130.新たな村の情報
いい感じにドロップしたことで、僕とモルギットはホクホクで村へ向かって森を歩いた。この辺にポータルが欲しい所だけれど、ないものは仕方がないので、歩いて帰るしかない。
「すっかり夜があけましたね」
「そうだね。明るくなると爽やかさも感じるくらいだけど、なんで幽女が出現するんだろう」
そんな事を話しながら歩いていたら、後ろが騒がしくなってきた。
「あれ、誰かいるのかな」
「おら、全力で走れ! さっさと最前線に戻るんだ!」
「この声は……もしかして」
ザザザッと草をかき分け、僕らの方へと近づいてくる。よく見ると3人くらいが走ってこっちへ向かっていた。
先頭を走る男がモルギットの方を見て、突然足を止める。
「全員止まれ! よぉ、モルギット。久しぶりだな」
「そうですね」
3人のうち、僕は2人に見覚えがあった。一人は先頭を走る男で、以前にモルギットたちが組んでいた、パーティメンバーの剣士だろう。
そしてもう一人は、キックスと言う召喚獣と契約している召喚師だ。
ただどちらの名前も、全然思い出せない。
「へっへっへっ。悪いが村のネズミは先にいただいたぜ。このとおりにな」
剣士がインベントリから、ネズミの尻尾がついたアクセサリを取り出した。
「ネズミ村長からドロップする瞬速ネズミの尻尾だ。お前らは猿とでも遊んでやがれ。それじゃあさっさと最前線にもどるぞ」
「我らはクラン、最前線攻略隊なり!」
「うるせぇ、余計なこと言ってないで走れ!」
勝手に言いたいことだけ言って、3人は走り去っていった。
「相変わらずでしたね」
「僕のことなんて覚えてないんじゃないかってくらいに、完全に無視だったよ」
関わりは持ちたくもないから、無視でなんの問題もない。それよりもあの連中は、モルギットを煽るつもりで情報を与えてくれた。
「ネズミの村があるのかな?」
「そういうことですよね。せっかく遠くまで来ましたし、行ってみますか?」
行きたいのはやまやまだけれど、戦い続きでモルギットも疲れているだろう。一度ログアウトして、休憩してからがよさそうだ。
「ちょっと休憩しない? それで時間を合わせて、南に行こうよ」
「そう言えば戦い続きでしたね。そうしましょう」
僕はモルギットと時間を合わせ、そのままログアウトした。
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再びゲームに戻ってくると、すでにモルギットはログインしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
モルギットは立ち上がると、軽く伸びをした。
「あっ、待たせちゃった?」
「まさか。時間通りですよ。では行きましょう」
モルギットは歩きだす。僕も並ぶようにして、森の中を進んだ。
幽女の出現範囲を越えて、さらに南に向かっていくと、やがて何かを囲うような柵が見えてきた。
「あれかな。鬼の村とかでも見た柵があるよ」
「あっ、向こうにお猿さんもいます」
モルギットが指差す方を見ると、柵が門のようになっている所に、2体の猿の魔物が立っていた。
「ファニーモンキーって言う魔物なんだね。ドロップリ……」
「げぇ、先を越されたのか!」
ドロップリストを確認しようとしたら、少し離れたところから、男性の声が聞こえてくる。
「あっちみたいですね」
「行ってみようか」
僕らが近づいていく前に、向こうから男がやってきた。
「こんちゃ! なぁ、君らがネズミを倒したのか?」
「こんにちは。いえ、僕らではありません」
「ぐはぁ! そうか、なら時間がわからないな。でも誤差はそれほどでもないか……」
男はそう言うと、ブツブツと言いながら顔を伏せる。何かを考えて集中しているみたいなので、邪魔しないように黙っていよう。
「ポップする周期を計算してるんでしょうか?」
「あっ、そうかもね。でもこれだけ時間がかかるってことは、ちょっと複雑なルールなのかも」
男がハッと顔を上げた。
「そうだ。君らはいつからいるんだ?」
「ついさっきですね。ところでネズミじゃなく、なんで猿がいるんですか?」
「んっ、ああ。もしかして初めてなのか?」
僕らはコクリと頷いた。
「ここはもともとネズミの村なんだ。ただネズミの村長を倒すと、猿に村が乗っ取られてしまう。しかも村長はいいアイテムをドロップするんだ。だからここは、大抵の場合は猿になってるんだよ」
ネズミの村長を倒すと、猿が村を征服してしまうという仕様みたいだ。さっき見せられた瞬速ネズミの尻尾が、そのいいアイテムなのだろう。
「やっぱり猿の村長とかを倒さないと、元に戻らないのかな」
