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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
129/176

129.白い影の正体

 扉の外は、さっきまでいた石碑の前につながっていた。僕らの前に、白っぽい女性の影が浮かんでいる。

 

「幻幽女です!」


 僕も確認したけれど、幻幽女で間違いはない。ただドロップリストを見ても、何も存在しなかった。

 

『やっと解放された。こんな場所に封印され、百年も寂しい思いをした。封印が弱まり、声が出せるようになって人を呼んでも、謎が解けるものはいなかった』 

 

 説明セリフが続いたけれど、謎なんて解かなくても、レイナがすぐに答えを教えればいい。それだけで解放されるのに、なぜそれをしなかったのか不思議になる。

 

「体が動きません。イベントみたいです」 

「そ、そうだね」 


 せっかくの盛り上げシーンのはずなのに、モルギットは冷静だった。

 

『聞かれたことにしか答えられないという呪いを受けながら、ようやく私は解放されたのです』 

 

 少し言葉が変わって、女性っぽくなってきた。なんで封印されたのかとか、ちょっと興味はあるけれど、幻幽女はレア魔物で討伐対象のはずだ。

 

 このままお礼をしてあげるなんて展開には、きっとなったりしないはずだ。

 

『あなたたちに、解放してくれたお礼をさせてもらうわ』

「あれっ」


 予想外にお礼パターンかもしれない。

 

「ろくでもないお礼な気がします」


 そのパターンもあったかと、自分の単純さに笑ってしまう。


『解放された私の、最初の犠牲者になりなさい!』


 モルギットの予想が正解だった。

 

「体が動きます」 


 いきなりメイスを構えたまま、モルギットが突撃する。

 

「ルード召喚!」 


 何にせよタンクが必要だ。

 

『フゥフォンティ!』

「あぁ」


 メイスを振り下ろそうとしたモルギットが、突然ガクリと膝を崩した。

 

「これ、魔法力を……」


 いきなり力が抜けたせいか、モルギットは言葉をはっきりと言えないようだ。そこへルードがブレイクを使って、幻幽女へと突撃する。

 

「おっ、いい感じだ。ラビィ召喚!」 

 

 黒騎士の槍の性能もあって、素敵にダメージエフェクトが飛び散った。その様子を見ながら、モルギットが幻幽女から少しづつ離れていく。

 

『みなぎるわぁ』 

「ウォーターランスですの!」


 登場した途端に、ラビィが魔法を撃ち込んだ。おそらくモルギットの魔法力を吸収して喜んでいる幻幽女が、その一撃で痛そうな表情を浮かべた。

 

 ちょっとフラフラになりながらも、モルギットが僕の横までやってくる。

 

「すいません。失敗しちゃいました」 

「大丈夫。エリー召喚!」 

 

 幻幽女はエリーが出てくる前に、両手を胸の前で合わせた。

 

『ファフォックロファラマ!』 

「ムーンシールド!」 

 

 空から光の矢が降ってきた。僕はモルギットと重なるようにして、ムーンシールドを空へ展開する。

 

「ぐっ」 

 

 突き抜けてきた一部の光の矢が、僕の右腕に直撃した。軟式野球でデッドボールを受けたくらいの痛みが、僕の動きを阻害する。

 

「ヒール」 

「アクアランスですの!」 

 

 モルギットのヒールで、僕の動きが戻ってくる。ラビィは僕が癒やされるのを見て、攻撃魔法に切り替えていた。

 

「ウピィ」 

 

 そこへファイアショットも飛んでいく。水と火の共演は、さっきの光の矢に負けず劣らず、美しく幻幽女に直撃した。

 

「まだ倒せない? ゾーンの限界を越えてる魔物かよ」 


 ルードが黒騎士の槍の力を開放し、幻幽女に電撃を食らわせた。迸る電撃を浴びているのに、両手を空へと向けて広げた。

 

「まずい。全方位だ! ムーンシールド」

「きゃっ」 

 

