は闇に落ちなかった。お前がちゃんと守護していれば、城は闇に落ちなかった。この光の城が闇に落ちたのは、すべてお前のせいなのだ! ぎゃははははははは」
ひどい言いようだった。だが僕らは動けないので、反論もできない。
どうなるんだと思っていたら、光の戦士の鎧の隙間から、黒い影が吹き出してきた。
「そうだ。お前の心のままに動けば、城は闇には落ちなかった。苦しいだろう。お前の望むままに、怒りのままに、全ての衝動を開放するのだ!」
「私がいれば……私のせいだ。全てはわたし……の」
吹き出す闇が濃くなって、光の戦士を包み込んでしまった。
このパターン。間違いなく、光の戦士が闇に堕ちるパターンだ。
「ぐぉぉぉぉぉぉ」
光の戦士の叫びとともに、体にまとっていた闇が消える。
さっきまで輝いていたあの鎧も、全て漆黒に染まっていた。
「闇はいいな。ぐふふっ、闇はいいぞぉ!」
「これで終わりだ。光同士でやりあえばいい」
闇魔道士はそう言うと、スゥッと闇に溶け込んで消えた。
「くそっ、どうにもならないのかよ」
「光の戦士に戻す方法なんてなさそうよ。ドロップリストに聖光魔法とかあるし、きっと闇のゾーンで光魔法を手に入れるためのイベントだわ」
マーミンはあっさりと諦めているけれど、言われてみれば納得ができる説明だ。ドロップリストには聖光魔法の技符がある。おそらく女王あたりが、闇の上位魔法の技付をドロップするはずだ。
そう考えると、ここで光の戦士に戻ることはないだろう。
などとせっかくの盛り上がりそうなシーンで、俗物的にアイテムの事を考えてしまった。
「仕方ない。光の戦士よ。俺はお前を倒す。そして城を、必ず光に戻してやるぜ!」
パンクの言葉に、僕の心も熱くなる。
「そうだよ。約束は守るから」
「無理だな。お前らはここで終わりだぁ!」
闇に囚われし光の戦士は、大きく剣を振り上げた。