134.裁縫練習
クランハウスに戻ると、僕らはエントランスホールのソファで休憩する。クランポイントが貯まっていたので、モルギットのためというか、装飾の施設を増設した。
そのままモルギットはログアウトしていったけれど、僕は鍛冶施設で、魔導メイスの作成をすることにする。
ギゼノのインゴットを作成するためには、金と銀の鉱石が多めに必要だったけれど、しばらく鍛冶をしないで鉱山迷宮に潜っていたから、素材の在庫には余裕があった。
マナアップの魔法だけでも付与すれば、最大魔法力が増えるけれど、モルギットの好みはわからないし、スロットを作成するだけにしておこう。
ギゼノのインゴットの作成は、特に新しいことがなかった。いつものようにミニゲームをしながら、カンコンカンと作成する。
せっかくだからと付与してみたら、110、90、80、60と、4つもスロットができていた。
どうやら鉄で1つ、黒鉄で2つ、フォレンチノで3つ、ギゼノでは4つスロットができるらしい。とは言え、フォレンチノもギゼノも、耐久度に問題がある。ギゼノも同じく修理不可だし、もっと使い勝手のいいインゴットが欲しくなる。
せっかく良いスロットが作成できても、近接系の武器では、その性能を最大限に生かせないのだ。
予想通りに魔導メイスの耐久度が低かったので、モルギットが言っていた通り、直接攻撃には向かないだろう。
魔導メイスのデザインは、叩いたら一番ダメージがでそうな先端に、宝石を嵌められそうなソケットがあり、それ以外に目立った装飾はなかった。
銀のベースに光の加減で、たまにキラキラとして見えるのは、金鉱石が混ざっているからかもしれない。
僕はその出来に満足すると、鍛冶施設を出て、隣の裁縫施設へと向かった。
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裁縫の施設は、前に覗いただけだったけれど、鍛冶とそれほど違いはない。置いてあるのはハンマーではなく針で、生産あれこれの本も置いてある。
スキルスロットに余裕もあるし、レシピも集まってきたので、このあたりで裁縫を鍛えたくなった。
僕は裁縫のスキルを取得すると、早速練習を開始する。
魔糸を3つ使って、魔布を作成するのが基本の作業のようだ。そして魔布を素材にして、服を作成するという流れだ。
僕の持っている着物のレシピは、レベルが足りなくて習得できない。結構前に集めた精霊シリーズのレシピもレベルが足りなかった。
鍛冶では素材を叩く感じでインゴットを作成していた。裁縫はどうするのかと調べていたら、素材の魔糸を針で刺すだけでいいらしい。
「刺すだけか……」
3つ用意した魔糸に針をさすと、魔布という素材に変わる。恐ろしいほどの単純作業を繰り返し、僕は魔布を作成していく。
この時のために、魔糸はたくさん用意している。
魔布が貯まってくると、Tシャツにして更に経験を積んでいく。
しかし魔布に針を刺すだけで、一瞬でTシャツが完成する。全然裁縫をしている気にならないけれど、レベル5まではこんな感じになるだろう。色や柄にバリエーションがあるので、飽きないように色々Tシャツを作成した。
そのうちジャケットの作成や、ズボンやスカートなどの作成もできるようになったので、魔布とか服をガンガン作成していたら、あっという間に5レベルになる。
僕は着物1のレシピを習得した。
「着物レシピ1で作成できるのは、ミニ浴衣なのか……」
作成してみないと実物はわからないけれど、作成の名前がミニ浴衣になっている。この名前から想像すれば、大体の予想がつきそうだ。
僕が最終的に欲しいのは、妖艶さが漂うサクラ柄の着物だ。そこは着物2のレシピに期待して、レベルアップのためにもミニ浴衣を作成していこう。
ミニ浴衣を装備する予定はないけれど、付与のスキルレベルを上げるために、素材に付与することにした。
必要な素材は魔布が5枚と、なかなかの量が必要だった。
鍛冶とは違って、レシピに男性用とか女性用があり、しかも色や柄が豊富だった。ちょっと不公平を感じるけれど、知らないだけで、鍛冶でもカラフルにできるのかもしれない。
「女性用の夏祭りっぽいのを作成するか。エリーはほぼ初期装備だし、意外に似合うかもしれない」
魔布に付与を行ってから、僕はミニ浴衣を作成する。
「おっ、いい感じだ」
作成されたミニ浴衣を見て、僕はすぐに気に入った。水色のベースの浴衣に、薄紅の大小様々な金魚が描かれている。
まさしく夏祭りのイメージで、涼し気な爽やかさを持っていた。
「エリー召喚!」
床に魔法陣が浮かび、エリーがふわっと飛び出してくる。初期装備も悪くはないけれど、僕はエリーに浴衣を装備させた。
普通ならサイズが違いすぎて着られないとかありそうだけど、妖精用の装備とかはいらないようだ。
ミニ浴衣を身に着けたエリーは、悪くはないのだけれど、紫のオーラが少し邪魔になっているかもしれない。
(色が濃く見えちゃって、涼やかな爽やかさがなくなっている。でも似合うな)
膝上までしか丈がない割に、袖は手首までちゃんとある。よく見かけるミニ浴衣だけど、なんでミニしかないのか理解できない。
「可愛いからいいか」
とにかくレベルを上げて、着物2のレシピを習得したい。
僕はそのままミニ浴衣を作成しつづけ、裁縫レベルを鍛えるのだ。
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作成したミニ浴衣を素材に戻しながら、何度も同じことを繰り返す。もう疲れたよと思った頃、やっと裁縫がレベル6になった。
「よし。レベル6だ!」
追加レシピを調べてみたら、素材系が増えていない。鍛冶では中級素材とかいって、いくつか増えていたけれど、今のところ裁縫では、魔糸からの魔布しかないようだ。
ただ作成できる服の種類が増えている。
細かなデザインが違うだけとも言えるけれど、例えばシャツならば、長袖とか半袖が増えた感じだ。
「精霊シリーズは必要レベルが7だ。着物2もレベル7なんだよな……」
何かしらレシピが増えたら頑張ろうと思っていたけれど、疲れが吹き飛ぶほどのレシピはなかった。
ここは一度休憩し、なにか他の気分転換でもしよう。
「エリー。ログアウトして休憩するよ」
「ウピィ」
エリーに見送られながら、僕はログアウトした。