147.NPCとのトラブル
始まりの街へ行く間に、これまでどんなプレイをしていたのか聞いてみた。
戦っていればそのうち契約できるだろうと、レベルが上がりにくくなったら次のゾーン、また次のゾーンへと進んでいくプレイだったようだ。
召喚師は魔法使い系だからと棒がメイン装備で、土魔法と合わせての戦闘が得意らしい。
そんな話をしながら、魔物の卵屋へ向かっていると、近くの通りで人垣ができているのに気がついた。
「人が集まっているようだな」
「魔物の卵屋の近くですね。ちょっと様子を見てきます」
ごめんなさいと言いながら人をかき分けると、通りに魔物の卵屋の主人と、見たことのあるプレイヤーが2人立っていた。
一人はキックスと契約している召喚師で、もう一人は性格の悪い剣士だ。前にも会ったけれど、やっぱり名前は思い出せない。
「なにしてるんだろう」
「魔物の卵屋でくじ引きをしたが、特賞が入っていなかったらしいぞ。だから懲らしめるんだとよ」
近くで見ていた他のプレイヤーが、僕の独り言に答えてくれた。
くじ引きができるということは、あの召喚師は銀級以上なのだろう。でもいくら使ったのか知らないけれど、くじ引きの中に特賞が入っていないとか、どうやって判断したのか不思議になる。
「野次馬共よ聞け! こいつはくじ引きの中に、特賞を入れていなかった」
「そうだ。俺は50万ウェドも使ったんだ。これで出ないなんて、最初から入っていないとしか思えねぇ!」
剣士のあとに、召喚師も話を補足していた。ようは50万ウェド分くじを引いたのに、特賞がでないのはおかしいって話らしい。
そもそも確率なんだから、100万使っても出ない時は出ない。それを難癖をつけて、こんな事をするなんて、やっぱり関わりたくない連中のようだ。
「私は嘘はつかない。確率は低いが、ちゃんと特賞は入っている。その証拠に、すでに当選した人たちもいるんだ」
「うるせぇ。どうせそいつらの確率も操作してたんだろ。そうじゃなきゃ、俺様に当たらないはずはねぇ!」
完全な言いがかりだった。悪役プレイなのと思うくらい、理不尽な話だ。
「もうこんなことをしないで帰ってくれ。これ以上こんなことを続けたら、始まりの街の商人を敵に回すことになるぞ」
「ほう。この俺を脅迫しようと言うわけか。盗っ人猛々しいとはこのことだ」
どのことだとか思うけれど、そこを気にしている場合でもない。
店主を助けようと思ったら、誰かに肩を掴まれた。
「あっ、ガゼルか。脅かさないでよ」
「悪い。っで、どんな感じだ」
「見たとおりさ」
説明するのも大変なので、3人の方を指差した。
「よくわからんが、喧嘩だな」
それがわかれば十分だ。
「ふん。俺たちを脅迫したことを後悔するが良い」
「おっさん。くたばりやがれ」
「連撃! 連撃! 連撃ぃ!」
僕が止めに行く暇もなく、剣士と召喚師は店主に攻撃をした。召喚師の杖は店主の頭を捉え、剣士の攻撃は首に向かっている。
しっかりと命中しているのに、ダメージエフェクトがほとんど出ていない。
「痛いぞばかやろう!」
店主が召喚師へパンチ。そして剣士をキックした。胸に攻撃を受けた召喚師は、全身からダメージエフェクトを飛ばしながら姿を消した。
剣士が左腕に蹴りを受けたのに、衝撃が凄いのか、全身から多角形の板を飛ばしている。
「一撃で倒した?」
「二度と近づくな」
二人が消えた空間へ向けて、店主が声を残すと、そのまま店へと戻っていく。
どうやらNPCに攻撃はできるけれど、予想以上に強いらしい。
「ドラゴンでも倒せそうだよね」
「俺が前にやっていたゲームでは、人には強くても、魔物には弱いって言う設定だったな」
そういう設定もあるだろう。このゲームの設定がどうであれ、友好度はあるから、あいつらはこの街では買い物できないかもしれない。
でも僕が心配するところではない。
「なんか怖かったけど、今の人が魔物の卵屋の店主だよ」
「強くていいじゃないか。早速行こう」
ガゼルはスタスタと歩いていく。その勢いのせいか、思わず僕もついていった。
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店の中に変わりはなく。店主もさっき騒動があったなどとは、感じさせない普通さだった。
「いらっしゃい」
「ガゼルに卵を売って欲しいんだ」
店内を見回しているガゼルに変わって、僕が店主に話しかけた。
「初めてだね。ランクは黒鉄だから、ヘビとトカゲの卵が買えるよ」
「全部売ってくれ」
ガゼルは豪快に2つとも買うらしい。鉱石迷宮まで行けるレベルなのだから、お金もあるだろうし、本人のレベルも高そうだ。
「っと、くじ引きはできるか?」
「それは銀級からになるな。まずは魔物を進化させ、銅級を目指すと良いよ。おっと、進化に成功すれば銀級になれるな」
銅から銀は、レベルを上げればなれるから、ガゼルはレベルの条件は満たしているということだ。
とはいえ、難しいのは進化のほうだ。卵をドロップしない限り、これを満たすことはできない。
「そうだ。契約する前に……」
エッセンスの話をしようと思ったら、目の前にヘビとトカゲが現れた。どうやらエッセンスを使わずに、そのまま契約したらしい。
「やっと初召喚だ。ラル。ありがとよ!」
「どういたしまして」
契約時にエッセンスをどうするかは、ちゃんと知らされるようになっている。その上で使用していないのは、ガゼルの意思なのだから、そこになにか言う必要もない。
「ラル。フレンド登録してくれ」
「いいよ」
特に断る理由もないので、そのままフレンド登録する。
「それじゃ、召喚師っぽく狩りをしてくるぜ。またな」
「またね」
ガゼルは意気揚々と店を出ていった。