124.諦めが早いリック
戦闘は順調だった。リックがカイトを続け、僕らが黒い巨人に攻撃する。
「この調子で行くぜ。連撃」
「レタヒール」
ウィザードが槍でなんども黒い巨人へ攻撃する。ハワワもダメージを受けているみたいだけれど、ちゃんとゴリが回復していた。
「これなら勝てるわ。それっ、それっ」
エリスもウィザードに追随するようにして、短剣でなんども攻撃をする。手数は多いけれど、やっぱりダメージは少なめだ。
「ムーンボール」
「ゴッデスヒール」
ハワワも攻撃しているけれど、いまいちダメージが出ていない。僕は魔法で攻撃しながら、少しづつ嫌な予感がしてきていた。
(このままじゃ注目が維持できなさそうだ。名乗って欲しいけれど、カイト中の魔物を連れてきちゃうから、タイミングをあわせなきゃだめだ)
軽快にウィザードが槍で黒い巨人を突いている。いい感じに多角形の板が飛んでいるから、近接攻撃ではウィザードが一番で間違いない。
でも最初の名乗りの分の注目を越えれば、ターゲットはウィザードに変わる。でもその時にはきっと、先にゴリへ跳ねるだろう。
「ゴリ! そんなに回復して、跳ねたりしないのか?」
僕と同じように、ウィザードも懸念していたらしい。
「跳ねるってなによ」
エリスはゲーム経験が浅いのか、時々こうやって聞いてくる。
「タンクが魔物からの注目を維持できないで、他のメンバーに攻撃することだ。って言うか、本当にそろそろやばいぜ」
不意に黒い巨人が歩き出した。ハワワを無視するようにして、ゴリへ向かって歩いたのだ。
「やべぇ。ハワワ! 名乗るんだ」
「待っ……」
「僕の名前はハワワ!」
僕の制止は遅かった。見事にカイトを巻き込んで、全ての魔物がハワワへと向かってくる。
「闇のご加護を」
そう言うとリックが、パーティから抜けてしまった。途中で抜けたらどうなるのか知らなかったけれど、どうやら迷宮の外へ放り出されるらしい。
「リックがいなくなったよ」
「パーティから離脱したら、強制転送だ。って言うか、諦めが早すぎだぜ」
リックは倒されるのが嫌で、すぐにパーティを抜けたのだろう。僕だってパンチを受けて、倒されるのは嫌だけれど、途中で諦めて離脱しようなんて、そんな発想自体が出てこない。
「ゴッデスヒール! レタヒール!」
「あっ」
ゴリのヒールがハワワに飛んだけれど、大岩石人形の攻撃数発と、黒い巨人のパンチを受けて、その姿を消してしまう。
どうやら召喚された大岩石人形も、かなりの攻撃力を持っているらしい。
(道中を耐え抜いたタンクを瞬殺するなんて、とんでもないバランスブレイカーだ)
ハワワを倒した魔物たちは、全てがゴリへと向かっていく。タンクがいなくなった以上、僕らにできることはない。
「あっ、一つだけあった。ルード召喚!」
魔法陣が現れ、黒騎士の槍を携えたルードが現れる。
「ガモォ!」
「ルード。ボスを頼む!」
リックが抜けてくれたおかげで、パーティの枠に空きができた。思わず召喚したけれど、戦闘中には召喚できないとかいうあの制限はどうなったんだろう。
(単純に勘違いだったかもしれない。倒された召喚獣が、再召喚できないって話だったかも)
自分でやっておきながら、なんで召喚できたのか気になった。
「ガァァァモォォォ!」
でもそんな疑問を吹き飛ばすかのように、ルードが雄叫びを上げる。
黒い巨人も大岩石人形も、その一撃でルードの方を向いた。
「金色の鬼? すげぇ、これが召喚獣なのか」
「格好いいかも……」
見た目が格好いいのは否定しない。僕もルードは大好きだ。でも大事なのは、あの攻撃を耐えられるかだ。
フッとルードの姿が霞むと、黒い巨人へ近接していた。どうやらブレイクを使って、一気に突進したらしい。
しかもそこからサークルアタックのコンボを決める。
「ルード! その調子だ」
