15.迷宮のボス
邪妖精を一撃で倒すには、消費魔法力5のムーンブラストで大丈夫だった。もし消費魔法力3ならば、ラビィのアクアショットと同時に使えば倒せるということもわかった。
ちなみにムーンブラストの場合、最大消費魔法力は10まであげられる。上位の魔法になるとわからないけれど、大体魔法ランク×10くらいと考えられる。
倒し方ががわかってしまえば、特に危険な迷宮でもない。なにしろ常に邪妖精は1体しかいない。だから囲まれることもないし、先制で倒していけるのだ。
そうやって順調に進んでいると、三階の部屋の中で宝箱を発見した。
「おお、初宝箱だ」
「キレイだナァ」
わかりやすくするためか、宝箱は金でできていた。細工が施され、宝石なども散りばめられている。でももちろん、箱ごと持って帰れたりもしないし、宝石が取り外せるわけでもない。
「おっ」
僕はなにかないかと、普段から『識別』を使っていた。特に何も期待していなかったけれど、この箱で初めて『識別』が反応した。
「罠はない……。すごい。識別で罠のある無しがわかるんだ」
斥候と言う職業があるが、これがいわゆる迷宮とかでの専門職だ。宝箱などの罠を見つけ、それを華麗に解除する。でも見つけるだけなら、識別で代用できるらしい。
「罠があるとか言われたら考えるけど、ないなら開けちゃおう」
僕は宝箱を開けた。
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無魔法:ムーンボムの魔導書×1 を手に入れました
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開けた途端に、宝箱はすぅっと消えていく。
でもそんなことよりも魔導書だ。僕の背筋に電撃が走る。このゲームでは魔法のスキルレベルをあげても、自動で覚えるのは2レベルまでだ。それ以降の魔法は、こういう魔導書などを使わないと、覚えることすらできない。
そしてこれらの魔導書は、ベータではドロップ確認はされていない。俗にいう魔導書クエストというやつで、手に入れるしかなかったのだ。
(クエストで手に入る魔法はランダムだから、なんどもやるしかなかった。でも誰でもクエストはできるから、暇な人がやってオークションで販売しているのを買うというのが定番なんだ)
でも迷宮で手に入るなら、ばか高い値段で買う人は減るかもしれない。魔導書クエストは次の街へ行かないとないから、予想よりも早く魔法が手に入った。
「しかも無魔法。なんだかツいてるぞ」
僕は魔導書を使用する。すると『R3.ムーンボム』を習得できた。
「おめでとナァ!」
「ラビィ、ありがとう」
ムーンボムは範囲魔法だ。基本の消費魔法力は10と大きいけれど、それは魔力制御で調整できる。今のところ単体で邪妖精がでるだけだから、使い所はなさそうだ。でもあるとないでは、気持ち的に安心感も変わってくる。
「絶好調だね。さぁ、どんどん行くよ」
「わかったナァ」
僕らは部屋をでて、さらに奥へと進んでいく。
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特にトラブルもなく、僕らは五階へ到達していた。この五階がどうやらボスフロアらしく、豪華な扉があるだけだった。マップ機能で見る限り、この扉の向こうは広い部屋になっているので、ボス部屋と言う予想は外れていないだろう。
「ラビィ。準備はいい?」
「いつでもいいナァ」
「よし、いくよ」
僕が豪華な扉に触れると、いきなり部屋の中へとワープした。
五メートルくらい先には、体長60センチ位の邪妖精がいる。名前が邪妖精長になっているから、体も大きいし間違いなくボスだろう。
魔法を使おうとしたけれど体が動かないので、ボス戦闘前イベントらしい。
でも何か会話するでもなく、お互い睨み合うだけだった。
「ウキャニャニャニャー!」
それが戦闘の合図だった。動けるようになった僕はボスから間合いを取り、全力のムーンブラストを準備する。
「突進! アクアショットナァ!」
ラビィのいつものコンボが炸裂する。ボスの胴体から多角形の板が飛んだが、当然それだけでは倒せない。
「ウキャニャ!」
すぅっとボスが空へと逃げる。やけに天井が高いと思ったら、このためだったらしい。
「ウキャニャキャニャニャニャニャー!」
「ラビィ、避けて!」
僕はムーンシールドを張ってガードする。ラビィはそのままボスの背中の方へと走り込んだ。どうやらボスが使った魔法は、範囲系の風魔法らしい。いくつもの風の刃が飛んできたが、ムーンシールドがダメージを抑えてくれる。
「くっ」
とは言え抑えきれなかった風の刃が、僕の左腕を切り裂いた。どうやらボスの前方を攻撃する魔法のようで、後ろに回ったラビィには飛んでいないようだ。
「マスター。ヒールナァ!」
左腕が癒やされていく。具体的にちぎれるとか、切れて血が吹き出すとかはなかったけど、ダメージを受けると動かせなくなってしまう。でもラビィのヒールで、僕はすぐに全回復した。
ボスは魔法を放った後、無防備に降りてくる。ラビィは僕をヒールしたので、この隙を攻撃できない。だから僕が攻撃する。
「ムーンブラスト!」
「ウキャニャ!」
ムーンブラストと風の魔法が途中でぶつかり合う。でも僕のほうが負けた。ダメージにはならないが、ブワッと風が僕を凪いだ。
「突進! アクアショットナァ!」
ボスが魔法を放った直後に、ラビィが連続攻撃を仕掛ける。ボスはぐらつきながらも、再び空へと飛んでいった。
(見切った。これがパターンだ。それがわかれば、もはや倒すのは難しくない)
予想した通り、それがボスのパターンだった。ラビィと二人で後ろに回ったら振り向くかなと怖かったけど、そのまま魔法を発射していた。隙だらけで降りてくるボスを攻撃し、空へ飛んだら背後へ回る。
それらを繰り返していると、無傷でボスを倒すことができた。
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妖精の粉×21
妖精の帽子×1
幻エッセンス×4
妖エッセンス×7 を手に入れました
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初めて倒したので、ドロップが腐っているかはわからない。でもすごそうな装備をドロップしてくれた。
「よっし討伐完了! しかも装備をドロップしたぞ!」
「おめでとナァ!」
僕はラビィと手を繋いで、いっしょにくるくると回転する。二人フォークダンス状態で、僕の心は興奮していく。ひとしきり踊って落ち着いたので、ドロップアイテムを確認した。
「妖精の帽子……セットアイテムだ。妖精の手袋、妖精のブラウス。妖精のスカート。これら四つでセットらしい」
「そうなのナァ」
『妖精の帽子』の具体的な性能は防御力が3で、魔力+2の効果がついていた。残念ながら女性限定アイテムなので、僕には装備できない。でもラビィが装備できそうだから、これが無駄になることはない。
「ラビィ。装備できる?」
「いいのかナァ」
そう言いながらラビィが妖精の帽子を受け取ると、フッと光って頭の上にのった。長い耳の間に、ちょこんと帽子が乗っている。
「似合うかナァ?」
妖精の帽子は、玉ねぎの形をしていて基本はブルーだ。そこに白い雲が浮かんでいるという感じで、なんだか平和感がものすごい。でもラビィが装備したら、どんなものでも似合って見える。
「うん。可愛いよ」
「ありがとナァ」
そう言うとラビィは頬を赤く染めて俯いた。そして予想通りに突進してくる。
「最高だよ。ラビィ」
僕はそれを受け止めながら、頭の横を撫でるのだ。




