131.村のレアポップ
なんの変哲もない家屋の中で、珍しい魔物がポップするというのは、ありそうなだけに無視できない。
でもネズミの村長がいたであろう豪華な建物は、どうしても何かありそうで気になってしまう。
「あの大きな家の真ん中で偉そうにしている、ファニーモンキーが怪しいよね」
「そうですよね。でも他の家も無視したくはないところです」
この村の中では、リポップがそれほど早くないので、広い範囲で家の中を確認していけるだろう。
「この大きな家から初めて、いくつかの家を回ってここに戻る。いわゆるキャンプみたいな狩りにしようか」
「そうですね。ここでちょっと休憩できるくらいで、ポップ管理してくれると嬉しいです」
「任せて」
ファニーモンキーのポップ間隔をはかりながら、最も多く家をまわれるルートを探す。いろいろ試しながらやっていると、少しづつ最適なルートが見えてくる。
安定したルートを見つけると、僕らは何周も走り続けた。
一切新しいことが起こらない地獄の周回を、僕らはひたすら続けていく。
こういう狩りは嫌いではないので、特に苦痛は感じない。何もドロップしない事は苦痛だけれど、キャンプ自体に問題はなかった。
僕には意外だったけれど、モルギットも気にせず狩りを続けていた。
一時間くらいで帰ろうとか言われると思ったけれど、大きな家での僅かな休息で十分とでもいうように、元気に走り回っていた。
「どう思いますか?」
二時間くらい頑張ったところで、不意にモルギットが聞いてきた。
「えっと、どうって言うと?」
「レアハンターとして、どう思いますかってことです」
僕はなんの根拠もないけれど、なぜだか手応えを感じていた。ファニーモンキーしかポップせず、経験値も薄くてドロップもないけれど、何かがあるということだけは、不思議と最初から感じている。
「間違いなくなにかある気がする。そして今からが、本当のレアハントって思うよ」
「いいですね。私もそんな気がします」
大きな家にポップしたファニーモンキーを倒しながら、僕らはそんな会話をする。
「このまま周回だ」
「はい」
そうやって気合を入れ直すと、次の家へと向けて走る。
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あれから一時間くらい周回していたら、何の変哲もない家屋に、見慣れない魔物がポップした。
「来た! ジュエルズモンキーだって」
「やっぱり他の魔物もポップするんですね」
名前の違う魔物だけれど、ベース自体はかわらない。ただ宝石のネックレスをしていたり、指輪をしていたりと、ジュエルズの名前の通りに着飾っている。
かなりのレアポップなだけに、ドロップリストに期待してしまう。すると意外なことに、コモンドロップしか存在しなかった。
「コモンで宝石祭りだ。だからジュエルズモンキーなんだね」
「いいですね。装飾の腕がなります」
ルビーだエメラルドだサファイアだと、さまざまな宝石がドロップする可能性を持っていた。
「ルード。攻撃開始だ」
喜びに震えた僕の攻撃を、止められる魔物などいない。ほどなくしてジュエルズモンキーは、多角形の板を撒き散らしながら消えていく。
「すごい! エメラルドにサファイアが2つづつ。そしてルビーが1つだ!」
「私はトパーズとムーンストーンだけです。でも全部で7個もドロップしました」
種類は多いけど5つの僕と、数が2つ多いモルギット。どっちが良いとかはないけれど、そもそも宝石が珍しいのかわからない。
「宝石って珍しいの?」
「お店では買えません。迷宮の宝箱などから手に入りますが、入手方法があまりないんです。だからこんなに一杯ドロップするなんて、初めての経験です」
宝石自体がレアらしい。とすれば、たくさんの時間がかかったけれど、結果的にはプラスになっている感じだ。
「無駄にならなくてよかった。でもまだ目的はこれじゃない」
「そうですね。でもファニーモンキー以外がポップすることがわかったので、これからの調査も気合が入りやすいです」
あるとわかっていて狩るのと、わからずに狩るのでは、気分的にも大分違う。ジュエルズモンキーはそういう意味で、僕らに勇気を与えてくれた。
「あっと、ポップ時間がずれてるよね。一度大きな家まで狩ってしまって、そこから時間調整しよう」
「はい」
家から出ると、すでにファニーモンキーがポップしている。それらを狩りながら、僕らは大きな家へと向かった。
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あらためてポップを調整しながら、僕らは開拓したルートで狩りを続けていく。何周か繰り返して、ジュエルズモンキーがポップした家に入った時、不意にモルギットがつぶやいた。
「あれ……このファニーモンキー、靴を履いてませんか?」
「えっ、あ! 本当だ。わかりにくいけど靴を履いている!」
茶色の毛並みと同じような色で、ボロボロになったような布の靴を履いていた。他のファニーモンキーは素足だったはずなので、この魔物だけの特徴かもしれない。
「もしかしてレアモンキーさんがポップする可能性のある魔物だけ、こういう風に違いがあるんじゃないでしょうか?」
「ありえるね。もしそうなら、僕らはレア魔物狙いができる!」
モルギットの発見にワクワクしてきた。鉱山迷宮のナイトメアの扉でも、僅かな違いでレアが判定できるのもあった。
注意深く魔物を観察したら、レアポップの可能性のある存在が、事前にわかるようになっているのだろう。
「大発見だよ。この村の中を探索して、違いのあるモンキーを探そう」
ルードたちが戦っている中、僕はモルギットとハイタッチをかわす。
「どんな魔物がいるのか、楽しみですね」
「そうだね。一度ポップ管理は捨てて、新たなルートを開拓しよう」
家の中のファニーモンキーを倒し切ると、僕らはあらためて村の探索を開始する。
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調査した結果、大きな家を含めると、4つのポイントが見つかった。
ジュエルズモンキーはいいとして、四角く囲われた村の角にある家屋に、手袋を履いたモンキーがいた。そして対角になる反対側に、半ズボンの魔物を見つけた。
大きな家にいるファニーモンキーは、よく見ると帽子を被っていたし、気がついてみたら、なんでわからなかったんだろうと不思議に思えてしまう。
「先入観って怖いよね」
「一度全部見ているはずなのに、意外と手袋とか気がつかないものですね」
レア魔物がポップする可能性があるファニーモンキーは見つけたけれど、いやらしいことに、一番遠くなるような場所にポップしている。
村の中を突っ切るルートを取るよりは、回り込むようにして、大きな家とジュエルズモンキーを通過して楕円を描くように、ポップを管理するのがよさそうだ。
「ルートを変えてモンキー狩りだ。気合い入れていこう」
「はい」
大きな家を基点として、僕らはネズミの村でモンキー退治に乗り出した。