132.新たな鍛冶レシピ
あれから何周かしてみるけれど、新しい魔物はポップしない。ジュエルズモンキーを例にみれば、コモンドロップの代わりに、レアポップなのが予想できる。
無言で戦い続けていると、どんどん辛くなっていくので、前に思い出した宝石のことを、モルギットに聞いてみることにした。
「そういえば前にさ、烈火のルビーって見つけたよね」
「はい。クランクエストで手に入った宝石ですね」
モルギットはルードたちに注意を向けながら、僕の質問に返答する。
「あれって装飾で何ができるの?」
「装飾で加工しようと思ったのですが、扱えない宝石でした」
鉱石で鍛冶をするように、宝石で装飾品が作成できる。扱えない宝石となると、いくつか理由が考えられそうだ。
「レベル不足? それともレシピがないとか?」
「対象外みたいなんですよね」
どうやら烈火のルビーは宝石だけれど、装飾では使えないってことらしい。とすると、むしろ何に使えるのか興味が沸いてくる。
「今のところ、使いみちがわかりません。烈火のルビーという名前しかわからないですし、確定しているのは装飾では加工できないってことだけです」
てっきり火魔法が強化とか、炎耐性がとか、そういうアクセサリにできるのだと思っていた。入手するのが難しいし、何か特別な意味があるのかもしれない。
「烈火のルビーは無理ですが、さっきドロップしたムーンストーンで、無魔法の強化ができる装飾品が作成できますよ」
「えっ、そうなんだ。ぜひ作って欲しい」
モルギットは顔を僕の方に向けると、ニコリと微笑んだ。
「はい。ネックレスかイヤリングかリングで作成できますけど、どれが良いですか?」
イヤリングでも気にしないけれど、積極的にそれが良いとは思えない。リングは鬼の指輪を装備しているけれど、全部で4つまでという制限を守るならば、指輪を4つでもネックレスとイヤリングで4つでも影響はない。
それ以上装備することも可能だけれど、4つ以上は性能を発揮しないので、見た目だけの変化になる。
「リングでお願い。価格はどれくらい?」
「わかりました。価格は……物々交換でどうですか?」
僕の勝手なイメージから、物々交換を言われるとは思っていなかった。でもモルギットが欲しいアイテムって考えても、なんの予想も浮かばない。
「もちろん。僕が持っているアイテム?」
「鍛冶レベル8で習得できる魔導シリーズの武器、魔導メイスが欲しいんです」
結構前に普段使いの装備とかを作成している時に、鍛冶レベル8にはなっている。ただ僕の製作可能制作リストには、魔導シリーズは載っていない。
「鍛冶レベル8だけど、魔導シリーズのレシピはないよ」
「魔導シリーズの作成には、ギゼノというインゴットが必要になります。『鍛冶レシピ:鉱石1』で取得できるので、なんとかなりませんか?」
僕の背中に電流が走る。クランハウスで落ち着いて検証しようと思っていて、いまだに何もしていなかったあのレシピは、思った以上に有用だったらしい。
「やった。ちょうど手に入れたばかりなんだ。取得してみるね」
僕は持っていた『鍛冶レシピ:鉱石1』を使用する。作成リストにギゼノのインゴットが追加された。それと同時に、剣や斧の魔導シリーズが解放された。
(んっ? 防具に魔導シリーズはないのか。それとももっと先なのかな)
魔導メイスのレシピも追加されたので、物々交換もできそうだ。
「ありがとう。魔導メイスのレシピが追加されたよ。ところでソケットってなにかわかる?」
「魔導シリーズには、一つだけ宝石を嵌め込むソケットがあるんです。私の装飾で加工した宝石を嵌め込むことで、アクセサリでしか得られない効果を、武器にも追加できるんです」
思った以上に有用なシステムだった。これを利用すれば、アクセサリの効果を5種類受けることができる。
「それならこの魔導ソードって言うのに、ムーンストーンを入れたりできる?」
「できますけど、ラルさんは止めたほうがいいと思います。ギゼノはフォレンチノ以上に耐久力がありません。壊れると効果がなくなりますし、武器を入れ替えて戦うスタイルだと、難しいと思います」
僕は気分でも頻繁に武器を変えている。ボス用の剣と、普段使いの剣を数本。たしかにこれでは、宝石を嵌めても安定しないかもしれない。
「やっぱりリングでいいや。お互い作成できたら、その時に交換しよう」
「はい」
っと、話している間に、再び目の前にファニーモンキーがポップした。
「あらっ、これは全部リポップしてるよね」
「戦う時間を調整して、もう一度やり直しましょう」
「了解。まずはこいつからだ!」
ルードが勢いよく槍を突き出す。ラビィとエリーが魔法を打ち込み、再びルードが攻撃して倒し切る。
「弱いけど硬いから、油断しないでいこう」
「はい」
僕らは再び周回を開始する。
--------------------------
運がいいのか悪いのか、次にポップしたのはリーダーモンキーだった。
あの大きな家で出現したので、おそらくこいつを倒せば、ネズミの村に戻るのだろう。
「他のレアモンキーも見たかったけれど、せっかくだから倒してしまおうか」
「そうですね」
とか話している内に、リーダーモンキーはルードへ攻撃を仕掛けてきた。
「っと、ムーンスピア!」
「ゴッデスヒール」
リーダーの取り巻きがいるけれど、ファニーモンキーで変わりはない。どうせならレアモンキーが護衛に来てくれればいいのにと、欲張りな事を考えてしまう。
「鬼リンクか……」
「ガァァァモォォォ!」
たくさん来るのに気がつくと、すかさずルードが雄叫びをあげる。
「頑張りましょう」
モルギットもメイスでファニーモンキーと戦っている。少しでもダメージを与えることで、さっさと倒してしまいたい。
新しく来たゾーンとは言え、対象レベルは低いせいか、全く苦戦にならなかった。順調にファニーモンキーを殲滅し、特に珍しい攻撃もしないままに、リーダーモンキーは消えていった。
消える前に確認したドロップリストでは、コモンに『謎の頭蓋骨』という、嫌なアイテムがあった。
インベントリを確認すると、譲渡不能のアイテムとして、しっかりとドロップしている。
「アロイ・ガライ以来の頭蓋骨だよ……」
「真っ黒の頭蓋骨で、ちょっと滑ってますね」
濡れた部分が少し光って見える。長く見ているのも嫌なので、僕はすぐにインベントリへしまった。
なのにモルギットは、まだ頭蓋骨を見つめている。
「モルギット? 気持ち悪くないの」
「気持ち悪いです。けれどなんでこれがドロップしたのか、気になりませんか?」
そういえばたしかに変だ。しかも譲渡不能になっているからには、何か大事な骨なのだろう。
「それって人間じゃなくて、なんとなくネズミっぽくない?」
「あっ、そうですね。ということは、言い方は嫌ですが、ネズミの村を襲った戦利品でしょうか……」
そんなふうに話していたら、周りにどんどんネズミが集まってくる。
リーダーモンキーを討伐したから、ネズミが帰ってきたのかもしれない。
「村って言うから、ネズミ人間だと思ったのに、普通のネズミだね」
「前にクランクエストで出現したのと、同じネズミみたいです」
やがてネズミたちが定位置についたのか、その動きを止める。
「地面が揺れてる?」
少しづつ振動が強くなると、地面から大きなネズミが飛び出してきた。