125.クラン加入希望者
メイン火力だったリックがいなくなったことで、ナイトメアは無理という話になり、そのままパーティは解散になった。
僕は手に入れたレシピを確認するために、クランハウスへと戻ることにする。
「やっほー」
「いよぉ、クランクエストの方は終わったの?」
ポータルから戻ると、エントランスのソファにマーミンが座っていた。僕はそんな事を言いながら、マーミンの向かいのソファに座る。
「疲れるクエストだったけど、なんとかクリアできたわ」
「やったね」
なんとなくクリアできるだろうと予想していたけれど、どうやらそれは正しかったようだ。
「っで、ラルは何してたの?」
「パーティマッチングを使って、鉱山迷宮のナイトメアに行ってきたよ。なんとかクリアできたけれど、しばらくはパーティマッチングはやりたくないね」
興味深そうにマーミンが体を乗り出してきた。
「ほほー、何があったわけ?」
「キャラが濃い人と面倒な人と初心者のパーティだったんだけど、いろいろ疲れちゃって」
僕の言葉に頷きながら、マーミンはソファにもたれかかった。
「ラルは気を使うタイプだからね。気にしなくて良いことまで、気にして頑張ったんじゃないの?」
穏やかに楽しみたいから、争ったり競い合うのは好きではない。さらに知らない人が多いと、ちょっと人見知りっぽくなるのも、影響しているはずだ。
「気を使うというか、普通にしてるつもりだけど、なんかドッと疲れたよ……」
僕もソファの背もたれに、思い切りよしかかる。フカフカのソファは気持ちよくて、そのまま寝てしまえそうだ。
コンコンコンッ。
うとうとしそうだった僕の意識を、ノックの音が呼び覚ます。
クランクエストかなと思っていたら、小部屋から見知らぬ女の子が姿を見せた。
誰かが言っていた、メイド姿の少女だった。
(子供っぽいメイドか……。人気は根強いよね)
「どちら様ですか?」
「ラルさんはいるでゴンスか? 吾輩はゴリでゴンス」
どうやらクランクエストではなく、さっき一緒だったゴリが来たらしい。
「あれ、クエストじゃないのかしら。ラルの知り合い?」
そう言いながらマーミンが、僕の隣へと移動してくる。
「さっきナイトメアで一緒だった、濃いキャラのヒーラーだよ」
「マスター、いいですか?」
僕は少女の方を向いて頷いた。
「どうぞ」
クランハウスの扉が開くと、さっき見た黒ローブのゴリが入ってくる。
「さっきぶりでゴンス」
「そうだね。よかったらそこに座ってよ」
僕はさっきまでマーミンが座っていたソファを指差した。
「失礼するでゴンス」
ゴリが座ったのを見計らって、僕は何しに来たのか聞いてみる。
「それでどうしたのって……あれ。なんでここがわかったの?」
ここに来た目的を聞こうと思ったけれど、こっちの疑問が先に来た。名乗りはしたけれど、クランのことなど話していないし、フレンド登録もしていない。
「ラルさんは有名でゴンス。その見た目、召喚師という職業。極めつけはあの金色の鬼でゴンス。それで確信したでゴンス」
「ラルはちょくちょく話題になるからね」
ゴリの言葉を、マーミンまでが補足する。見た目で目立っている自覚はあるけれど、僕がいないところで話にでるほど、目立っているとは思わなかった。
「だからクランがわかったんだね。それでどうしたの?」
「レアハンターズに加入したいでゴンス!」
意外な話だった。少しの時間しか一緒にいなかったけれど、何かゴリの気にいるところがあったんだろうか。
「いいわよ。うちのクランは来るもの拒まず、去るもの滅殺だからね」
「滅殺はマリーシアが……って、去るもの追わずだからね。で、入る前に一応話しておくことがあるよ」
マーミンはいきなりオッケーを出したけれど、ルールを説明しなくてはならない。僕はゴリへ向けて、指を三本出して説明する。
「ルールは三つだ」
「えっ、ルールなんてあるの?」
サブリーダーのマーミンが、そんなことを言い出した。そこに突っ込むと時間がかかるので、ここはスルーして説明する。
「まずは他人に迷惑をかけない。クランメンバーを贔屓しない。クランに参加しても、なんの義務も責任ももたない。この三つだ」
「へー」
マーミンがそうなんだ、みたいな感じで言ってくる。
「へーじゃないんだよ。サブリーダーなら知っててよ」
