126.新たな情報
メールを確認してみると、予想通りに運営からだった。正確には、冒険者ギルドからのメールだ。
「いまさら火竜の居場所に関する情報だなんて、どういうことかしら?」
マーミンがメールを見ながら、怪訝な表情を浮かべている。
メールに書かれた内容は、火竜の居場所についての情報を公開するから、冒険者ギルドまでって言う感じだ。
「火竜山の名前のとおりに、火竜はあそこにいるはずでゴンス」
「謎だよねぇ。まあ僕は行くけどね」
「だと思った。一緒に行きたいところだけど、私はちょっと休憩するわ」
マーミンはんーと伸びをしながら、疲れちゃったという感じになっている。
「僕は行くよ。ゴリはどうする?」
「吾輩はナイトメアチャレンジでゴンス」
「それじゃ二人とも、またねー」
「またね」
マーミンはログアウトした。
「それじゃ僕はギルドへ行くよ。そのうちメンバーにも紹介するから、よろしくね」
「よろしくでゴンス」
僕は冒険者ギルドへ向かった。
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あんなメールがあったから、冒険者ギルド前は混雑しているかと思ったけれど、予想に反してプレイヤーの姿は少ない。
既知の情報に見えるから、あまり食指が動かなかったのかもしれない。
そんな事を考えながら、冒険者ギルドへと入る。
「ラルさん、おかえりなさい」
「ただいま。マリー」
最近ちょっとご無沙汰だったけれど、マリーに変わりはないようだ。
「もしかして火竜の情報ですか?」
「そうだよ。火竜の居場所の情報があるんだよね」
僕は今までの情報から、火竜山にある洞窟の奥に、火竜が棲んでいることを知っている。普通に行けばものすごい暑い中を、気をつけて進まなくてはいけない。
普通に考えればこの情報は無用に思えるけれど、自分はなんでも知っていると思ったら大間違いだ。
僕は既知の情報だと思っていても、新たな発見の可能性がある限りは、決して無視したりはしない。
「それでどんな情報なの?」
「これです」
マリーはカウンターの下から、紙を一枚取り出した。
そこに書いて有ることを読んでみたけれど、どうやら今回は、新しい情報はないらしい。でも人によっては、有益な情報が書いてあった。
「チキンヘッドの隠し道が公開されてる」
「ラルさんはすでにご存知なんですね。その隠し道へ行ければ、暑いゾーンを短縮できるんです。とはいえ、完全ではないのですが」
どうやって隠し道を見つけるかは書いていないから、実際に行くのは大変そうだ。
むしろ方法まで書いてたら、楽しみを奪ってしまうから、このくらいの情報公開が良いのかもしれない。
「後はこれです」
「えっ、これは……」
マリーがさらに、紙を取り出した。その紙の見出しには、レア情報公開と書いてある。
「レア情報……レアな魔物情報が書いてある!」
「はい。今回、ギルドの調査班が寝る間も惜しんで作成した情報を、冒険者の皆さんへ公開することになりました。ただこれで全てではないようですので、自力での調査もがんばってくださいね」
「もちろんだよ」
小鬼の森のはぐれ鬼、森狼王、はぐれトカゲまで載っている。ただこれらのレアな魔物は、すでに出会って倒していた。
重要なのは、僕の知らないこの魔物だ。
「幻幽女……」
「はい。夜にしか現れない幽女を倒し続けると、まれに幻幽女が出現するんです。調査員の話では、着物のレシピを持っているみたいですよ」
電流が僕の背中を走る。幻幽女は前に行くなと言われていた、イモキンがいるのと反対にある南の森に出現するらしい。
鬼の村で着物2のレシピは手に入れたけれど、おそらく幻幽女のドロップが、着物1で間違いないだろう。
「でもこの森は、村人から行くなって言われてたんだよね」
「村人でも倒せる芋虫に手を出せば、敵対的になるでしょう。でも無視して倒さなければ、村の人達も怒らないはずです」
よく覚えていないけれど、行くだけなら問題ないようだ。余計な芋虫と戦わないようにして進めば、幻幽女のいるゾーンまで行けるだろう。
「とてもいい情報だったよ」
「レア魔物情報やレアアイテム情報は、今後もギルドの調査員の報告がまとまれば、冒険者の方たちに公開していく予定です」
やっぱり話を聞きに来てよかった。
「それじゃ幻幽女を探しに行ってくるよ」
「夜しか会えないから、気をつけてくださいね」
浮かれていたせいで、夜のことを忘れていた。でもレベルの低いゾーンだし、サクラと二人だけでもいいし、ランプを使っても問題ないはずだ。
「ありがとう。行ってきます」
「いってらっしゃい」
マリーに手を振りながら、僕は冒険者ギルドを出た。
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あいにくと目指す森の側には、ポータルが設置されていない。仕方がないので狼の森のポータルに移動すると、そこからは徒歩で移動する。
この辺りはプレイヤーを見かけないので、僕はすでにラビィとサクラとエリーを召喚していた。
「なんだか久しぶりの一人だなぁ」
「最近一緒に歩けないから、寂しいですの!」
一番最初に契約したラビィが、そんな事を言ってくれる。
「見つかると歩けなくなるからね」
「面倒ですの」
スイッとラビィが僕の手を掴んでくる。寂しくさせた罪滅ぼしではないけれど、そのまま手を繋いで森の小道を進んでいった。
天気も良くて散歩するにもちょうどいい感じだ。街道を歩いている時に、魔物に出会ったことはないので、本当にピクニック気分になってくる。
「マスター。油断なさらないようにしてください」
「ああ、ごめんね。あまりにも気持ちよくてさ」
少し汗ばむくらいの陽気に、爽やかに吹いていくそよ風。魔物のでない安心感に、僕は完全に油断していた。
「では私が警戒します!」
僕がのんきにしている分、サクラが頑張りはじめたようだ。僕を守護する騎士役のサクラに、気楽に行こうぜとは言いにくい。
ちょっとだらけ気分だけど、ここはサクラに任せて、久しぶりの気楽な時間を満喫しよう。
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久しぶりに村に着くと、最初に見つけた村人に、南の森に行ってもいいか確認した。
村人でも倒せる芋虫に手を出さないなら、別に行っても構わないという話なので、僕らはそのまま南へ向かう。
南の森は木の密集度が薄く、太陽の光が多く降り注いでいた。小さめの芋虫をちょろちょろ見かけるけれど、それが例の芋虫で間違いないだろう。
「もっと奥に行くよ」
「おまかせですの」
いつものフレーズに心地よさを感じながら、僕らは南へ進んでいく。やがて芋虫も見えなくなってきたけれど、それ以外の魔物もいなくなってきた。
「まだ明るいから、出現しないみたいだね」
遠くから聞こえてくる鳥のさえずりや、降り注ぐ陽の光を見ていると、とても幽霊が出てくるとも思えない雰囲気だ。
エリーはピピィと言いながら飛び回り、ラビィは草の上でゴロンと丸くなっている。サクラだけは警戒しているけれど、特に危険なことはないようだ。
「夜まで待つか……」
僕もラビィの横で、仰向けに寝そべった。なんだか気持ちよくなってきて、鳥の声に誘われるように、僕はいつしか眠くなってしまっていた。