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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
122/176

122.罠解除のその後で

 少しづつ慣れてきた僕らは、順調に洞窟を進んでいった。ハードとかでもあった鍵の掛かった扉を見つけると、ウィザードが飛び上がった。

 

「おっしゃ! レア出現扉だぜ!」

「レア出現?」


 レアと聞いて、思わず反応してしまった。

 

「そうだ。扉の縁をよく見てくれ。うっすら赤くなっているだろう? これがレア確定の印なんだ。ノーマルやハードでも同じだから、行かなくてもレアがいるかわかるんだよ」

「そういう仕組みなんだ」


 よく見ないと気が付かないけれど、無駄足にならないようにギミックがあったらしい。


「エリス頼むぜ!」

「えっ、まさか鍵開けのこと?」


 エリスが右手を口に当てながら、不思議そうに言った。

 

「当たり前だろ。斥候と言えば罠はずしに鍵開け。期待してるぜ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。私は戦闘系斥候っていったでしょ。鍵開けとか無理よ」


 ウィザードの顎ががくんと落ちる。間違いなくエリスは最初にそう言っていたから、僕は罠解除とか苦手なんだろうなとは予想していた。

 

 でもちゃんと聞いていなかったのか、それとも斥候なら当たり前と思っていたのか、ウィザードの顔が真っ赤になっている。

 

「おいおい。斥候が鍵開けできないとかどうかしてるぜ。レア出現扉なんだぞ。しかもナイトメアなんだ。これが目的で来てるようなもんじゃねぇか!」

「そう言われても最初に言ったじゃない。私は戦闘系斥候だって」

 

 そんな事を言っても、ウィザードはおさまりがつかないらしい。

 

「鍵開けできない斥候とか、ありえないだろ」 

「ありえないから最初にちゃんと話したんじゃない」


 パーティマッチングは初めてだけれど、ある意味でよくあることだろう。お互いのことをよくわかっていないから、ちょっとしたことでトラブルになってしまう。

 

「おお! 我が神はおっしゃった。全員で挑戦せよと。誰かに責任をなすりつけるのではなく、平等に全員が挑戦せよとおっしゃった!」


 ゴリが両手を天へ向けながら、そんな事を言いだした。普通のパーティならば役割があって、鍵開けは斥候とかが普通だ。

 

 でもそういうパーティではないのだから、揉めずに先へ進もうという言葉を言い換えた、いい感じの提案だ。

 

「いいアイディアだね。なら僕が最初に挑戦するよ」 


 これ以上揉めるのも嫌なので、強引に話を進めようと扉へ近づいた。

 

「ちょっと待てよ。鍵開け技能を持ってるのか?」

「ないけど挑戦はできる。確率は低いけれど、不可能ってわけでもないさ」

 

 少しでも可能性があるならば、不可能ではないのだ。

 

「しょうがねぇ。全員でやるか」 

「僕もそれが良いと思います」

 

 リックからの返答はないが、反対ならば何か言うだろう。僕から鍵開けに挑戦したけれど、何もできない内に失敗になった。

 

(やっぱりナイトメアの鍵はレベルが高い。専門職で鍛えてないと、まず不可能だろうな)


 僕の失敗でウィザードが落胆しているが、その間にリックが挑戦をはじめた。でも技能を持っていないのか、予想通りに失敗してしまう。

 

「悪いな。闇の力はとっておきなんだ」 

 

 闇の力を使えばできるけど、とっておきだから無理だよ―っていう言い訳だった。

 

「むむむむむっ、天の力、地の力、この鍵を開け……」 

 

 ゴリはそこまで言うと振り向いた。

 

「ることは出来なかったでゴンス!」 

 

 挑戦している時は、パーティにはその様子が見えるので、失敗しているのはわかっていた。失敗するにしても、全く粘ることもできていない。

 

 鍵の難易度が高すぎて、手も足も出ないのだ。

 

「くそっ、次は俺だ!」 

 

 もしかしてっと思うよりも早く、ウィザードは失敗していた。

 

「難しすぎだろ!」

 

 ガンっと扉を叩きながら、ウィザードは吐き捨てるようにそういった。期せずして、全員の視線がエリスへと向かう。

 

「そ、そんなに期待されても、私は戦闘系なんだから……」 

 

 言い訳をしながらも、エリスは扉へと歩いていく。

 

「うらみっこなしだからね」 

 

 そう言うと、エリスは鍵開けをはじめた。

 

