146.おじさん召喚師
念のためと言うことで、ラビィ、ルード、エリーを召喚した。駆け抜ける感じで戦闘するので、ダメージはほとんど受けないはずだけれど、事故には注意しておきたい。
「ガァァァモォォォ!」
ルードが雄叫びをあげ、岩石人形が起き上がってくる。
ハイズは小走りで、まだ距離があるにも関わらず、槍をすっと突き出した。
「アクアバレット!」
薄青い槍の先端から、水の弾が飛び出した。魔法ならば水の軌跡を残して飛んでいくが、あまりに早いせいか、槍の先端と岩石人形の命中箇所が、水のチューブで結ばれたように見える。
迸る水とダメージエフェクト。綺麗だなと思っている内に、岩石人形は姿を消した。
しばらく会わない内に、ハイズもレベルが上っているようだ。
「どうよ。これが異界迷宮で手に入れた、水の槍の力よ」
異界迷宮という言葉に体が震える。以前にマーミンから聞いたのは、ロッカテルナ湖のクエストを進めれば、そのうち分かるというものだった。
「異界迷宮に行ったんだね。ハイズってレベルいくつなの?」
「女性にレベルを聞くなんて……まあいいわ。レベル37よ」
新規プレイヤーで、前までは初心者って感じだったのに、僕よりも高くなっていた。ロッカテルナ湖レベルも越えているし、異界迷宮にも行けるレベルなのだろう。
「僕より高いね。ムーンスピア」
「バーガーオンラインで頑張ったからね。シュシュッ」
経験値上昇を使用して戦えば、レベルは驚くほど上がっていく。僕も食べようと思ったこともあるけれど、レアドロップのために周回したりするから、早くレベルが上っても周回はやめたりしない。
レベルが上っても周回を止めないなら、バーガーを食べても意味がない気がするのだ。
「ムーンボール。バーガーは凄いね」
「装備も良くなったし、絶好調よ」
バーガーと装備は直接関係ないけれど、筋力などの条件をクリアするのには有効だろう。黒騎士の槍でなくても、水の槍を手に入れて、満足している感じだ。
剣の時はシャシャだったのに、槍になってシュシュッになっているのも面白い。
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イベントポイントボックスR×1 を手に入れました
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「おっ、レアボックスだ!」
「3万ウェドおめでとー」
ハイズの話によると、売れにくいけど3万になるらしい。でも僕は、今のところ売る気はない。
「どんどん行くわよ」
レアがドロップしたことで、僕のミニ浴衣の話はどうでもよくなったらしく、ハイズのペースが上がっていく。
近くにいる岩石人形を倒し切ると、結構な速さで洞窟を進んでいく。
「いちおうルードを先頭でよろしく」
「早い者勝ちよ!」
パーティを組んでいるのだから、誰が倒してもドロップ判定は発生する。早くても遅くても関係ないけれど、気分の問題ってやつかもしれない。
もしくは最後にダメージを与えたプレイヤーに、良いボックスがドロップするとか、都市伝説があるのだろう。
ジンクスは気になるけれど、今回に限っては全然気にならなかった。
「了解。早い者勝ちだね! ムーンスピア」
ハイズが飛び込んで攻撃しようとしたターゲットへ、先に魔法を撃ち込んだ。
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競い合っていたせいか、あっという間に10周が終わった。ずっと走り続けていたせいか、久しぶりにはぁはぁと呼吸が乱れていた。
「やりきった。楽しかったね」
「なかなかやるじゃない」
僕らは洞窟の前に座り込み、お互いを称えあっていた。
「今回は絶好調だったわ。ただレアが2つもドロップしたのはいいけれど、売れにくいのよね」
3万ウェドでコモンボックスを30個買えば、確実に30ポイントが手に入る。レアボックスは10~50なので、確実に得をするかはわからない。
