140.マーミンの究極魔法
ルードがブレイクを使い、鶏頭人へと肉薄する。ダメージエフェクトの飛び散り具合から、いい感じに攻撃できているのがわかった。
「どんどん攻撃でござる」
いつものように弓を構え、赤さんは矢を放つ。鶏頭人が行動する前に、すでに二本も命中させていた。
「ムーンスピア」
僕の魔法と鶏頭人の攻撃は同時だった。鶏頭人に魔法は直撃したけれど、負けじとルードにパンチを決めている。
「しまった。ヒーラーがいないよ!」
「任せてください」
ラズベリーがそう言った。知らないうちに、癒魔法を取得したのかもしれない。
「ポッポウ」
とか思ったら、ポンちゃんがルードを回復してくれた。ラズベリーのパーティでは、ポンちゃんが回復役らしい。
そう言えば僕らはラビィがヒーラーだし、うさぎ系は癒魔法を覚えやすいのかもしれない。
「よかった。いいぞポンちゃん」
「あらゆる癒やしのポンちゃんです」
おそらく見た目でも癒やされますよという意味を込めて、ラズベリーは言っているのだろう。
ふわふわとした毛に埋もれたい人や、可愛らしいもの好きな人は、きっとポンちゃんで癒やされるはずだ。
「ファイアショット!」
高火力のマーミンの魔法が飛んで行く。このパーティのダメージディーラーは、マーミンと赤さんで間違いはない。
5つの赤い光が直撃しながらも、鶏頭人はまだまだ元気に見える。ナイトメアのボス系だから、おそらくかなり強いはずだ。
「消えた?」
「あそこよ。少し離れた所に転移したみたい」
鶏頭人が両手を上げると、いきなり黄色く光りだす。
「むむっ、全員ルード殿のところへ集まるでござる」
よくわからないけれど、赤さんの言葉に操られるように、僕らはルードのもとへ集まった。その瞬間、天井から稲妻が落ちてくる。
「ポポポゥ」
低周波マッサージ機を全身につけられたような、微妙な痛みとくすぐったさが体の中を駆け巡った。それと同時に、全てが気持ちよく癒やされていく。
「ポンちゃんのヒールサークルだ。だから集まれって言ったんだね」
稲妻は部屋中に広がっていた。赤さんのアドバイスがなければ、バラバラにヒールで大変だったはずだ。
「次はルード殿のブレイクに期待でござる」
最初にブレイクで近づいたから、リキャストタイムのせいで、使用することができなかった。でもこういう攻撃がくるとわかれば、次はルードが止めてくれるはずだ。
「ムーンボール」
「ウィンドショット」
トルネードをのぞいて、おそらくはラズベリーの最強の風魔法だ。僕の魔法とともに、いい感じで多角形の板を飛ばした。
「さすがナイトメアって感じかしら。でも私の奥義で倒せない魔物はいない」
「マーミンの奥義?」
フッと笑いながら、マーミンは右手を突き上げた。
「30秒よ。30秒だけ、私を守って」
「いきなりかよ! ルード。範囲攻撃に気をつけてくれ」
何をするのかわからないけれど、マーミンは胸の前で両手を組んだ。まるで何かの儀式のように、様々な形で組んでいく。
「魔法使いがレベル30で取得できる、オリジナル魔法みたいです」
「そんなのあるの?」
「規定ポイントを消費して、魔法が作成できるらしいです」
ラズベリーの説明で、マーミンの行動が理解できた。そのオリジナル魔法を発動させるために、30秒の時間が必要なのだろう。
「全ては炎より生まれ、炎によって滅んでいく。地獄に燃え盛る黒き火よ。天空にありし白き火よ。合わさりて炎となれ!」
マーミンが詠唱を続けている。普通の魔法に詠唱はいらないから、特別な魔法だという雰囲気に、威力も期待してしまう。
「鶏頭人に集中するでござる」
赤さんはそう言いながら、いくつも矢を放った。僕はついついマーミンにみとれ、攻撃するのを忘れていた。
「ムーンアップ!」
さらに威力をあげるために、僕はマーミンに補助魔法をかける。
「ムーンボール」
そして魔法を飛ばし、少しづつ鶏頭人を削っていく。
「来たでござるよ」
不意に鶏頭人が姿を消した。
「あっちでござる!」
その声と同時に、ルードがブレイクを仕掛ける。ワープしたんじゃないかってくらいに高速移動したルードの槍が、鶏頭人に命中して技をキャンセルさせた。
「いいぞ。ルード!」
「闇の冥王、地の覇王。天の皇帝、光の女王。あらゆる火の力もて、全てを滅する炎を……」
長い詠唱が続いている。途中聞けてないけれど、きっと複雑な詠唱なのだろう。
「ムーンブラスト」
「ポッポウ」
ポンちゃんのヒールもいい感じだし、ルードの硬さも十分だ。マーミンを守りきって魔法が発動すれば、それで決着がつくだろう。
「トルネード!」
ラズベリーの切り札とも言えるトルネード。ルードを範囲に入れないように、うまく位置を調整していた。
「連続射ちでござる」
さり気ない感じだけれど、矢が三本も飛んでいく。しかもそれが鶏頭人に命中するたびに、激しく多角形の板を飛ばしていた。
赤さん得意の爆裂属性の矢みたいだ。
「行きます。ウィンドショット!」
さらにラズベリーが魔法を飛ばす。そこへルードがサークルアタックを重ね、しかも黒騎士の槍の力を開放する。
「うげぇ、見てるだけで痛いよ。って、あれ……」
激しくダメージエフェクトを飛ばしながら、鶏頭人が消えていった。
「今こそ……」
マーミンの詠唱の声が、小さくなって消えていく。振り返ってマーミンを見ると、なんとも言えない表情をしていた。
「えっと、あの……」
「ふっ。切り札は最後までとっておくものよ。この程度の相手に、私の究極魔法はもったいなさすぎるもの」
「そうでござる。マーミン殿の手を煩わすほどの、相手ではないでござるよ」
ラズベリーもうんうんと頷いていた。
『試練に打ち勝ちし者たちよ。受け取るがいい!』
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勇気のトパーズ×1 を手に入れました
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以前もらった烈火のルビーと同じ系統のアイテムみたいだ。装飾では使えないらしいから、なにかしら特別な意味があるのだろう。
マーミンの究極魔法事件もうやむやになるし、ナイスタイミングの鶏頭人だ。
「装飾では使えない宝石のようでござるな」
「赤さんは知ってるの?」
赤さんは右手を顎に当て、コクリと頷いて話し出す。
「他にも種類があるようでござる。ただ使用方法は不明でござるから、何も知らないのと一緒でござるな」
この宝石シリーズが、他にもあるとわかっただけでも収穫だ。どこにあるのかわからないから、積極的には無理だけれど、鶏頭人がらみで見つかりそうな気がした。
「どうやらここはこれで終わりみたいだね。面倒だけれど戻って、本来のルートへ行こう」
「オーケー」
「ポンポン送還、トツゲキング召喚」
おもむろにパーティメンバーを入れ替えると、ラズベリーはキンちゃんの中へ潜り込んだ。
「上に戻ったら召喚しなおします」
「召喚師の特権でござるな」
「いいわねぇ。私も一緒にいいかしら?」
「ごめんなさい。建前で主以外は無理って言ってます」
建前かよ! と内心で思いながら、僕は広間から宝箱の部屋へと向かった。