14.邪妖精の迷宮
僕はラビィを送還して、サクラを召喚した。『小鬼の村』というのだから、小鬼を連れて行くと、何かイベントがあるかもと予想したからだ。
僕らが森の奥深くへ入っていくと、遠くに村の入口が見えてきた。そこには入口を守るかのように、二人の小鬼が立っている。ただ小鬼という種族は確認できるが、姿はそこらの小鬼とは違っていた。他の小鬼のように腰が曲がっておらず、肌の色が白よりの灰色だった。
とりあえず入口に向かって歩いていると、まだ距離があるというのに、小鬼はこちらへ向けて声を出した。
「我が友よ! 小鬼の村へようこそ」
僕の中に興奮が沸き起こる。ベータテストでは『小鬼の村』は『小鬼の村長』ファームの対象だった。おそらくは最初に『小鬼の村』にたどり着いたベータテスターが、考えもなく突撃し、『小鬼の村長』を倒していいアイテムを手に入れたのだろう。
魔物言語のおかげもあるかもしれないけれど、僕はこうして会話ができる。ベータの情報サイトではファームが攻略の最短と言われているので、このことに気がついている人は少ないはずだ。
レアハンターとしての血が騒ぎだしてきた。
「こんにちは」
僕らは村の入口へと近づいた。どうやらこの村は少しの周囲を含めて、インスタンスになっているらしい。おそらくは他のグループが討伐して、村が全滅していることがないようにするためだろう。
「ようこそ。小鬼の村へ」
なんだか昔のRPGで、村の名前を言うだけのNPCみたいな感じだ。
「サクラ。行くよ」
「ウガガァ」
襲われることもなく中に入れそうなので、僕らはそのまま木製の門をくぐった。
村は木の柵で囲われており、いくつかの建物が見える。おそらくはそれは住居で、お店っぽい建物も存在した。村の中を歩く小鬼たちもいる。きっと『小鬼の村長』狙いのひとたちは、全滅させて稼いでいたはずだ。
でも気になるのはやっぱりあれだ。村で一番豪華に見える木製の建物。僕らはそこへと向かって歩いた。
近づいてわかったが、その建物に入り口はなかった。いや、入り口がないは語弊があるだろう。長方形の建物の壁の一部が、まるまるなかったのだ。だから内部が丸見えで、出入り自由になっている。
そこに金属系の鎧を着た他よりも大きめの小鬼が、豪華な装飾が施された椅子にどかっと座っていた。
「おお、我が友よ。よくぞ来てくれた。小鬼の村は我が友を歓迎するぞ」
「ありがとうございます」
名前は『小鬼の村長』だった。つまり彼こそがファーム対象の魔物なのだ。
(この金属製の装備をドロップするんだろうな。騎士っぽいのは見た目もいいし、人気がでるのもわかるよ)
「村で生まれた小鬼たちは、ちゃんと自分の意志を持っている。だが森で生まれた小鬼たちは、なぜか邪悪な魔物として活動する。だが小鬼であることには変わりない。我らが送ってやるのが筋だとは思うが、なかなか心苦しいものだ。だがそれを、我が友は代わりにやってくれた」
我が友と言われるのは、サクラと一緒にいるからだと思ったけれど、どうやら少し違ったらしい。『小鬼の村』にとっては、森の小鬼は討伐対象なのだけど、それをやるのは心苦しいって感じだ。
だから何体も倒した僕との友好度が上がっているみたいだ。もしかするとTシャツも効果を発揮したかもしれない。
「お礼というわけではないが、この村にある『邪妖精の迷宮』への挑戦を許そう。本来であれば小鬼が成人するための儀式に使われる迷宮ではあるが、きっと我が友にも役に立つはずだ」
「あ、ありがとうございます」
役に立つどころではない。何しろ迷宮だ。ベータで確認されている迷宮は『鉱山迷宮』だけしかない。鉱石などが入手できる迷宮だが、次の街を拠点にしても距離がある。
なのにこんなに近場に迷宮があるなんて、これはまさしく大発見だ。
「それはどこにあるのですか?」
興奮を抑えながら、僕は小鬼の村長に問いかけた。
「この椅子の後ろだよ。そこにある階段が入り口だ」
「ではさっそく行ってきます」
「気をつけていくのだ」
僕らが椅子の後ろに回ると、たしかに下りる階段が存在した。そこに近づくと、突然フッとメニューが開く。
(難易度の選択があるのか。しかも回数制限がある)
メニューにはノーマル、ハード、ナイトメアと三種類の難易度と、それぞれ10回までの制限がついている。とはいえ入場制限は、ゲーム内で時間が経過すればクリアされていくはずだ。
「まずはノーマル、と言うか最初はそれしか選択できないや」
僕がノーマルを選ぶと、階段の奥の扉が開く。そのまま初めての迷宮へと、僕らは突入していった。
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扉をくぐると、そこはまっすぐに道が続いていた。ゲームのシステムでマッピングしてくれるので、特に迷うこともないだろう。壁は石でできており、なんのひねりもない地下迷宮という感じだ。
「しかも明るいのか。どうせなら真っ暗で夜目スキル大活躍でもよかったのに」
最初の分かれ道を左へ進むと、通路の奥の方でふわふわと浮かんでいる蝶のような魔物がいた。詳しく見ると『邪妖精』という名前だ。迷宮の名前の通り、この魔物がメインらしい。
ついでに言うと、この迷宮はシークレットダンジョンとなっていた。つまり普通では見つけることができない特別な迷宮だ。レアハンターの僕としては、お宝に期待してしまう。
「とりあえずいつも通り、消費魔法力3のムーンブラストだ」
こっちの射程に入っても反応がないので、僕は先制で魔法を放った。青白く光る球は邪妖精を捉えたが、一撃では倒せない。すると邪妖精はこっちを向いて、『ウキャニャニャキャニャ』みたいな声を出し始めた。
「なんだろう。あ、サクラは僕の後ろに隠れて」
邪妖精は蝶のような半透明の羽に、体が人間という姿だった。体長は30センチほどの大きさしかない。でもその姿のおかげで、僕は邪妖精が何をしているのか予想がついた。
「ムーンシールド!」
思った通り、ムーンシールドに何かが当たる。僕の魔法で倒せなかったことから考えても、この魔物は魔力が高いのだ。となれば当然魔法を使ってくるだろう。
「ムーンブラスト!」
さすがに二発目は耐えきれないようで、多角形の板を撒き散らしながら消えていった。
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妖精の粉×1
幻エッセンス×2
妖エッセンス×3 を手に入れました
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エッセンスは初めての種類だ。妖精の粉が1っていうのは違和感があるけれど、たくさんの粉をひとまとめにして1と数えるんだろう。
それよりもサクラのレベルが上がっていない。迷宮とは言え、一体倒しただけで上がるとも思わないけれど、装備もなく魔法も使えないサクラは、ここで戦うのは早いかもしれない。
「ごめんサクラ。準備が整うまで、ラビィと交代して欲しい」
「ウガァ」
サクラは送還によって戻る。
「ラビィ召喚!」
床に魔法陣が浮き、ぱぁっと輝いた後でラビィが現れた。
「ご無沙汰ナァ! マスター、よろしくナァ!」
右足を膝から曲げて、万歳のY字ポーズで登場した。アイドルを意識しているのか狙いすぎにも思えるけれど、やっぱり可愛いから許される気がする。
「よろしく、ラビィ。まずはマップを埋めながら、邪妖精を倒していくよ」
「わかったナァ」
そうやって僕らは『邪妖精の迷宮』を進んでいった。




