149.ラッキーな日
店内に響くさっき以上のファンファーレ。空中に浮かぶ卵を見て、鼓動が一気に速くなる。
「おーめでとーごーざいまーす! 特賞、ロングキャットの卵です!」
フッと消える卵。僕はインベントリから、ロングキャットの卵を取り出した。なんど見ても間違いはない。
黒と白の斑の卵は、牛みたいに見えなくもないけれど、これこそがロングキャットの卵なのだ。
「やった。特賞大当たり!」
我慢していたはずのダンスまで、一人なのに踊ってしまう。まさかの特賞当選に、すぐに呼吸が乱れてきた。
しばらくして落ち着いてくると、僕は卵をインベントリへとしまう。落としても割れたりはしないと思うけれど、貴重なだけに不安になってしまった。
「また来ます」
「おう。またよろしくな」
僕は上位のエッセンスをそれぞれ一つづつ買った後、契約を試したくてすぐに店を出た。
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始まりの街のポータルからクランハウスへと飛ぶと、僕はすぐに仮想契約卵部屋へ向かった。
幸い誰もいなかったので、僕はまず色猫の卵をセットする。
すると目の前に黒猫が浮かぶ。魔物の卵屋で見たとおりの姿だ。
色々エッセンスを試そうとしてすぐに気がついた。この卵には、なぜか属性のエッセンスしか投入できない。
火水風土と、烈火、流水、暴風、堅土の8種類しか使えないのだ。
「どうする?」
自問自答してみたが、どうするもこうするもない。それしか入らないのなら、それで実験するしかないだろう。
まずは火のエッセンスを投入する。火のエッセンスの数を増やしていくと、黒猫が赤色へと変わっていった。
100まで投入してみても、赤黒い感じにしかならなかった。赤くなるとは言え、完全に真っ赤にはならないらしい。
もしかすると烈火なら真っ赤になるかもしれないけれど、100も買うお金はなかった。
とにかく今は、できることで試していこう。
そうやって組み合わせを試してわかったことは、火なら赤色、水なら青色、風なら緑色、土ならハイライトって言うルールだ。
例えば火と土を組み合わせたら、赤っぽい猫がシャイニーな感じで光る。土の量を増やしたら、輝きも増えるから、そこは好みになるだろう。
色が調整できるので、好みの猫に仕上げられる。ただ問題なのは能力だ。色を気に入ったとしても、そのエッセンスでどういう能力になるのか。そこまでは知ることができない。
それに属性エッセンスしか投入できないなら、上位のエッセンスをもっと試したい。一つだけでは色が濃いかなって言うくらいで、明確にわからないのだ。
「仕方がないから後回しだ」
断腸の思いで色猫の卵を外す。とはいえこれは必要なことだから、すぐに気分を切り替える。
そしてロングキャットの卵をセットした。
この卵はどんなエッセンスでも大丈夫のようだ。いつものように順番に、エッセンスを試していこう。
まずは相性の良さそうな獣エッセンスを投入する。二本足で立つ可愛らしいロングキャットの顔がちょっと怖くなり、痛そうな爪が生えてきた。
ペット感がなくなって、肩に乗せたら痛そうに変化した。
ただ勝手にサイズは小さいと思っているけれど、ここの映像では実際のサイズはわからない。強そうに見えたヘビのタンクも、実際は予想以上に小さかった。
ただおそらくだけど、レッサーパンダがベースになっているなら、間違いなく小さいはずだ。
獣エッセンスを0にすると、次は鬼エッセンスを100にした。
黒目が赤く変わり、おでこから一本角が生えてきた。生えていた毛が薄れて、引き締まった筋肉っぽいのがあるのが見える。
強そうな気もするけれど、可愛らしさは消えている。
魔物と契約する時は、今までは目的を持って契約してきた。今回はくじ引きで当たったので、明確な目的が存在しない。
特賞のホワイトウルフもロングキャットも、どちらも可愛い系な気がする。もしかすると戦闘は得意じゃなく、ペット系かもしれない。
そうやって考えていると、やっぱり能力値が見たくなる。クランポイントもあるし、この施設をランクアップさせたい。
それで能力値が見えるかわからないけれど、上げてみないことにははじまらない。
ランクアップには500必要だけれど、今は800以上ある。
とは言え、勝手にポイントも使いたくないので、クランメンバーに確認しよう。ログインしていない人もいるので、全員にメールを送信しておいた。
ここにいても全員の返事は揃わないし、上位のエッセンスのお金も欲しい。
僕はクランイベントボックスを販売するため、クランハウスのポータルへと移動した。
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チェルナーレのポータルに移動すると、大通りを歩いてオークションハウスへと向かう。
どこでも売買できれば楽だけれど、その施設へ行かなければ利用できない仕様は、運営のこだわりのようだ。
プレイヤーとすれ違ったりするけれど、話しかけてくる人はいない。僕の見た目は特徴があるかもしれないけれど、召喚してなければ大丈夫のようだ。
やがて西洋風の大きな建物が見えてきた。無駄に大きな気がするけれど、あれこそがオークションハウスだ。
開きっぱなしの玄関から中に入ると、奥にカウンターがあった。大昔の外国にある銀行のような雰囲気で、ちょっと気おくれてしまう。
「クランイベントボックス買い取ります!」
静かな雰囲気で緊張していたのに、一気に雰囲気が変わった。こんな場所で大声を出すなんてマナー違反と思わなくもないけれど、俺ルールを押しつける気はない。
ただ直接取引をするのなら、多少は買い叩かれそうだ。オークションを使用して販売すると、売れた時に販売額の5%が引かれることになる。
どちらが得とかはわからないけれど、そこまで気にしなくてもいいだろう。
「コモン1000、アンコモン3000、レアは30000ウェド計算です。オークションよりお得ですよ」
その言葉に、僕は顔を向けた。その値段ならば、オークションを利用するよりも確かに得だ。すぐに在庫はなくなるし、いいことしかないだろう。
「あっ、バトルラビット……」
声を出している男の隣に、バトルラビットが座っていた。人型にもなっていない、普通のバトルラビットだ。
なんとなく親近感が沸いて、僕はこの人に売ることを決めた。少し離れた所に立っている男の方へ、僕は手を上げながら歩いて行く。
「こんにちは。ボックスを売りたいです」
「ありがとうございます。数はどれくらいありますか?」
手に入れた箱は全部で310個だ。そのうちコモンの60個でレアを2個手に入れたから、252個箱がある。
そのうち3つがレアで、残りは……。
「まだまだ買い取るから、よかったらまた来てね」
「ありがとう。機会があったらよろしくね」
全部で30万ウェドを越えていた。一気にお金持ちになる。
目的は達成したけれど、お金も手に入ったし、せっかくだからオークションを見ていこう。