反撃とばかりに、黒い巨人、大岩石人形から、パンチやキックが繰り出された。それを体で受けながらも、ルードは微動だにしない。
「やるでゴンスな。ヒールでゴンス」
ゴリのゴンスも復活だ。どうやらルードのあの装備は、ナイトメアでも通用するらしい。なにより最近、レベルアップを頑張っていたのも幸運だ。
いつの間にか僕らは、鉱山迷宮のナイトメアレベルに達していたみたいだ。
ガンガンとルードは、槍で黒い巨人を突き刺していく。時折、電撃が迸って見えるのは、黒騎士の槍の特殊効果だ。
「めちゃめちゃすげぇな。連撃!」
「私も負けないわ!」
全員から注目を浴びても、ルードは完璧に耐えている。黒い巨人も攻撃力が高いだけで、他にギミックは持っていないのかもしれない。
「ゴッデスヒールでゴンス」
皮肉にもリックが抜け、ハワワが倒されたことで、戦闘が安定してきた。
「ムーンスピア!」
今のルードは硬いタンクでありながら、黒騎士の槍のおかげでダメージ量も期待できる。アタッカーを兼任する勢いで、ガシガシダメージを与えていた。
「ムーンブラスト」
「ガァァァモォォォ!」
無限召喚がわかっているから、大岩石人形には誰も手を出さない。それでも耐えられるのだから、まさしくルードさまさまだ。
ただ魔物が集まっているから、エリスは黒い巨人へ攻撃しにくいみたいだ。ウィザードは槍だから、隙間から通せるけれど、短剣で近接が必要なエリスには、ちょっと難度が高いだろう。
「うーん。入り込めない……」
「無理せず待機でいいよ。ムーンボール」
待機をお願いした途端、エリスがチアガールのように応援しだした。
「フレフレみんな、がんばれみんな!」
「任せとけ!」
ウィザードは気合が入った感じだけど、僕は緊迫した戦闘なのに力が抜けていく。リラックスできると言えば、聞こえはいいけれど、脱力というほうに近い。
「ああ、ムーンブラスト!」
僕の魔法に合わせるように、ルードはブレイクを叩き込む。
「ヒールでゴンス」
もう大分削ったと思うけれど、やっぱり黒い巨人は特殊な攻撃をしてこない。
「そろそろいけるか! 連撃」
「がんばーれ、ウィザード」
「ムーンアップ」
僕はルードに効果上昇の魔法をかける。
「行くよ、ルード。ムーンボール!」
「ガァモォ!」
ガーンという雷が黒い巨人にぶち当たり、僕の魔法が追い打ちをかける。激しくダメージエフェクトを散らしながら、やっと黒い巨人は消えていった。
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鍛冶レシピ:鉱石1 を手に入れました
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心の中で叫びを上げる。一番欲しかったアンコモンが、いきなり僕にドロップした。
「よっしゃ、討伐完了だ!」
「やったぁ!」
ウィザードとエリスが、抱き合いながら喜んでいる。
ドロップは嬉しかったけれど、この状況では喜べなくて、僕はゴリと見合ってしまった。
ただゴリはフードを被っているので、見合っているはずだって言う予想だけれど。
「ルード送還」
「あっ、戻すのか」
本来召喚する予定ではなかったので、僕はすぐに送還した。このまま戻ってしまったら、ハワワの立場が無くなりそうで心配になったのだ。
「たまたまリックが抜けたから召喚できたけれど、もともとその予定はなかったから」
「そうか。でも召喚獣って凄いんだな。何体か見たことあるけど、あんなに強いのは初めてだぜ」
「私も。可愛いのは見たことあるけれど、シュッとして格好良かったわ」
褒められるのは悪い気分ではない。でもここで話をしていたら、ハワワが心配するだろう。
「ハワワが待ってるし、外に出ようよ」
「そうでゴンス!」
ナイトメアボスの討伐と、レシピのドロップにホクホクしながら、僕らは迷宮から脱出した。