145.お金儲けの誘い
いろいろ考えて、森でロードラクルでも狩ろうと決めた。
ハイズ・ロフト:こんにちは。ひさしぶり
そう考えた途端、ハイズからメッセージが届く。
ラル:こんにちは。元気だった?
ハイズ・ロフト:もちろん。今しかできなさそうなお金稼ぎに行かない?
思いがけないお誘いだった。お金稼ぎはクエストくらいしか思いつかないけど、今しかできない感じなら、ここは話に乗ってみたい。
ラル:いいよ。でもなにをするの?
ハイズ・ロフト:鉱山迷宮に行こうよ
運が悪いのか、鉱山迷宮はさっき行ったばかりだ。
ラル:ごめん。鉱山迷宮のハードは、さっき攻略してきたよ
ハイズ・ロフト:ハードじゃないわ。ノーマルに行くのよ
ノーマルにどういう旨味があるのだろう。今回は関係ないけれど、経験値はうまくないし、鉱石もハードのほうが良いだろう。
そこしか行けませんって言うなら、それはそれで理解できるけれど、ノーマルが良いっていうのは、ちょっと理解できなかった。
ラル:どういうこと?
ハイズ・ロフト:一緒に行ってくれるなら教えてあげる
それもそうだ。お金稼ぎの方法だけ聞いてバイバイは、さすがに僕だって気が引ける。
ラル:行くよ。ノーマルで何するの?
ハイズ・ロフト:ノーマルで倒せる岩石人形は30体でしょ
確かそれであっている。でも倒すだけなら、他でも良さそうだ。
ハイズ・ロフト:つまり10周で300体よ。短時間で簡単にそれだけ狩れるの
お金稼ぎと結びついてこない。早く説明して欲しいと、なんだかもんもんとしてしまう。
ハイズ・ロフト:イベントボックスが、いくらで売れるか知ってる?
ハイズが言っているのは、イベントポイントボックスのことだろう。ポイントが増えるからすぐに使用していたけれど、あの箱は販売可能らしい。
クランに所属していないひとは、そうやって楽しめるようなイベントになっているようだ。クランからかなりお金が動きそうだけれど、強制ではないので、全員が楽しめるイベントとしては、悪くない気がした。
ラル:売れるのも知らなかったよ
ハイズ・ロフト:コモンで1000ウェドよ。アンコモンで3000ウェド
やっとわかってきた。300体倒して全部コモンだとしても、売り切れば30万ウェドになる。
ラル:すごいね
ハイズ・ロフト:ウルトラレアの販売は見たことないけど、レア一つで3万なのよ
そこで少しだけ引っかかる。レアの箱で手に入るのは10~50ポイントだ。30以上のポイントが入らなかったら、完全に損をする。
でも期待値以上が出れば得をするのだから、ギャンブル要素を含めて考えるのだろう。
ラル:売れたら美味しいね
ハイズ・ロフト:レアは売れにくいけど、売れていることは間違いないわ
1ポイント1000ウェド。レアで得を狙うよりも、損することもある以上、それが堅実なのかもしれない。
ハイズ・ロフト:急いで来てね。ポータルで待ってるわ
ラル:了解
売るか使うか迷うところだけど、とりあえず集めておいて悪いことはない。
僕はクランハウスのポータルから、鉱山迷宮へと向かった。
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ポータルからでると、目の前にハイズがいた。
全身を覆うような革鎧に変わっている。前のような初期装備ではなく、確実に防御力が高そうだ。
「来てくれてありがとう。長くなっちゃったけど、これを返すわね」
ハイズが持っているのは、以前に貸したままだった剣だ。たくさんあるサブ武器のひとつだったので、すっかり忘れていた。
「前に貸した剣だね」
僕はそれを受け取ると、耐久度が回復していることに気がついた。
「本当にありがとう。ちゃんと修理しておいたから」
サブ武器はメインよりも攻撃力は低いけれど、修理できる素材で作成している。ハイズは律儀にも、修理してくれたらしい。
もしかしたらずっと使っていたから、耐久度が減りまくりだったのかもしれない。でもここは良いように受け止めておこう。
「今は何を使ってるの?」
サブではあるけれど、僕の剣は弱くはない。だからそれに変わる武器として、何を使っているのか気になった。
「これよ」
ハイズはインベントリから、薄く青く光る槍を取り出した。
「かっこいい槍だね」
どうやら剣から槍に変えたらしい。輝きからみるに、魔法の武器なのだろう。これは間違いなく黒騎士の槍ではないし、僕は初めて見る槍だ。
「いい感じでしょ? お気に入りなの」
ハイズは槍をなでると、すぐにインベントリにしまった。
「でも使っている人を見たことないから、迷宮以外では装備しないわ」
珍しい装備はいい意味でも悪い意味でも目立つ。そういうのがハイズは嫌いらしい。僕のイメージでは、見せびらかして自慢する感じだけど、実際は違うようだ。
どこで手に入るのか知りたいところだけど、そのうち自分で見つけてみせる。
今は黒騎士の槍・改があるし、急ぐわけでもない。だからのんびりでいいのだ。
「さて。そろそろ迷宮に行こうか」
「私としてはラルの格好が気になるけれど、その話は戦いながら聞こうかな」
ミニ浴衣が気になるらしい。でもいつまでも、ここで話していても仕方がない。
「いいよ。多分余裕だと思うし、タイムアタックのつもりで戦おう」
僕はハイズとパーティを組むと、鉱山迷宮ノーマルに侵入した。