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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
123/176

123.ナイトメアの黒い巨人

 あれから仲良くなったウィザードとエリスは、連携もいい感じになっていた。エリスの与えるダメージは少ないけれど、無駄な被弾などがなくなったおかげで、倒すペースが上がっている。

 

(これでついにボス部屋前だ) 


 そうやってボス部屋の前まで来ると、ウィザードが地面に座り込んだ。

 

「ちょっと休憩だ。ここのボスと戦った経験のあるやつはいるか?」 

 

 僕は首を横に振った。

 

「私は初めてよ」 

「僕も初めてです」 

 

 どうやらエリスとハワワも初めてらしい。

 

「我は沈黙のヒーラー。黙して語らずでゴンス」


 ここで言わないのかいっとか言いたいけれど、僕はちょっと人見知りなので、そこまでの勇気は出なかった。

 

「言えよ!」 

 

 変わりというわけでもないけれど、ウィザードが言ってくれた。

 

 だけどゴリは首を横に振る。今までと違って、本当に沈黙のヒーラーになったらしい。


「ならリックは?」 

「闇のお導きのままに」

 

 何言ってるんだとしか思えないけれど、リックとゴリの二人は経験者な気がした。

 

「経験者は二人だけ。っで、話す気もないって感じだな」 

  

 ウィザードも未経験だった。でも僕と同じように、ゴリとリックは経験者だと予想しているみたいだ。

 

「まあハードまでのボスを見れば、どうせ硬くてでっかいやつがボスだろう。ハワワが耐えて、ゴリがヒール。みんなで攻撃だな」 

「硬くて……でっかい……」 

 

 エリスが意味ありげにつぶやいた。

 

 そして僕は自分にイライラしてくる。はっきり言って僕は下ネタが嫌いだ。なのにこれを下ネタだと感じてしまう自分に、一番ムカついてしまう。

 

「どうでもいいから早く戦おう。未知なボスが相手なら、やってみないとわからない」 「あ、ああ。それもそうだな」

 

 ちょっと口調がきつくなってしまったので、ウィザードは戸惑っているようだ。口に出して謝ると、変な雰囲気になりそうなので、僕は心のなかで謝った。

 

「我が神が急かしている。早く戦えと。すぐに行くでゴンス!」 

 

 ゴリは空気を読むのがうまい。僕のせいで変になりそうな状況を、うまくロールプレイで流してくれた。

 

「よし。行くぜ」 

 

 ウィザードが扉に触れると、僕らはボス部屋へと転送された。

 

--------------------------


 ナイトメアのボス部屋は、あまりにも雰囲気が違った。部屋の僕の方に黒い靄がかかり、そこに真っ赤な眼が浮かんでいる。

 

「怖いわ」 

「大丈夫だ。俺が守る!」


 エリスとウィザードのやり取りで、僕の怖いなって気分も吹き飛んだ。体が動かないのはイベント中だからなので、そのまま黒い霧を見つめていた。

 

 すると周囲の壁から、岩が剥がれて吸い込まれていった。黒い霧に雷が走り、バチバチと放電する。

 

「闇の力だ!」 


 やがて黒い霧が収束していくと、そのに真っ黒な巨人が現れた。背丈は3メートルくらいあるだろう。

 

 材質は何でできているかわからない感じだけれど、人型の黒い巨人だった。

 

「戦闘開始だ! ハワワ!」 


 ウィザードが黒い巨人へ走り込みながら、ハワワに声をかける。

 

「はい。僕の名前はハワワ!」 


 待ってと言おうとしたけれど、それは少し遅かった。黒い巨人がすぐに攻撃してこないので、何かしらあると思っていたけれど、予想通りに黒い巨人の背後の床に、いくつか魔法陣が浮かんできた。

 

「眷属召喚って感じだ。連撃!」 

 

 魔法陣からなにかが浮かんでくる前に、ウィザードは黒い巨人へ攻撃する。ダメージエフェクトが飛んでいるから、無敵状態ってわけでもないらしい。

 

 エリスもウィザードについていっているので、ボスへ短剣で攻撃していた。でもわずかに多角形の板が飛ぶだけで、いい感じのダメージは出せていない。

 

 そこへ魔法陣から、2メートル位の岩石人形が出現する。名前を見ると『大岩石人形』となっていて、ドロップアイテムは存在しなかった。

  

 ついでにボスも確認したら、黒い巨人となっている。見た目で勝手に決めていたけれど、偶然にも名前は一致していた。

 

(ドロップリストに黒い巨人のエッセンスがある。しかも鉱石に関する鍛冶レシピがあるじゃないか!)


 エッセンスはウルトラレアだけれど、鍛冶レシピの方はアンコモンだ。もしこれが手に入るならば、装備をさらに強化できるかもしれない。

 

「中爆裂!」 

 

 黒い巨人の背後から現れた、5体の大岩石人形を巻き込む感じで、リックが魔法を放った。でもそれは自殺行為だ。ハワワの名乗りがないのにそれをやれば、5体ともリックへ向かってしまう。

 

「僕の名前はハワワ!」

 

 ハワワはスキルを使おうとするけれど、リキャストタイムがあるから発動はしない。スキを見せたハワワに向けて、黒い巨人がものすごい勢いで拳を振り下ろす。

 

「レタヒール、ゴッデスヒール!」


 ゴリが嘘っぱちの詠唱も、ゴンスの語尾もつけていない。どうやらナイトメアのボス戦では、そんな余裕はないらしい。

 

 リックはボスから離れるようにして、いきなり走り出した。

 

「ナイスだリック。そのままカイトしてくれ!」 

「カイトってなによ?」


 僕はいろいろゲームをやっているので、リックが何をしようとしたか理解した。ウィザードも経験豊富なようで、すぐに意図を理解したらしい。

 

「魔物を引き連れて走り回ることだよ。凧揚げみたいな感じだから、カイトって呼ばれてるんだ」 

 

 ハワワが名乗れるようになるまで、それで時間稼ぎをするつもりだ。もしかしたら、ボスに集中攻撃させる目的で、ずっとカイトするつもりかもしれない。

 

「もしかして、それを倒したらまた召喚されるの?」 

「闇のお導きのままに!」


 それで僕は理解した。どうやら大岩石人形は無限召喚らしい。だからカイトすることで、次の召喚を防いでいる。

 

 でも一番のダメージソースとなりそうなリックが、それをやるのはいただけない。とは言え、まとめてダメージを与えられるのはリックだけだったし、苦渋の決断とも言える。


「ムーンボール!」 

「ヒール!」 

「リック、わかったぜ。ハワワ、もう名乗るんじゃないぞ」 

「わかりました!」 

 

 リックは部屋の壁際を走り回っているので、時折ボスの後ろも通る。もしも名乗った時に近くにいたら、全部がハワワへ向かってしまう。

 

(でもそれで注目を維持できるのかな) 

 

 ふっと不安がよぎるけれど、それはこっちの力量次第だ。

 

「ムーンスピア」 

 

 なんだか面白くなってきた。ハワワが注目を維持しているうちに倒せるのか。リックはカイトし続けられるのか。


 一筋縄ではいかない黒い巨人を見つめながら、僕のワクワクは止まらなくなっていった。

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