133.ネズミ村の村長
飛び出してきたネズミを確認すると、ネズミ村長という名前で、ドロップリストには『瞬速ネズミのしっぽ』がある。
3日経過しなければ、ネズミの村に戻らないという話だったけれど、僕らは戻す方法を見つけることができたのだ。
「あっ、この謎の頭蓋骨を使えるみたいです。使ってみてもいいですか?」
「いいよ」
「はい」
モルギットが持っていた謎のガイコツが砕け散った。
「えっ」
「チュゥアァーン!」
目の前にいたネズミ村長の体から、真っ赤なオーラが浮かんできた。
「ルード! 攻撃開始だ」
近くにいたルードが、村長ネズミに槍を突き立てる。お返しとばかりに、ルードの肩に噛み付いた。
「レタヒール」
思ったよりもダメージがあるのか、モルギットは上位の回復魔法を使っていた。そして次々と、周りのネズミが参戦してくる。
突進ネズミが数体、ルードめがけて突っ込んでくる。
「ゴッデスヒール」
射撃ネズミの数体が、モルギットに向けて緑の球を発射する。
「ムーンシールド!」
「ガァァァモォォォ!」
ルードが雄叫びを上げる。周りのネズミたちが一斉に、ルードへ意識を向けた。エリーは華麗に中を舞いながら、水の火の魔法を撃ちだした。
周りのネズミに耐久力はないのか、次々ときれいな輝きを残しながら、魔物たちが消えていく。
「アクアランスですの」
ラビィは魔法を使う前に、クルリと一回転するようになっていた。それで威力が上昇するのかはわからないけれど、軽快な感じがして気に入った。
「ムーンスピア」
ルードに突進してきたネズミを、その一撃で消し去った。
どうやら猿とは違って、ネズミはゾーン相応の強さなのかもしれない。
ピカッと周囲が光ると、ルードがライトニングを撃ち込んでいるのが見えた。それで周囲のネズミはいなくなり、ネズミ村長と一騎打ちだ。
たまたま名前を確認してみたら、なぜかネズミ村長ではなくなっていた。
「あれ、名前が変わってる」
「怒れるネズミ村長ですね。もしかして謎の頭蓋骨でしょうか」
そういえば謎の頭蓋骨を使う前は、間違いなくネズミ村長だった。あの頭蓋骨はネズミっぽかったから、村長が怒ったのかもしれない。
嫌な予感が浮かんで、慌ててドロップリストを確認した。
「瞬速ネズミのしっぽがなくなってる」
「ヒール。『怒りネズミのお楽しみ袋』になってますね。ギャップが凄いですけど……」
骸骨で怒った村長なのに、ドロップがお楽しみ袋って言うところが、なんともアンバランスに思えた。
コモンドロップでそれ以外はないから、おそらく確実にドロップしてくれるのだろう。
でもその袋に何が入っているのかは、確認することができない。
そんな事を考えている間にも、火と水の魔法が次々と村長に撃ち込まれていく。
「ムーンボール」
他に集中してサボり気味だったので、アリバイ的に魔法を撃っておいた。
「村長を倒したら、まず村から出ませんか?」
「ん?」
お楽しみ袋の中身はなんだろうとか考えていたら、モルギットがそんな事を言いだした。
「いつお猿さんが占領にくるかわからないですけど、ドロップの確認中に襲われたら、やっぱり嫌じゃないですか」
「あっ、それもそうだね。倒したら撤退しよう」
「ゴッデスヒール」
怒れるに変化しているせいか、あのルードがそこそこダメージを受けている。あの赤いオーラは、かなり攻撃力を上昇させる効果があるのだろう。
「ムーンブラスト」
とはいえ戦闘自体には、トラブルとかあるわけではない。強力なワンダリングモンスターもいないし、周囲のネズミはすでに対処済みだ。
新しい技を使うような素振りも見えないし、きっとこのまま戦闘は終わるだろう。
「あっ、倒せました」
最後はルードが槍を突き刺して、戦闘は終了した。
「よし。撤退だ」
僕らは村の外へ向けて、一目散に走り出した。
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村から離れると、ちょうどお猿さんたちがやってくる。そしてあっという間に門の前に、2体のファニーモンキーが陣取っていた。
「すぐ逃げてよかったね」
「思ったよりも早かったですが、無事でなによりです」
インベントリを確認すると、ちゃんとお楽しみ袋が存在した。でもそれを取り出そうと思った瞬間、僕の頭に疑問が浮かんだ。
「あれ? あの家を建てたのは誰なんだろう」
「そう言えば不思議ですね。ネズミがベースって言ってましたけど、普通のネズミが家の建築なんてできるんでしょうか」
ネズミが村にいて、村長を倒すと猿の村に変わる。この話が本当ならば、家を建てたのはネズミということだ。
でも出現したネズミは、普通のネズミが巨大化しただけの魔物だ。ネズミ人間ってわけでもないし、建築なんてできるはずはない。
仮に猿が家を建てたとすれば、まあ理解はできるけれど、3日で放置する意味がわからない。
「これってもしかして……」
「あっ、もしかして……」
僕らは顔を見合わせる。
「あのリスだよね」
「リスさんですよね」
どうやら結論は一緒だった。北の森で芋虫に襲われていたリスは、南に向かって逃げている。
他のリスたちも逃げ延びて、ここに村を作成した。
でもそれをネズミに奪われ、再びどこかへ逃げていく。その結果、ネズミと猿だけが残ったのだと考えたら、全ての辻褄が合いそうだ。
「でも予想が当たっていたら、ちょっと可哀想になるよね」
「芋虫に追われ、ネズミに追われ……ですよね。できればどこかで、ゆっくりと暮らしていてほしいです」
勝手に話を想像して、しんみりとしてきた。
「安全に暮らしていると信じて、お楽しみ袋を開封しよう!」
「はい。そうですね」
雰囲気を変えようと、努めて明るく言ってみた。それをわかってくれたのか、モルギットも明るく答えてくれる。
「何が出るかな」
僕は『怒りネズミのお楽しみ袋』を開封した。
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怒りの耳飾り×1 を手に入れました
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初めて見るアクセサリだ。僕は効果を確認する。
「おっ、すごい!」
「何が出たんですか?」
物理攻撃力+5%という効果がついていた。
「攻撃力が上昇する耳飾りだって」
丸く削られた赤い宝石がぶら下がっている耳飾り。僕が装備する気にはならないデザインだけれど、サクラには似合いそうだ。
「凄いですね。私はオパールが10個でした」
モルギットは喜んでいるから、きっとオパールはレアなのだろう。
「やったね。おめでとう」
「はい。お互いおめでとうのありがとうです」
サクラは召喚していないので、僕はインベントリに怒りの耳飾りをしまっておいた。
「お猿のレアも気になるけれど、そろそろ戻って休憩にするよ」
「そうですね。もうすぐクランイベントも始まりますし、そうしましょう」
そういえばクランイベントがあったのを忘れていた。でも参加しようと思わなくても、クランに所属していれば、たしか戦うだけで貢献できるはずだ。
「帰ろうか」
「はい」
僕はラビィ達を送還すると、北へ向かった。