139.謎の祭壇
通路は意外と長かった。
転ばないように気をつけながら、僕はマーミンを追って走る。しばらく走ると、遠くに赤さんが立っているのが見えた。
「赤さん」
こっちに気がついた赤さんが、右手をすっと上げてこたえる。
赤さんのいるよりも遠くに、砕け散った岩が見えた。
「無事だったみたいね」
「行き止まりでござったが、当たらずにすんだでござる」
僕らがたどり着くと、なにごともなかったかのように、赤さんが落ち着いていた。僕らが避けられたのだから、赤さんには余裕だったのかもしれない。
「あれを見るでござる」
僕らの呼吸が整ったのを確認すると、赤さんが通路の奥を指差した。
岩が砕けた破片の向こうに、通路の壁が壊れているのが確認できる。
「もしかして、岩で通路の壁が壊れたの?」
「むしろ罠の岩で、壁を破壊したとも言えるでござる。予想でしかないでござるが、これが先へ進む唯一の方法な気がするでござる」
罠の流れを考えるに、最初に左へ行っていれば、この罠を解除していたかもしれない。右へ行くことで罠を発動させ、岩をかわして壁を壊す。
壊れた壁の向こうに何があるのかわからないけれど、何かの空間が広がっているのがわかる。
「楽しみだね」
「全員無事だし、壁の向こうに行きましょうよ」
赤さんを先頭に、僕らは先へと進んだ。
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崩れた壁の中に入ると、広い部屋が広がっていた。そして奥の方に、祭壇っぽい何かが見える。
「何かを祀っているようでござるな」
「祭壇っぽいよね」
「ちょっとこわいです」
ラズベリーがポンちゃんを抱きしめながら、僕に近づいてくる。
なんとなくだけど陰気な感じが、雰囲気を暗くさせていた。
「近づいたら何かあるパターンかしら?」
「罠のようなものはないでござる。ボスのような魔物が出現するでござれば、拙者にはわからないでござる」
広い空間で、遠くに祭壇がある。明らかに罠っぽいのに、なぜだか罠はないらしい。
このまま様子を見ていても、何も変化はなさそうなので、隊列を組んで進むことにする。
「ルード。先頭よろしく」
ルードはコクリと頷くと、祭壇へ向けて歩いて行く。なにが起きてもいいように、僕らも警戒しながら進んだ。
「何も……起こらないわね?」
「不思議だねぇ」
何も起こらないことに拍子抜けしながらも、僕らは祭壇らしきものの前に着いた。
近づいたらわかったけれど、やっぱりここは祭壇だ。
「鶏頭人の像でござるか?」
「クランクエストで見た事があるよ。どうやら鶏頭人を祀っているみたいだね」
あのクエストの時は忘れ去られたとかで、襲われた気がするけれど、特にそういう様子もみられない。
「4体の鶏頭人の像があって、その下にプレート……謎解きかな」
僕はプレートを確認する。
『怒りを潤いを持って沈めよ。笑顔には果実を、悲しみにはパンを、無なるものには力を』
短い文章だけど、それだけに比喩とかではなく、直接的な意味しかない気がした。
「謎解きというよりは、指示に従えば良さそうでござる。そこに果実の像とパンの像もあるでござる。鶏頭人の像の台座を回転させて、正面に怒りの像とかセットしながら、果実の像とかを与えれば楽勝でござろう」
鶏頭人の像は、怒り、悲しみ、笑顔、無表情の4体がある。円形の台座に乗っているので、それを回せばよさそうだ。
「果実とパンはあるけれど、潤いはどうすればいいのかしら?」
「最初から怒りの像が正面にあるよね。きっと台座を回そうとしても、今は回らないと思うんだ」
マーミンが台座を回そうと試したけれど、予想通りに動かなかった。
「どういうこと?」
「果実やパンの像を乗せられる台座に、穴があいているでしょ? つまり潤いっていうのは、そこに水でも流せばいいのさ。それをやって初めて台座が回るという仕組みだよ。 多分ね……」
僕の多分に、マーミンの顔が暗くなる。
「でも水なんて持ってるの?」
「マーミンの水魔法でいいんじゃない?」
簡単に考えていたけれど、魔法は攻撃メインだし、対象に命中すると弾けて消滅するようだ。普通の水のように流し込むことはできないと、断られてしまう。
「だれか催してきた人はいない?」
「システム的にできないし、何で潤す気なんだよ!」
「冗談よ。ラルったら真面目さん」
これが本当の冒険ならば、その発想力には脱帽だ。でもこれはゲームなのだから、そんな事をさせるはずがない。
「安心するでござる。拙者が水筒を持っているでござる」
赤さんがインベントリから、竹製の水筒を取り出した。
「見た目だけのつもりでござったが、どうやら役に立つときが来たでござる」
「さすが赤さん!」
赤さんは台座の穴に向けて、水筒を傾けた。チョロチョロと水が流れ出し、まるで飲み込んでいるかのように、台座の穴へと流れ込んでいく。
するとゆっくりと、鶏頭人の乗った台座が回りだした。
「自動で動くみたいだね」
ゆっくりと回った台座は、笑顔の鶏頭人を正面にしてとまった。
「笑顔には果実よね」
マーミンが台座に果実の像を乗せる。
ピカッと果実の像が光ると、一瞬でなくなってしまう。それと同時に、再び鶏頭人の台座が回りだした。
「ふふっ。全自動だわ」
「すごいです」
回転していた台座は、悲しみの鶏頭人を正面にしてとまった。
「これでパンの像を乗せればいいのね」
「ちょっと待つでござる」
僕がマーミンを止めようとするより先に、赤さんが制止した。
「最後の力をと言うのは、おそらく無表情の鶏頭人が襲ってくるという意味でござる。みんな気持ちの準備をしておくといいでござる」
「オーケー」
「大丈夫」
マーミンはみんなを見渡して、準備ができたことを確認すると、パンの像を台座に置いた。
パンの像はピカッと光り、一瞬で姿を消した。鶏頭人の像の台座が回りだし、やがて無表情の鶏頭人が正面へと移動した。
『力を示せ!』
無表情の鶏頭人は光って消え、広間の中央に現れた。
「ここからが本番でござる」
「ルード。戦闘開始だ」
予想通りの展開に、僕はワクワクしてしまう。