137.宝箱の中身
中に入ると前と同じように、5体の邪妖精と3体のタウロスガードが見えた。
「邪妖精はマーミンが、タウロスガードはルードが抱えてみんなで殲滅しよう」
「オーケー」
全員の了承を確認すると、マーミンがファイアショットを発動させる。
5つの火の塊がタウロスガードの頭を越え、背後の邪妖精に命中した。
「相変わらずの高火力だね」
「伝説の魔女に不可能はないのよ」
なんだか懐かしいフレーズだ。
向かってくるタウロスガード3体へ向けてルードが走り出すと、サークルアタックで迎撃した。
雄叫びを使わずに、ダメージで注目を浴びる作戦のようだ。実際にマーミンはタウロスガードに攻撃をしていないので、それだけでルードに注目が集まった。
「ポンちゃん、やっちゃって!」
「ポッポゥ」
ぴょんと飛び上がると、ルードの右側にいたタウロスガードへ突進する。しかもよく見れば、あのふわふわだった毛が、うにの棘のようになっていた。
もろに攻撃を受けたタウロスガードは、たくさんの多角形の板を撒き散らしながら消えていく。あんな針山みたいなのに突進されたらと考えるだけで、ちょっと背筋が寒くなる。
「ポンちゃん最高です!」
戻ってきたポンちゃんを、ラズベリーはワシャワシャとしている。さっきまで硬くなっていたのがウソのように、柔らかくなってみえた。
赤さんが矢を放ち、ルードが槍を突き刺した。
攻撃力は十分な僕らのパーティは、ほどなくして魔物達を倒しきる。
「前よりも強くなっているし、赤さんもいるから、戦闘は楽になった気がするね」
「問題はあれでしょ。やっぱり今回もありそう?」
少し進んだ通路の真ん中に、前は落とし穴の罠があった。通らなければならない場所にあるので、安全に進むためには、どうしても罠解除の必要がある。
「拙者に任せるでござる」
赤さんが通路を進んでいくと、不意に屈んで床を見た。そこへさっと手をかざすと、一瞬通路がピカッと光る。
「ミニゲームなしで解除できたでござる」
「さすがだね」
罠を安全に外せそうなことに安心したけれど、罠はどこにあるかわからない。
「ルードと赤さんが先頭で、ポンちゃんとマーミンが中央、僕とラズベリーが後ろって感じで進もう」
「それがいいでござるな」
「オーケー」
僕らは隊列をそう決めて、さらに奥へと進んでいった。
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ハードのときよりも狭いかなと思ったけれど、その代わりという感じで、階層が深くなっていた。
僕らは単調な狩りを続けながら、地下7階までやってきた。そして半分くらい探索した時に、罠の掛かった扉を発見する。
「ノーマルだと3階にある宝箱の部屋かな?」
「迷宮の形も違うから、何があっても不思議じゃないわね」
「珍しい扉でござるな」
赤さんがそう言いながら、扉の前に片膝をついた。
「珍しいの?」
「罠だけでなく、鍵までかかっているでござる。よほど大事な何かが、この部屋にはあるのでござろうな」
その言葉でワクワクが止まらなくなってくる。罠と鍵に守られた部屋には、どんなお宝があるのだろう。
「なにがあるんでしょうね」
ラズベリーも期待しているようだ。
そんな事を話していたら、扉がピカッと光る。
「微妙でござるな。罠も鍵も、それほど難しくなかったでござる」
重要そうに守る割には、難易度は低かったらしい。
赤さんが扉を押し開くと、部屋の中央に台座が有り、そこに卵が飾られていた。
「すごい。格好いい杖だわ」
「待つでござる!」
二列目にいたマーミンが、すっと部屋の中に入ってしまう。釣られたのか、ルードもすぐに部屋の中に入る。
するとカァンと鉄同士がぶつかった音が聞こえた。
「ルード殿に感謝でござる。そのままでよろしくでござる」
理由はわからなかったけれど、赤さんは部屋の床の方に手をかざした。やがて床全体が光ると、さっきまであったはずの台座も卵も消えていた。
「これは?」
「幻影の罠と矢の罠でござるな。仕組みはわからんでござるが、床に乗ると矢が飛んで来るようでござる」
どうやらさっきまで見えていた卵は、幻影の罠だったらしい。お宝につられて部屋に入ると、矢が飛んで来るといういやらしい罠だ。
お宝に注意を引いて、床の罠を発動させる。罠にかかった人は強欲とも言えるかもしれないけれど、罠の扉を開いた後で、欲しいお宝があったら、さらに罠があるなんて思わないだろう。
「罠に罠とか、迷宮の製作者の性格が悪いよ」
「赤さん、ルード。ありがとう。助かったわ」
幻影が消えた後には、なんども見たことのある宝箱に変わっていた。
「あの宝箱は本物?」
「鍵がかかってござるが、本物でござる」
赤さんは部屋の中を歩いて、宝箱の前で片膝をついた。
「これは鍵だけでござるな」
「ワクワクしますね」
ラズベリーがポンちゃんを抱きしめながら、ニコニコとしている。僕も笑顔になりながら、なにが出てくるかなと楽しみで仕方がない。
宝箱がピカッと光り、鍵開けが終わったことを教えてくれた。
「鍵開け成功でござる。開けてもいいでござるか?」
「いいわよ」
「よろしく」
赤さんがガバッと宝箱の蓋を開けた。
「あれっ?」
少し待ってみても、ドロップログが出てこない。せっかくの宝箱なのに、コモンだったのかと、インベントリを確かめる。
「なにも手に入ってないわね」
「むむっ、どうやらこの宝箱は、宝箱ではなかったようでござる」
「どういうこと?」
なんだかわからなくて、考えもせずに聞いてしまった。すると赤さんは、宝箱の中を指差した。
僕は宝箱に近づいて、中を覗き込む。
「地下への入り口だ。宝箱はダミーだったんだ!」
「へー。面白そうじゃない」
「こんな仕掛けがあるんですね」
宝箱の入り口がそれほど大きくないせいか、階段ではなく、はしごで降りていくタイプだった。
「赤さん、様子を見てきてくれる?」
「もちろんでござる。忍者の得意分野でござるよ」
赤さんはヒョイッとはしごをつかむと、そのままスルスルと降りていった。
「身軽なのね」
「すごいです」
おそらく1階か2階分くらい、はしごを降りた赤さんは、脇道があるのか、その姿が見えなくなった。
「迷宮の隠し道ってワクワクするよね」
「そうね。楽しみだわ」
ラズベリーはポンちゃんを抱きながら、ずっと下を覗いている。
「あっ、戻ってきました」
「降りても大丈夫でござる。まだまだ通路が続いているようでござるから、探索するでござる」
「オーケー」
「了解」
誰から降りようかなと思ったら、ポンちゃんがポンっと飛び出して、はしごに絡みついた。あのふわふわな毛をはしごに括り付け、器用にはしごを降りていく。
「さすがポンちゃんですね。次は私が行きます」
ポンちゃんを追うように、ラズベリーがはしごを降りていく。誰一人怖いとか言うこともなく、やがてあっさりと全員がはしごを降りた。
「すぐ先にT字路なんだ」
「どちらも先が長そうでござるよ」
特殊なルートかもしれないけれど、通路の広さは変わらないし、隊列はさっきのままでいいだろう。
「よし。未知なる道へ行こう」
「オーケー?」
「行きましょう」
ルードと赤さんは、なにも聞かなかったかのように、通路を進んでいった。