152.クエストの先
色猫の色は決定したけれど、契約はまだしていない。
今すぐに召喚して戦力になるわけでもないし、今は育てるよりも先にやるべきことがある。
僕はロッカテルナ湖のポータルの側で、ラビィ、ルード、エリーを召喚していた。水トカゲに負けて以来、ここでは戦闘していないけれど、どれだけ戦えるのか、大蛇で確認しておきたい。
「ルードよろしく」
「ガモォ」
たくさん来られるとまずいので、ルードは近くの大蛇へ向けて走っていく。僕らも少し間合いを詰めて、魔法の準備をしておいた。
ルードがやりを突き刺し先手を取った。
「ウピピィ」
念のために、ラビィの水魔法は封印だ。エリーの放った炎の槍が、大蛇へ向けて飛んでいく。
「ムーンスピア」
大蛇から迸る多角形の板の量から、いい感じにダメージが通っているのがわかる。エリーはごきげんなのか、空中でクルリと回転した。
「ウピッピピィ」
普段は使わないファイアボールの魔法。ルードは火耐性があるけれど、巻き込むように戦うのは感心しない。
っと思っていたら、ルードがすっと距離を取る。
追いかけようとした大蛇に、ファイアボールが直撃した。そのタイミングに合わせ、ルードがブレイクを発動する。
瞬時に距離を詰めたルードの一撃は、見事に大蛇を葬った。
僕はここまで細かな指示はしていないけれど、召喚獣同士でいい感じに連携してくれるようだ。と言うか、今までもうまく連携していた気がする。
わかりやすい連携の結果と、問題なく倒せた事で、僕の中に安心が広がった。
「推奨レベルには満たないけれど、十分戦えそうだね。一応この隊列で、あっちの小屋へと移動しよう」
「おまかせですの」
反対することはないけれど、全員の了承を確認してから、僕は小屋へ向かった。
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僕はラビィとルードを送還し、以前と同じ場所から湖に入った。魔法の瓶はまだ持っているし、前と同じ場所ならば、魔魚を1体倒すだけでなんとかなりそうだ。
湖の中央辺りまで泳いでくると、水面に顔をつけて様子を確認する。
やはり前と同じように、魔魚が泳いでいた。ドロップリストを確認すると、魔魚の骨、魔魚の鱗、魔魚の卵の3種類だった。魔骨魚と似ているのは、何か理由がありそうだ。
エリーの魔法の射程内なので、水面から討伐にチャレンジする。何より水の中で火の魔法が使えるのかを、確認しておかなくてはならない。
「エリー。よろしく」
「ウピピピィ」
水中で軽やかに舞いながら、エリーがファイアランスを発動する。まるで水の中ではないかのように、普通に魔魚へと火の塊が飛んでいった。
魔魚はやはり火に弱いのか、激しくダメージエフェクトが飛んでいる。それでも倒しきれなかったようで、エリーに向かって泳いできた。
僕は大きく息を吸って潜ると、エリーの前に移動する。向かってくる魔魚へ向けて、最もダメージのでる修理不可の剣を抜いた。
「瞬速剣!」
水の中では微妙に行動が制限されるから、僕にはちゃんと剣を振るのが難しい。でもこの技は違う。
絶対に外さないという特性上、水の中でも問題なかった。
そして僕の一撃は、魔魚に激しくダメージを与えた。激しく飛ぶダメージエフェクトとともに、その姿がスゥッと消える。
「ぷはっ、行けそうだね」
「ピピィ」
酸素メーターが消費されるので、僕は一度水上へ顔をだす。確認すると魔物はいないようなので、再び大きく息を吸って潜水した。
前はいろいろ慣れなくて、10メートルまで届かなかった。今回は魔物もいないので、大胆に潜っていく。
僕の横に並んで、エリーがスイスイ泳いでいる。仮に新しく魔物が現れても、これならなんとかなりそうだ。
その安心感があるからこそ、僕は深くまで潜っていける。前よりも確実に潜った僕は、魔法の瓶へと魔力を流す。
今回はうまくいったようで、瓶の中が満たされていくのがわかった。酸素メーターはまだ余裕があったので、水面へと方向を変えると、そのまま浮力に任せて水面へ出た。
「ぷはぁ」
僕が水上へと顔を出しても、エリーは水中で泳いだままだ。クエストのクリアを喜びながら、僕は小屋へと向かって泳ぎだした。
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小屋の前に来た時には、ミニ浴衣は完全に乾いていた。リアルと違ってすぐに乾くのは、毎回思うことだけれど、このゲームのいいところだ。
扉をコンコンコンッとノックすると、そのまま小屋の中へと入る。
前と同じ白衣の男性が、何かを研究するように、良くわからない器具を扱っていた。
「こんにちは」
「こんにちは。前に依頼を受けてくれた冒険者だね。もしかして?」
「はい。これが依頼の品物です」
僕は魔法の瓶を男に渡した。
「これだよ。これができるならば、仕事が依頼できそうだ」
男はそう言うと、部屋の隅へと移動する。ガサゴソと木箱をあさりながら、何かを探しているようだ。
何を探しているのだろうとぼんやり見ていたら、これだよと言いながら、何かを持って戻ってくる。
「次の仕事では、湖の底まで行かなくちゃいけない。そのためのアイテムがこれだ」
男は腕輪を渡してきた。僕はそれを受け取ると、名前を確認してみた。
「呼吸の腕輪……ですね」
「そうだ。アクアブリーズと唱えたら、水中で呼吸ができる加護が得られる。ただし1時間で効果がなくなるから、切れる前に重ねがけをするといい」
水路の調査に行ったとき、マーミンが唱えていた魔法だ。どうやらこれから本格的に、ここのクエストが進むらしい。
「改めて自己紹介しよう。僕の名前はガメール。異界迷宮の研究者だ」
「えっ」
異界迷宮の言葉に驚いた。名前はすぐに忘れそうだけれど、この場所こそが、異界迷宮の関連施設だったらしい。
「頼みたい仕事は、湖の底に入り口がある異界迷宮へと赴き、様々なものを持ち帰って欲しいのだ。持ち帰るアイテムによって、得られるポイントが変わる。そして取得したポイントで、研究成果とも言えるアイテムを進呈しよう」
ちょっと難しい説明だったので、僕の中で消化するのに時間がかかった。簡単に言えば、異界迷宮からアイテムを持ち帰ってポイントを稼ぎ、それで特別なアイテムと交換できるというわけだ。
カタログショッピング的なものだと考えれば、それほど難しいこともなさそうだ。
「詳しくはリストを見て欲しい」
ガメールがそう言うのでメニューを確認すると、異界迷宮の項目が増えていた。
ロッカテルナ湖の異界迷宮を選択して、交換リストを確認する。
人喰草の種、兎の心臓、異界の欠片。ぱっと見るだけでも、様々なアイテムがポイントに変換できる。
そしてポイントで変換できるアイテムに、星砂を確認した。
星砂の交換は10ポイント。人喰草の種で言えば10個、兎の心臓ならば2個で交換できる。
入手難易度はわからないけれど、意外と簡単に手に入るかもしれない。ただ星砂は10個欲しいので、100ポイントを目標にして、異界迷宮を攻略しよう。
「手に入れたアイテムはここに持ち帰ればいいんですか?」
「僕にくれればポイントになるよ。交換したい時はメニューを使ってね」
「わかりました」
新たなシステムの解放だ。レベルも上げられそうだし、しばらくは異界迷宮に篭もることにしよう。