「いや。猿に村長はいない。だけど大体3日で猿はいなくなる」
時間でしか戻らないとなれば、よくドロップするアイテムだとしても、貴重品になっていそうだ。場合によってはプレイヤーが監視して、独占している場合もある。
「いわゆる検証チームが、ネズミの村に戻らないか突撃したんだ。攻略サイトの記事では3日間ずっと猿を狩り続けたみたいだが、時間経過でしか戻らなかったって書いていたな」
「それは大変な検証ですね」
「普通は面倒でやらないからな。検証チームさまさまだよ」
僕は検証チームを疑っているけれど、全てが嘘ってわけにはいかないだろう。ただ重要なアイテムをたくさん出回らさないために、ネズミの村に戻す方法を隠蔽した可能性はあるかもしれない。
「それじゃ俺は戻るぜ」
「おつかれさまです」
男はそのまま森へと消えていった。僕はさっきできなかったドロップリストを確認する。
「ドロップはないみたいだ。つまり、ネズミの村が占領されたイベントって事で、ドロップなしってことなのかな」
「どうなんでしょう。このファニーモンキーさんに占領させなくても、ポップを管理するだけでもよさそうです」
言われてみればそのとおりだ。イベント的に占領ってインパクトがあるから、意味はなくても理由にはなりそうだ。
でもわざわざ魔物を作って占領までさせて、倒す意味がないとかだと違和感がある。
「なんの意味もないかもしれないけれど、戦ってみようか?」
「そうですね。村の中へ行ってみましょう」
「そうと決まれば……」
僕はラビィ、ルード、エリーを召喚した。
「ルード。先頭で進みながら、門の前にいるファニーモンキーに攻撃だ」
ルードは頷くと、槍を構えて走り出す。僕らもそれに遅れぬように、隊列を組んでついていく。
「ウキキッ」
僕らに気づいたファニーモンキーが、猿っぽい声を出した。でもその時には、ルードはすでに近接し、ファニーモンキーに槍を突き刺している。
「ウキッ」
「ウキキッ」
「ウキャキャッ」
「ウッキー!」
村の中から声が聞こえ、パッと見で10体くらいがこっちに走ってくる。
「どれだけ鬼リンクだよ!」
「ふふふっ」
あまりのリンクっぷりに、モルギットは逆に笑っていた。
「ムーンボム!」
3体くらいを巻き込むように、僕は範囲で攻撃する。このあたりのゾーンの魔物なら、これで倒せるはずなのに、多角形の板を撒き散らしながらも、元気にこっちへ走ってきた。
「ウピピィ」
そこへファイアーボールが飛んでいく。僕以上に魔物を巻き込んだけれど、それでもまだ倒れるファニーモンキーはいない。
「ガァァァモォォォ!」
ルードの咆哮。僕らへ向かっていたファニーモンキーたちが、ルードへとターゲットを変更した。
飛び上がるようにして攻撃するファニーモンキーたちが集まり、ルードが見えなくなっていく。でもそれと同時くらいに、ファニーモンキーたちが弾き飛ばされていった。
「サークルアタックだ。さすがルード」
僕らの魔法でダメージを受けていたファニーモンキーは、ルードの槍を受けて消えていった。
わかってはいたけれど、エッセンスすらドロップしない。
「アクアランスですの」
「ムーンスピア」
耐久力はあるけれど、攻撃力などはたいしたことはないし、脅威に感じる魔物ではない。ただ倒すのが面倒なだけで、時間はかかったけれど、17体ほどを倒しきった。
「倒しきった! 結束力がありすぎて、鬼リンクがきついよ」
「いきなりたくさん来るので、思わず笑っちゃいました」
お猿さんが一気に10体以上やってきて、嘘だろって楽しくなる気持ちはわかる。僕も真面目に戦いながら、内心ではなぜか面白くてたまらなかった。
「家の中からとかも出てきて、なんか面白かったね」
「そんなに来る? って感じで、なんだか変に笑っちゃいました」
ひとしきり鬼リンクの話題で盛り上がると、リポップしないうちにと村へと入る。そこそこ広そうな村で、家屋がいくつも存在していた。
ネズミの村って言っていたけれど、もしかしたらネズミ人間てきな村なのかもしれない。
「情報通り、ファニーモンキーしかいないみたいですね」
「家屋の中も調べていこう。いわゆる抽選ポップかもしれないし」
「抽選ですか?」
モルギットが不思議そうな顔になる。
「あっ、ファニーモンキーを倒して、次にポップする時に、なにか他の魔物が出るかもしれない抽選をするっていうことですか?」
「うん。そういうこと。だから家の中とかだったら目立たないし、珍しいのがポップしてもかっこよく思えるし、ありそうでしょ」
モルギットは自力で答えを見つけたようだ。
「はい。探してみましょう」
僕らは家屋をめぐりながら、村の中を探索していった。