(おっ、パズルだ)

 

 前にもやったことがある、絵をバラバラにしてから並び替えて、それを元通りに戻すパズルだった。

 

 僕が見た時は分割数が少なかったけれど、どれだけバラバラだってくらい、パーツが多くなっている。

 

(斥候だと制限時間が伸びるんだな。そこに期待したいけれど……) 

 

 エリスはカシャカシャと並べ替えていくけれど、元の絵のようには近づいていない気がする。

 

 適当に並べてるんじゃないかと思った時、少しだけ上のほうが、元の絵のように見えてきた。

 

「おっ、元通りになってきたぜ!」 

 

 なんだかよくわからなくなりながらも、全体的に元の絵っぽくなってくる。でも違和感のあるパーツを正しい場所に移動しようとするだけで、なんどもカシャカシャと動かさなくてはならない。

 

「がんばれ! 残りは20秒だ!?」 

「エリスさん。がんばってください!」 

 

 ウィザードとハワワが声援を送る。それに元気を得たのか、エリスの手の動きが加速した。

 

「みんなが私を見てる! 注目されてるぅ!」 

 

 罠解除や鍵開けは、斥候の見せ場とも言える。当然パーティならば注目するけれど、エリスは有名人的に目立つのが好きなのかも知れない。

 

「あと少しだ!」 

 

 もう少しなのに、パーツが上手く収まっていない。ものすごい分割数を並び替えて、ここまで出来るだけでも凄いけれど、完成させなければ鍵は外せないのだ。

 

「あっ」 

 

 絵がスゥッと消えていった。成功した時は爆発するはずなので、ぎりぎりで失敗してしまったらしい。

 

 こっちを向いてシュンとするエリスに、ウィザードが口を開く。

 

「惜しかったな! でも次はうまく行くぜ!」

「すごかったです。戦闘系って言っても、エリスさんは最高でした」


 てっきり罵倒でもするかと思ったら、そこまで外道ではなかったらしい。エリスの頑張りを見て、応援する気持ちが強くなったようだ。

 

「我が神もナイスチャレンジと言っているでゴンス。失敗は残念でゴンスが、良いものを見させて貰ったでゴンス」 

「ふっ、お前が闇に目覚めていたなら、きっと成功していたくらいよかったぜ」 

 

 エリスはみんなから声をかけられて、なんだかモジモジとしはじめた。

 

「エリスもすごかったし、ボスへ向けて頑張ろう!」


 なんとなく嫌な予感がしたので、僕は先へ進もうと提案する。でもメンバーの反応よりも、エリスのほうが速かった。

 

「失敗の罰として、私脱ぎます!」 

「脱ぐとか言うんじゃねぇ!」 

 

 エリスがえっという表情で固まった。僕もまさかと思ったけれど、今のは間違いなくウィザードの言葉だ。

 

 さっき胸当てを外した時にはにやけていたのに、今は真剣な顔になっている。

 

「いいか。女が軽く人前で脱ぐとか言うんじゃない。そして言わなくても脱ぐな。俺が言いたいのはそれだけだ」 

「ウィザード……」


 エリスの頬がポッと赤くなり、奥へと歩き出したウィザードを小走りで追いかける。


 すぐに追いつくと、ウィザードの左手にエリスは右腕を絡めた。


「おい。なんで腕なんて組むんだよ」

「こんな危険な場所で、女の子を一人にするつもりなの?」


 そっと下から見上げるエリスに、ウィザードも頬を赤らめていた。

 

「しょうがねぇな。俺が守ってやるから離れるんじゃねぇぞ」 

「はい」 

 

 すっかりしおらしくなったエリスと、ウィザードが仲良く腕を組んで歩いて行く。

 

「ハワワ。先に行かないと二人が危ないよ」 

「えっ、ああ。すいません。僕が先頭で行きます!」 

 

 ガシャガシャと金属が打ち合う音を響かせながら、ハワワは二人を追いかける。

 

「意外な展開でゴンス」 

「闇の加護のおかげだろう」 

 

 何にせよ、これでトラブルは解消だ。いろいろ気を使うのにはちょっと疲れたけれど、これはこれでランダムパーティの醍醐味とも言える。

 

 トラブルのない狩りは単調とも言えるし、何かが起きるには一人では難しい。

 

 僕はフルパーティを満喫しながら、初めてのナイトメアのボスのことを考えて、なんだかワクワクしてしまった。

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