考え方次第だけれど、イベント1位を目指す人は、どれでも買いそうな気がした。
「僕のコモン30個と交換しようか?」
「えっ、なんで? 価値は一緒だけど、売れるのに時間がかかるのよ」
今のところ売る気はないし、コモンボックス30個と交換なら、それほど悪くも感じない。
高いポイントが出ればラッキーだし、トップを目指しているわけでもないから、低くてもあちゃって思うくらいでダメージはない。
「僕はクランに入っているから、箱は売らずにしばらく保持している予定なんだ」
「ラルってクランに入ってたんだ。全然そういうイメージがなかったわ」
普段からレアハントとか言っているし、召喚師でもあるから、仲間とプレイを想像しにくいのかもしれない。
「そろそろクランも考えていたんだけど、ラルのクランってどんな感じなの?」
僕はレアハンターズのことを、ハイズに全部説明する。
「へー。まさかのクランリーダーなのね。しかもすごい自由なんだ」
「クランには入りたいけど、縛られたくないって人にはいい感じさ。勧誘がうざいって言う人も歓迎するよ」
ただうちのクランの弱点といえば、目標がないことかもしれない。施設を充実させようとかはあるけれど、そのためのノルマなどはないので、いつ達成するかのスケジュールなどはないのだ。
「たまに誘われたりもするのだけど、まだこれってクランがないのよね。今すぐじゃなくても、私が入れてって言ったら、入れてくれる?」
「来るもの拒まず、去るもの追わずさ。他人に変な迷惑をかけないなら、誰でもウェルカムだよ」
「ありがとう。その時はよろしくね」
そんな感じで話がまとまると、ハイズのレアボックス2個と、コモンボックス60個を交換した。
「さっそくオークションで売ってくるわ」
「ああ。またね」
「またよろしくね」
ハイズはパーティを抜けると、ポータルで消えていった。それを見送った僕は、呼吸をしっかりと整えた後で、ゆっくりと立ち上がる。
クランハウスに戻ろうかとしたところで、目の前に男が現れた。
「ちくしょう! なんで仲間にならないんだ!」
男はがっくりと膝をつき、両手を地面に叩きつけて悔しがっていた。言葉から察するに、召喚師な気がする。
たまたま迷宮の出口にいたせいで、すぐ側に男が出現した。これも何かの縁な気がするし、僕は男に声をかけてみる。
「こんにちは。召喚師のかたですか?」
「ん? ああ。そうなんだ。もしかして君もか?」
男はボサボサの長髪なのに、髭は生やさずにツルンとした感じの顔をしていた。薄汚れたローブを着ているところから、仙人っぽいロールプレイかと思ったのに、この丸っこいきれいな顔はいただけない。
でも自分の趣味を押しつける気はないし、仙人プレイとも限らない。僕は話を進めていく。
「はい。仲間にならないと言うと、卵が手に入らないってことですか?」
「卵? 魔物を倒したり弱らせたりしたら、仲間になりたそうにしてくれるんじゃないのか?」
さっきから全て質問されているが、そのおかげで男がどういうタイプかわかってきた。
僕は攻略サイトなどでじっくりとは調べずに、初見で楽しむタイプだけれど、この人は攻略サイトどころか、説明書すら読まないタイプなのだ。
だから召喚師が卵をドロップさせて、それと契約することすら知らない。
家電とかならわからなくもないけれど、ゲームでそれをやると、普通に得るべき情報まで、見落とすことになってしまう。
「召喚師は魔物を倒して卵をドロップさせます。そしてその卵と契約を結ぶことで、召喚が可能になるんです」
「そうなのか。だが卵なんて一度もドロップしていない。召喚師とか言いながら、全然召喚できないじゃないか」
なんだか懐かしく思える文句だ。そういう意見が運営に寄せられて、魔物の卵屋が実装された。
「始まりの街で卵が買えます。よかったら案内しましょうか?」
「ありがたい! ぜひ一緒に行ってくれ。そうだ。俺はガゼル。よろしくな」
「僕はラルです。よろしくおねがいします」
僕らは握手を交わすと、ポータルで始まりの街へ向かった。