148.金級のくじ引き
せっかくなので、僕も品物をチェックしよう。
「おっと、金級の条件である2体以上の進化と30レベルを満たしているな。ランクアップしたぜ」
店主の雰囲気が変わった。そう言えば、初めてここに来た時は、こんな話し方だった気がする。
「ありがとう」
ランクアップしたからには、金級のくじもあるはずだし、ラインアップも変わっているはずだ。
販売リストを確認すると上位の属性エッセンスが存在した。それぞれ烈火、流水、暴風、堅土のエッセンスという名前だ。
おそらく四属性の魔法の上位なのだろう。
ただエッセンスとして使用するからには、火や水とは違うのだろう。何かしら意味はあるはずだけど、今は検証できない。
何より価格も上がっている。上位属性のエッセンは一つ100ウェドだった。
他に追加はないようなので、金級のくじの方を確認した。特賞はロングキャット、1等は色猫、後は銀級福引チケットが金級になっているだけで、確率も値段も銀級と変わっていない。
見た目だけは確認できるので、初めて見る色猫をチェックする。高級そうな黒い猫で、何が色猫なのかよくわからない。
見た目だけではなく、契約すればなにかわかるかもしれない。
高級そうではあるけれど、同時に可愛らしさがちゃんとある。これも人気がでそうな召喚獣だ。
そしてロングキャットを確認すると、それはちょっと想像とは違っていた。レッサーパンダにそっくりで、二本足で立って右手を上げているポーズをとっている。
「可愛いけども」
1等が色猫だから、猫系のくじ引きにまとめたのだろうか。レッサーパンダそっくりなのだから、レッサーパンダでいい気がする。
銀級は狼のくじ引きだし、そんな事情があるのかもしれない。
普段の僕ならば、これで店を出ていただろう。
だけど前にラズベリーが肩にホワイトウルフを乗せているのを見て、羨ましく思っていた。もともと狼を連れて冒険とか、肩に可愛らしいペットを乗せて冒険とか、僕が憧れるシチュエーションなのだ。
その全てを実現しているラズベリーは、かなりの強運といえるだろう。そしてその姿を見てしまった僕は、ロングキャットや色猫が欲しくてたまらなくなっている。
ただお金は20万ウェドを越える程度しか持っていない。200回は引けるけれど、それで当選するかは怪しいものだ。
さっきの連中も50万ウェド使って出ないとか言っているし、難しいのはわかっている。
でも欲しいものを手に入れる事ができるのは、それに挑戦した者だけなのだ。
僕は金級のくじを実行した。
1000ウェドが所持金から消えると、目の前にきらびやかな球がいくつも浮かび上がる。それらが一つになった後、空中に金色のチケットが浮かんだ。
「すごいって……金級福引チケットじゃないか!」
見た目が格好良かったので、凄いものが当たった気がした。でもよく考えたらすぐに分かる。10枚で1回無料になるだけの、ハズレ枠のチケットだ。
100ウェド返ってきたと考えてもいいけれど、そんなのは慰めにしかならない。今のは運試しのつもりで1回引いたけれど、10回まとめて引けるくじにしよう。
「頼むよ!」
所持金から1万ウェドが消えていく。さっきよりもきらびやかに思える球が舞い踊ると、空中に10のアイテムが浮かんだ。
2等が1つ、3等が5つ、残りは金級福引チケットだ。
2等に気を良くした僕は、さらに連続でくじを引く。
一瞬で僕の所持金を飲み込んでいくくじ引きから、次々アイテムが飛び出してきた。
「出ても2等か。これで5万ウェドもなくなった。イベントのボックスも売ってしまおうかな」
チケットが貯まったので、無料で2回分引ける。それぞれ3等だったので、2ポイント増えた。
5万ウェドも使ったのに、手元に残るものはない。せめて1等に当選すれば、使ったお金は気にならなくなるだろう。
50万ウェドで何も出なかったら、確かに苛つくかもしれない。あいつらの気持ちもわからなくもないけれど、その行為はやっぱり許せなかった。
「あんなの考えててもしょうがない。さらに5万ウェドだ!」
気合を入れて引きまくる。
連続で浮かんでいく球の中に、一際輝く球がある。
「もしかして?」
4万ウェドを使った時に、空中に卵が浮かんだ。
「やった! 色猫の卵だ!」
「おーめでとーごーざいまーす! 1等当選でーす!」
店内にファンファーレが響き渡る。一人でよかった。他にお客さんがいたら、目立ちすぎて逃げたくなりそうだ。
喜びの舞をしたかったけれど、街中なので召喚していない。一人で踊るのはあれなので、踊りは契約した時にとっておこう。
インベントリから色猫の卵を取り出すと、黒くざらついた感じだった。おそらく魔物契約卵部屋で確認できるはずなので、再びインベントリへとしまう。
使ったお金は9万ウェドだ。途中で卵がでたので、4万ウェドしか投入していない。残りの11万ウェドで、勢いに乗ってロングキャットを狙うべきだ。
でもそう思った瞬間、調子にのるなと何かが僕を戒める。
今までは迷宮で調子が良かったとき、もっともっとと戦っても、特にいいことはなかった。いいものがドロップしたり、手に入ったからと言って、さらにうまくいくなんて保証はない。
なによりそこに因果関係などない。
「関係ないからこそ、出る時にはでるのさ」
僕は更に1万ウェドを使い、10回金級のくじの引く。3等と4等しか出ないけれど、特に落胆することもない。
気にすることなく、僕はくじを引き続ける。
浮かぶ2等のアイテム。ほとんどが3等、4等の中で、それがきらめいて見えた。
「いける。レアハンターに不可能はないのさ」
僕はどんどん引いていく。所持金が減るなんて気にもしない。3等、4等が空中に浮かぶけれど、そのうち特賞がでるはずさ。
「あれ」
なぜかくじが引けなかった。何度くじをを引こうとしても、全然作動してくれない。
「うそだろ……」
僕の所持金が、7530ウェドになっていた。次こそ出るとくじを引いている内に、100回以上も引いていたのだ。
僕は思わず膝をつく。慰めてくれるラビィも召喚していない。
インベントリから黒い卵を取り出すと、これが手に入っただけでもいいじゃないかという気分になる。
お金を使う予定はないけれど、これ以上減るのも気分が悪い。無料チケットが50枚以上あるし、残りの5回分を引いてしまおう。
僕は立ち上がると、金級のくじ引きを無料で5回行った。
「えっ」
そして5回目のくじで、虹色の輝く球が舞い踊る。