「でも言われたことないじゃない」
「具体的には言ってないかもしれないけれど、ある意味マーミンたちには普通でしょ」
「まぁね。でもちゃんと言ってくれないと、わからないっていうか……」
「そろそろイチャつくのをやめるザンス」
えっと思ってゴリを見る。ゴンスがザンスに変わったことで、そっちに集中してしまう。
「作戦成功でゴンス」
「やるじゃない」
「それは良いとして、なんでレアハンターズに?」
来るもの拒まずだから、断るつもりはないけれど、一応理由は聞いておきたい。
「レベルが35を越えてから、頻繁にクランに誘われるようになったでゴンス。どこのクランもノルマがあって、窮屈そうなので断ってるでゴンス」
それですぐに理解した。誘われすぎて鬱陶しいので、適当にクランに参加しておきたいってことだろう。
「たまたまレアハンターズの赤さんと一緒のパーティになった時に、クランの話を聞いたでゴンス。その時はすぐに参加しようとは思わなかったでゴンスが、さっきラルさんと一緒になって、ぜひ参加したくなったでゴンス!」
縁があったということだろう。一緒にプレイしても悪い人には思えなかったし、参加することに問題はない。
「お二人は同じマントを装備してるでゴンスが、もしかしてメンバーは装備しなくちゃ駄目でゴンスか?」
「いや。そういうわけじゃないよ。このイモキンマントは……」
「私とラルのペアルックだから、ゴリは装備しちゃ駄目よ」
マーミンの言葉にどきりとする。リアルでペアルックとか双子も経験ないけれど、偽物とは言え美人にこんなことを言われたら、ちょっと鼓動も速くなる。
「ぺ、ペアルックじゃないよ」
「えー、照れなくてもいいじゃない。このこの」
マーミンが拳を握って中指を立て、それを僕の脇腹に押し付けてゴリゴリしてくる。女子との憧れのシチュエーションに、翻弄されてしまいそうだけれど、からかわれっぱなしも悔しくなる。
「ちょっと、やめてよ」
なのにそんなことを言いながら、思わず堪能してしまう。ちょっと女の子っぽく言ってしまっているのは、緊張したせいかもしれない。
「イチャつきはやめるザンス!」
「ふふっ、ごめんなさいね」
「イモキンマントはメンバーで一緒にドロップしたから、みんな持ってるだけだから」
今更ながら、僕はそんな説明をする。
「クランに誘ってくれでゴンス」
「あっ、そうだね」
僕はゴリをクランに招待する。
「ありがとでゴンス」
これで話が落ち着いた。なんとなくまったりとしてしまう。
「あっ、上を見るでゴンス」
「上?」
平屋だったはずのクランハウスに、二階ができていた。一階と同じような扉が増えているので、メンバーが七人になったから、勝手に増築したのかもしれない。
「へー、人数が増えたら大きくなるみたいね」
「個人の部屋は確実にもらえるんだ。いい仕様だよね。ならゴリは二階のどこでも選んでいいよ。一階は埋まってるから」
「了解でゴンス!」
早速ゴリは二階へ上がっていく。僕らもなんとなくそれについていった。
ゴリが階段すぐの部屋に入ると、僕らも一緒に中へと入る。見た目は一階の部屋と同じで、置かれている最低限の家具も一緒だった。
「あら、窓からの景色が違うわね」
部屋の奥にある窓から、街を見ることができた。でも二階という高さのせいで、それほど感動はしなかった。
「もっと高いところからみたいな」
「十階くらいからなら、たかーいって感じでいいわよね」
そんな事を話しながら、窓から外を見ていたら、すいっとゴリも近づいてきた。
「咲いた花は美しい。とはいえ、蕾もまた美しいものでゴンス」
んって思ったけれど、これを翻訳するならば、十階の景色も綺麗だろうけれど、二階の景色だって捨てたものではないってことだろう。
「成熟した女は綺麗だけど、ロリも大好きって宣言かしら?」
「絶対に違うでゴンス!」
会ったばかりのはずなのに、マーミンは仲良さそうな感じになっていた。初めて会った時からそうだけれど、マーミンのコミュニケーション能力は、ちょっとうらやましくなってくる。
「あれ? メールだ」
メールの着信を知らせる音が聞こえてきた。
「私にも来たわ」
「吾輩もでゴンス」
どうやら同時に来てるらしい。と言うことは運営からのメールかもしれない。