 今度は僕らの方だけでなく、周囲に光の矢が降り注いだ。ルード、ラビィ、エリーにも、いくつか矢が当たってしまう。

 

「ゴッデスヒールですの」 

「ヒール」

 

 ラビィがエリーにゴッデスヒール。モルギットがラビィにヒールをかける。ルードは誰も回復していないけれど、元気に槍を振り回していた。

 

「心強いよ。ムーンボール!」 

「ウピィ」 

 

 僕の魔法を追いかけるように、ファイアランスが飛んで行く。三連撃になった魔法は、いい感じに多角形の板を飛ばしている。

 

「まだなのか。さすが封印されていた魔物だね。ムーンブラスト」 

 

 簡単に倒れてくれないならば、少しでもダメージを与えていくしかない。モルギットは最初に魔法力を失っているせいで、強い回復は使えないようだし、さっさと倒してしまいたい。

 

(あっと、忘れちゃいけない) 

 

 改めてドロップリストを確認すると、コモンに裁縫のレシピがあった。卵はでないけれど、確実に手に入れることができそうだ。

 

『フゥフォンティ!』 


 いきなりルードが膝をつく。どんな仕組みかわからないけれど、もともと魔法力の少ないルードには、あまりにも効果的な技だ。

 

「ルード!」 

「エナジーリンク!」


 ルードとモルギットの体が光る。

 

 いつか僕もお世話になった、魔法力回復効果が上昇する魔法だ。

 

「ムーンスピア!」


 だんだんパターンが分かってきた。魔法力を吸収して、みなぎった後に光の矢を発射。使い切ったらまた吸収するという、それの繰り返しだろう。

 

「ウォーターランスですの」 

「ウピィ」 

 

 軽やかなステップから、ラビィが煌めく水の魔法を撃ち込んでいく。おそらくステップに意味はないと思うけれど、なんだか格好良く見える。

 

 そこにファイアショットが合わさって、火と水の芸術のような攻撃が完成した。

 

 さらに魔法力を回復したのか、ルードがムクリと起き上がってくる。

 

「攻撃方法が光の矢しかないところが、この魔物の敗因だ!」

 

 魔法でダメージエフェクトが飛び散る中、ルードが槍を突き出した。

 

「ガモォ!」 

 

 前が見えないくらいに眩しく多角形の板が舞い踊り、やがてそれらが薄れていくと、幻幽女も消えていく。

 

『我は消えぬ。必ずや再び……』 

 

 幻幽女は不穏な言葉を残していく。おそらく何度も戦えるようにするためだろう。

 

 何しろレアドロップには、幻幽女のネックレスというアイテムがあった。一度しか戦えないならば、ほぼ手に入ることはない。

 

「やったね」

「やりました」


 僕らはハイタッチをかわす。思わぬ苦戦を強いられたけど、なんとか無事に倒すことができた。

 

 インベントリを確認したら、目的のレシピはちゃんとドロップしている。コモンとは言え、結構な低確率でドロップしないから、少しだけ不安だったのだ。

 

「あっ、幻幽女のネックレスがドロップしました」

「すごい。レアドロップだよ。おめでとう!」


 僕はモルギットの両手を握り、クルクルと回って踊る。

 

 レアゲットの舞を終えると、モルギットもレアドロップが嬉しいのか、ちょっと顔が赤くなっている。

 

「ありがとうございます」

「それで効果は?」


 モルギットは幻幽女のネックレスを手にとった。

 

「防御力はありませんが、魔法力回復効果上昇です。きっとあのファファファみたいなスキルの効果を、こんな感じで実装してるんじゃないでしょうか」 

「いいね。魔法を使う人にはぴったりだ」


 モルギットは早速それを装備した。胸元で白っぽく輝く感じで、聖職者っぽく見えてくる。

 

「聖女モルギット……」 

「えっ、何言ってるんですか」


 パンッと肩を叩かれる。モルギットは照れているけれど、自分でも何言ってんだと思ってしまうところが、僕の経験の浅いところかもしれない。

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